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第一章/馴れ初め
【回想】学友との出会い
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ある日、僕は1人の上級生に図書館で言われた。
「君は何故、自分を救ってくれた人物に対し、礼の一つも言いに来ないのだ」と。
僕は頭を深く下げて、答えなかった。
いつも口を開けば不敬罪と言って殴られるからだ。
それが気に入らなかったのか彼はさらに言った。
「応えなさい、それとも喋れないのか」
僕は頷いた。
喋れないわけじゃないけど、喋ったら罰せられるのだから同じ事だ。
「ならば仕方が無い、しかしここは帝国だ。
属国ではどうか知らないが、この学校の中では帝国の流儀に従って君はその方に礼をするべきだ。
来なさい」
そうして、僕は生徒会室に連行されてしまった。
***
生徒会室に入ると、そこには見目麗しい人々が勢ぞろいしていた。
こういう時には跪くものだと知っていた僕は、床に膝を付き頭を深々と下げた。
「会長、3年A組、タビトを連れて参りました」
「ああ、やはりそういう事になったのか…。
ごめんねタビト君、怖くなかったかい?」
僕は首を横へ振った。
「…大丈夫、喋っても不敬になんてならないから…
話してくれないか?」
「……。」
「君は喋れるはずだ。
魔法の実習で、見事な詠唱を聞いたよ?」
「……。」
僕はやっぱり話せなかった。
そう言われて喋った途端、いつも「礼儀知らず」と言って殴られるからだ。
僕を連れてきた人が言った。
「お前、ザイン様の言葉が信じられないのか?
そのほうが不敬なんじゃないのか」
そんな事言って、喋ったらもっと不敬だと言うに決まっている。
「級友」よりも身分が高そうな人たちだし、殴られるだけでは済まないかもしれない…
そう思った時、会長と呼ばれた人が彼に言った。
「黙りなさい、シュバイス。
彼がそうやってずっと傷つけられてきた事を知らぬわけではあるまい」
「ですが、ザイン様」
「ですが、ではない。
彼が礼を言いに来ない事を、ただの礼儀知らずだと思うのはなぜなんだい?
それにもう一つ忠告するが、帝国と同じく、属国でも、助けて貰ったら礼を言うのが美徳だ。
どこでそれほどの属国差別を覚えて来たのか知らないが、帝国の恥になる前に改めなさい」
会長にそう言われたシュバイス様は狼狽えた。
僕もびっくりした。
何処で聞いていたんだろうって。
後で聞いた話だと、当時のシュバイス様は時々暴走するきらいがあったので、会長は彼に会話を盗み聞きできる道具を付けさせていたのだそうだ。
そんな魔道具もあるのだなあと感心したのを覚えている。
話を戻そう。
シュバイス様は会長に言い訳しようとした。
「いえ、違うのです、あれは、その……」
「そもそも、彼が礼を言いに来ない理由はすでに調べがついている。
彼は「級友」とやらに助けられた…と、彼らに勘違いさせられているからだ」
すると、僕を連れて来たシュバイス様が驚いて会長に抗議した。
「なっ…、ザイン様、なぜそれを教えてくれなかったのですか!?」
「君がカッとなって、話も聞かず飛び出したんじゃないか。
この話を始めた途端、これほど長く礼を失しているのは許せん、とか言って…
私の話の要旨はそこで無いというのに」
「……そ、れは……申し訳、ありません。
タビトも…嫌味を言って悪かった、すまん」
「!!?」
シュバイス様は僕にまで謝ってくれた。
この学校に来て初めて、僕は人間らしい扱いを受けてますます頭を垂れた。
それを見た会長は、ため息をついて言った。
「今回の問題はだね、彼が「級友」とやらにしてやっていることが、あまりに行き過ぎているということだ。
能力と成績が合致しなさすぎてA組から苦情が上がってきているくらいにね。
だからね、タビト君、彼らの分の課題をやってやるのはもう終わりにしなさい。
それから、試験の度に答えを見せてやるのも」
「……っ」
簡単に言ってくれる。
そうしなければ、彼らが僕をどうするか…
「………………。」
僕は、彼らの奴隷なのに。
「君は何故、自分を救ってくれた人物に対し、礼の一つも言いに来ないのだ」と。
僕は頭を深く下げて、答えなかった。
いつも口を開けば不敬罪と言って殴られるからだ。
それが気に入らなかったのか彼はさらに言った。
「応えなさい、それとも喋れないのか」
僕は頷いた。
喋れないわけじゃないけど、喋ったら罰せられるのだから同じ事だ。
「ならば仕方が無い、しかしここは帝国だ。
属国ではどうか知らないが、この学校の中では帝国の流儀に従って君はその方に礼をするべきだ。
来なさい」
そうして、僕は生徒会室に連行されてしまった。
***
生徒会室に入ると、そこには見目麗しい人々が勢ぞろいしていた。
こういう時には跪くものだと知っていた僕は、床に膝を付き頭を深々と下げた。
「会長、3年A組、タビトを連れて参りました」
「ああ、やはりそういう事になったのか…。
ごめんねタビト君、怖くなかったかい?」
僕は首を横へ振った。
「…大丈夫、喋っても不敬になんてならないから…
話してくれないか?」
「……。」
「君は喋れるはずだ。
魔法の実習で、見事な詠唱を聞いたよ?」
「……。」
僕はやっぱり話せなかった。
そう言われて喋った途端、いつも「礼儀知らず」と言って殴られるからだ。
僕を連れてきた人が言った。
「お前、ザイン様の言葉が信じられないのか?
そのほうが不敬なんじゃないのか」
そんな事言って、喋ったらもっと不敬だと言うに決まっている。
「級友」よりも身分が高そうな人たちだし、殴られるだけでは済まないかもしれない…
そう思った時、会長と呼ばれた人が彼に言った。
「黙りなさい、シュバイス。
彼がそうやってずっと傷つけられてきた事を知らぬわけではあるまい」
「ですが、ザイン様」
「ですが、ではない。
彼が礼を言いに来ない事を、ただの礼儀知らずだと思うのはなぜなんだい?
それにもう一つ忠告するが、帝国と同じく、属国でも、助けて貰ったら礼を言うのが美徳だ。
どこでそれほどの属国差別を覚えて来たのか知らないが、帝国の恥になる前に改めなさい」
会長にそう言われたシュバイス様は狼狽えた。
僕もびっくりした。
何処で聞いていたんだろうって。
後で聞いた話だと、当時のシュバイス様は時々暴走するきらいがあったので、会長は彼に会話を盗み聞きできる道具を付けさせていたのだそうだ。
そんな魔道具もあるのだなあと感心したのを覚えている。
話を戻そう。
シュバイス様は会長に言い訳しようとした。
「いえ、違うのです、あれは、その……」
「そもそも、彼が礼を言いに来ない理由はすでに調べがついている。
彼は「級友」とやらに助けられた…と、彼らに勘違いさせられているからだ」
すると、僕を連れて来たシュバイス様が驚いて会長に抗議した。
「なっ…、ザイン様、なぜそれを教えてくれなかったのですか!?」
「君がカッとなって、話も聞かず飛び出したんじゃないか。
この話を始めた途端、これほど長く礼を失しているのは許せん、とか言って…
私の話の要旨はそこで無いというのに」
「……そ、れは……申し訳、ありません。
タビトも…嫌味を言って悪かった、すまん」
「!!?」
シュバイス様は僕にまで謝ってくれた。
この学校に来て初めて、僕は人間らしい扱いを受けてますます頭を垂れた。
それを見た会長は、ため息をついて言った。
「今回の問題はだね、彼が「級友」とやらにしてやっていることが、あまりに行き過ぎているということだ。
能力と成績が合致しなさすぎてA組から苦情が上がってきているくらいにね。
だからね、タビト君、彼らの分の課題をやってやるのはもう終わりにしなさい。
それから、試験の度に答えを見せてやるのも」
「……っ」
簡単に言ってくれる。
そうしなければ、彼らが僕をどうするか…
「………………。」
僕は、彼らの奴隷なのに。
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