弟子と師匠と下剋上?

紫蘇

文字の大きさ
上 下
8 / 31
第一章/馴れ初め

【回想】好転・暗転

しおりを挟む
そうして、僕の入学当時のクラスメイトは、ついに誰もいなくなった。

だけど今のクラスの人たちは、僕の「級友」が消えた事を何とも思っていないようだった。

それどころか、

「あんな馬鹿を野放しにしなければならないほどこの国は腐ってきているのだ」と憤り、
「何度も会長に進言していたのだが、ようやくか」と言って、僕を受け入れてくれた。
そして「君が搾取されているのを快く思っていた者はいない」と弁明され、先生までが「彼らに注意する度に君が虐げられるのを見て、何も言えなくなってしまったんだ」と謝罪してくれた。

元々このクラスは成績上位者だけで構成されていることも、その時初めて知った。

そうして、本当の学校生活を手にしたけれど…



その頃には、僕は何かを攻撃しようとすると体がこわばるようになっていた。



僕が学校に通わせてもらうための条件は「将来魔導師となって魔物や敵国の兵士と戦う事」だったから、これは致命的な欠陥だった。

だけど、生徒会の人たちは僕を擁護してくれた。

「…やつら、帝国に対して大きな損失を出してくれたものだ」
「まとめて瘴気の森へぶち込んどけばぁ?」
「確かに、これはそういった類の損失だからな」
「タビト程の魔法の才を潰したのだ、妥当だろう」

そういって怒ってくれた。

僕はせめて後方で役に立てればと、神の言葉を学び、治癒の勉強を始めた。
魔物を殺すのではなく魔界へ返せないかと、魔界の言葉も勉強した。

その他にもこの学校で学べるものは何でも学んだ。
どれかで何かの役に立てるのじゃないかと思って。

1年目にやられた虐めので、頭に知識を詰め込むのは得意になっていたし、課題を押し付けてきた「級友」ので、要点を素早くまとめるのも得意になってた。

とはいえ、全く未知の分野は何から学べば良いかも分からなくて途方に暮れたけど。

こんな僕に、生徒会のみなさんは本当に良くしてくださった。
勉強を教えてくれて、息抜きにと観劇や美術館巡りに連れて行ってくれて、教養を高めさせてくれた。
帝都を散策して、都会というものを教えてくれた。
お茶会や晩餐会に何度も呼んでもらって、本当の礼儀作法も教えてくれた。

本当にたくさんの事を学ばせて頂いたんだ。

だからどうにかして彼らの役に立ちたいと思った。



……でも、それは結局実らなかった。



彼らの将来は「中央で国家運営に携わる」事に決まっていて、そこへ僕みたいな「属国の平民」が入り込む余地はなかったのだ。


「僕の秘書として中央へ来ないか」と会長が誘ってくれたけど、彼が就いたのは宰相補佐官で、仕えるためには最低でも子爵位が必要だった。

「だったら僕の補佐官になるかい」とラビエ様やバイツ様が誘ってくれたけど、お二人は貴族院議員になられており、彼らの元で働こうにも、中央に戸籍が無い人間は下働きすら許されない。

そしてシュバイス様はエリートが集まる黒獅子騎士団に入団され、ついていくのは土台無理だった。



中央で働けないなら、学費は返さなければならない。
途方にくれた僕は、鉱山へ行こうと思った。
稼げる場所が、それしか思いつかなかったんだ。

だけどその時、会長が僕に言ってくれた。

「タビトは、本当に色んな事を学んだよね。
 今度はそれを子どもたちに教えるのはどう?
 僕もラビエもバイツもシュバイスも、君に援助は惜しまないと約束するよ。
 タビトは大事な……学友、だからね」

僕はいつの間にか、彼らの学友と認められていたらしい。

嬉しくてつい「ありがとうございます」と言ったら、これまたいつの間にか、帝都の端のあまり目立たないような場所に大きな家が用意されていて……。

そうして僕は、そこで私塾を始めた。

優秀な子を育てて彼らに報いたいと思ったからだ。

その塾生ですら、最初は学友の方々に紹介してもらう始末で、どんどん恩が溜まっていくのだけど。

それでも自分が何かの役に立てていたらいいなと思いながら、僕は子どもたちを教え続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...