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第一章/馴れ初め
【回想】気前の良い人、せこい人
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僕の私塾は、学校に入る前の小さな子に魔法を教えるところから始まった。
その子たちが成長するにつれ、いつの間にか僕の塾には学校へ通いながら来てくれる子も増えた。
少しずつ経営は軌道に乗り…といっても、それほど儲かったわけじゃない。
ただ、学友の方々に借りたお金を少しずつ返せるくらいにはなってきた。
でも、お金を返そうとした時、学友の方々からは返さなくていいと説得された。
会長…ザイン様は「タビトを帝都に留めておくための必要経費だ」と言い、
ラビエ様は「学校で受けた暴力に対する慰謝料だと思えばいいよ」と言い、
シュバイス様は「そんな事よりお前のところの塾生に稽古をつけてやる」と言い、
バイツ様は「その金で肉を買え、肉を」と言った。
それでも自分の気が済まなくて少しずつ返した。
そうしたら今度はそのお金で、家に居場所が無い子を私塾へ住みこませて欲しいと言われた。
僕は数人の子どもと同居することになった。
食費を浮かす為と食育も兼ねて、屋敷の庭を少しずつ畑に変えていった。
そうしたらザイン様が「成長期の子どもには牛乳だ!」と言って牛を連れて来た。
ラビエ様は「卵は完全食だから!」と言って鶏小屋を建ててくれて、
シュバイス様は「剣だけでなく乗馬も教えてやる!」と言って馬を連れて来た。
バイツ様は「あいつら…動物の飯の事も考えろよ」と言って牧草畑と豆畑を作ってくれた。
生徒会のみなさんのおかげで、僕の塾はとっても豪華になった。
一生懸命お礼を言ったら、
ザイン様は「子どもたちのためだからね」と言い、
ラビエ様は「タビトもしっかり食べなよ!」と言い、
シュバイス様は「そんな事より乳しぼりと卵とりを覚えろ」と言い、
バイツ様は「豪華…?」と首を傾げた。
その後、シュバイス様の指導により、僕は何とか鶏から卵をもらう事が出来るようになった。
そうして最初の塾生たちが学校を卒業して、彼らは魔導師や騎士になった。
時々視察に来るザイン様やラビエ様、バイツ様の影響もあってか、中央で役人になる子も出て来た。
みんな立派に成長して、羽ばたいていった。
僕は国に学費を返さなくても良くなった。
そんなある日、一人の男の子が中年男性に連れられて塾へやってきた。
その男は言った。
「私はあのケンプファー子爵家の家令である」
「なんとなんと!それは大変光栄に御座います」
僕はさっと跪き、大げさに驚いてみせた。
この頃になると僕もいい加減「帝国貴族」の扱いを覚えていたのだ。
ケンプファー子爵家は帝都でも有名な実業家であり旧家でもある…と、その男は言った。
「この子は子爵様のお情けを得た女が産んだ子だ。
その女が死んだが為に、子爵様はこの子を寛大なお心で保護されたが、屋敷に置けば家が乱れる。
だが打ち捨てる訳にもいかない。
お優しい子爵様は心を痛めておられるのだ」
つまり、彼は子爵の愛人の子か。
成長して子爵に似てきて誤魔化しが効かなくなったのか、将来の手駒にと考えているか、何か目的があって引き取った…というところだろうか。
僕は男の前で跪いたまま、大げさに共感してみせつつ彼の欲しいであろう言葉を吐いた。
「それは…子爵様程の方であれば尚更で御座いましょう、私に出来る事があれば何なりと」
すると男は大仰に頷き、僕に命令した。
「ならば、この子を育てる権利をお前にやろう。
だがこの子はあくまで子爵様の縁者、ケンプファー様からの預かり物である事を忘れるなよ」
「…ははっ…有難き幸せ」
その後、その男は子爵の「お慈悲」だと幾ばくかの金を渡して帰って行った。
いくらかを自分の懐へ納めたのだろう、金の入った袋の封は開きっぱなしになっていた。
その子たちが成長するにつれ、いつの間にか僕の塾には学校へ通いながら来てくれる子も増えた。
少しずつ経営は軌道に乗り…といっても、それほど儲かったわけじゃない。
ただ、学友の方々に借りたお金を少しずつ返せるくらいにはなってきた。
でも、お金を返そうとした時、学友の方々からは返さなくていいと説得された。
会長…ザイン様は「タビトを帝都に留めておくための必要経費だ」と言い、
ラビエ様は「学校で受けた暴力に対する慰謝料だと思えばいいよ」と言い、
シュバイス様は「そんな事よりお前のところの塾生に稽古をつけてやる」と言い、
バイツ様は「その金で肉を買え、肉を」と言った。
それでも自分の気が済まなくて少しずつ返した。
そうしたら今度はそのお金で、家に居場所が無い子を私塾へ住みこませて欲しいと言われた。
僕は数人の子どもと同居することになった。
食費を浮かす為と食育も兼ねて、屋敷の庭を少しずつ畑に変えていった。
そうしたらザイン様が「成長期の子どもには牛乳だ!」と言って牛を連れて来た。
ラビエ様は「卵は完全食だから!」と言って鶏小屋を建ててくれて、
シュバイス様は「剣だけでなく乗馬も教えてやる!」と言って馬を連れて来た。
バイツ様は「あいつら…動物の飯の事も考えろよ」と言って牧草畑と豆畑を作ってくれた。
生徒会のみなさんのおかげで、僕の塾はとっても豪華になった。
一生懸命お礼を言ったら、
ザイン様は「子どもたちのためだからね」と言い、
ラビエ様は「タビトもしっかり食べなよ!」と言い、
シュバイス様は「そんな事より乳しぼりと卵とりを覚えろ」と言い、
バイツ様は「豪華…?」と首を傾げた。
その後、シュバイス様の指導により、僕は何とか鶏から卵をもらう事が出来るようになった。
そうして最初の塾生たちが学校を卒業して、彼らは魔導師や騎士になった。
時々視察に来るザイン様やラビエ様、バイツ様の影響もあってか、中央で役人になる子も出て来た。
みんな立派に成長して、羽ばたいていった。
僕は国に学費を返さなくても良くなった。
そんなある日、一人の男の子が中年男性に連れられて塾へやってきた。
その男は言った。
「私はあのケンプファー子爵家の家令である」
「なんとなんと!それは大変光栄に御座います」
僕はさっと跪き、大げさに驚いてみせた。
この頃になると僕もいい加減「帝国貴族」の扱いを覚えていたのだ。
ケンプファー子爵家は帝都でも有名な実業家であり旧家でもある…と、その男は言った。
「この子は子爵様のお情けを得た女が産んだ子だ。
その女が死んだが為に、子爵様はこの子を寛大なお心で保護されたが、屋敷に置けば家が乱れる。
だが打ち捨てる訳にもいかない。
お優しい子爵様は心を痛めておられるのだ」
つまり、彼は子爵の愛人の子か。
成長して子爵に似てきて誤魔化しが効かなくなったのか、将来の手駒にと考えているか、何か目的があって引き取った…というところだろうか。
僕は男の前で跪いたまま、大げさに共感してみせつつ彼の欲しいであろう言葉を吐いた。
「それは…子爵様程の方であれば尚更で御座いましょう、私に出来る事があれば何なりと」
すると男は大仰に頷き、僕に命令した。
「ならば、この子を育てる権利をお前にやろう。
だがこの子はあくまで子爵様の縁者、ケンプファー様からの預かり物である事を忘れるなよ」
「…ははっ…有難き幸せ」
その後、その男は子爵の「お慈悲」だと幾ばくかの金を渡して帰って行った。
いくらかを自分の懐へ納めたのだろう、金の入った袋の封は開きっぱなしになっていた。
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