6 / 31
第一章/馴れ初め
【回想】学友との出会い
しおりを挟む
ある日、僕は1人の上級生に図書館で言われた。
「君は何故、自分を救ってくれた人物に対し、礼の一つも言いに来ないのだ」と。
僕は頭を深く下げて、答えなかった。
いつも口を開けば不敬罪と言って殴られるからだ。
それが気に入らなかったのか彼はさらに言った。
「応えなさい、それとも喋れないのか」
僕は頷いた。
喋れないわけじゃないけど、喋ったら罰せられるのだから同じ事だ。
「ならば仕方が無い、しかしここは帝国だ。
属国ではどうか知らないが、この学校の中では帝国の流儀に従って君はその方に礼をするべきだ。
来なさい」
そうして、僕は生徒会室に連行されてしまった。
***
生徒会室に入ると、そこには見目麗しい人々が勢ぞろいしていた。
こういう時には跪くものだと知っていた僕は、床に膝を付き頭を深々と下げた。
「会長、3年A組、タビトを連れて参りました」
「ああ、やはりそういう事になったのか…。
ごめんねタビト君、怖くなかったかい?」
僕は首を横へ振った。
「…大丈夫、喋っても不敬になんてならないから…
話してくれないか?」
「……。」
「君は喋れるはずだ。
魔法の実習で、見事な詠唱を聞いたよ?」
「……。」
僕はやっぱり話せなかった。
そう言われて喋った途端、いつも「礼儀知らず」と言って殴られるからだ。
僕を連れてきた人が言った。
「お前、ザイン様の言葉が信じられないのか?
そのほうが不敬なんじゃないのか」
そんな事言って、喋ったらもっと不敬だと言うに決まっている。
「級友」よりも身分が高そうな人たちだし、殴られるだけでは済まないかもしれない…
そう思った時、会長と呼ばれた人が彼に言った。
「黙りなさい、シュバイス。
彼がそうやってずっと傷つけられてきた事を知らぬわけではあるまい」
「ですが、ザイン様」
「ですが、ではない。
彼が礼を言いに来ない事を、ただの礼儀知らずだと思うのはなぜなんだい?
それにもう一つ忠告するが、帝国と同じく、属国でも、助けて貰ったら礼を言うのが美徳だ。
どこでそれほどの属国差別を覚えて来たのか知らないが、帝国の恥になる前に改めなさい」
会長にそう言われたシュバイス様は狼狽えた。
僕もびっくりした。
何処で聞いていたんだろうって。
後で聞いた話だと、当時のシュバイス様は時々暴走するきらいがあったので、会長は彼に会話を盗み聞きできる道具を付けさせていたのだそうだ。
そんな魔道具もあるのだなあと感心したのを覚えている。
話を戻そう。
シュバイス様は会長に言い訳しようとした。
「いえ、違うのです、あれは、その……」
「そもそも、彼が礼を言いに来ない理由はすでに調べがついている。
彼は「級友」とやらに助けられた…と、彼らに勘違いさせられているからだ」
すると、僕を連れて来たシュバイス様が驚いて会長に抗議した。
「なっ…、ザイン様、なぜそれを教えてくれなかったのですか!?」
「君がカッとなって、話も聞かず飛び出したんじゃないか。
この話を始めた途端、これほど長く礼を失しているのは許せん、とか言って…
私の話の要旨はそこで無いというのに」
「……そ、れは……申し訳、ありません。
タビトも…嫌味を言って悪かった、すまん」
「!!?」
シュバイス様は僕にまで謝ってくれた。
この学校に来て初めて、僕は人間らしい扱いを受けてますます頭を垂れた。
それを見た会長は、ため息をついて言った。
「今回の問題はだね、彼が「級友」とやらにしてやっていることが、あまりに行き過ぎているということだ。
能力と成績が合致しなさすぎてA組から苦情が上がってきているくらいにね。
だからね、タビト君、彼らの分の課題をやってやるのはもう終わりにしなさい。
それから、試験の度に答えを見せてやるのも」
「……っ」
簡単に言ってくれる。
そうしなければ、彼らが僕をどうするか…
「………………。」
僕は、彼らの奴隷なのに。
「君は何故、自分を救ってくれた人物に対し、礼の一つも言いに来ないのだ」と。
僕は頭を深く下げて、答えなかった。
いつも口を開けば不敬罪と言って殴られるからだ。
それが気に入らなかったのか彼はさらに言った。
「応えなさい、それとも喋れないのか」
僕は頷いた。
喋れないわけじゃないけど、喋ったら罰せられるのだから同じ事だ。
「ならば仕方が無い、しかしここは帝国だ。
属国ではどうか知らないが、この学校の中では帝国の流儀に従って君はその方に礼をするべきだ。
来なさい」
そうして、僕は生徒会室に連行されてしまった。
***
生徒会室に入ると、そこには見目麗しい人々が勢ぞろいしていた。
こういう時には跪くものだと知っていた僕は、床に膝を付き頭を深々と下げた。
「会長、3年A組、タビトを連れて参りました」
「ああ、やはりそういう事になったのか…。
ごめんねタビト君、怖くなかったかい?」
僕は首を横へ振った。
「…大丈夫、喋っても不敬になんてならないから…
話してくれないか?」
「……。」
「君は喋れるはずだ。
魔法の実習で、見事な詠唱を聞いたよ?」
「……。」
僕はやっぱり話せなかった。
そう言われて喋った途端、いつも「礼儀知らず」と言って殴られるからだ。
僕を連れてきた人が言った。
「お前、ザイン様の言葉が信じられないのか?
そのほうが不敬なんじゃないのか」
そんな事言って、喋ったらもっと不敬だと言うに決まっている。
「級友」よりも身分が高そうな人たちだし、殴られるだけでは済まないかもしれない…
そう思った時、会長と呼ばれた人が彼に言った。
「黙りなさい、シュバイス。
彼がそうやってずっと傷つけられてきた事を知らぬわけではあるまい」
「ですが、ザイン様」
「ですが、ではない。
彼が礼を言いに来ない事を、ただの礼儀知らずだと思うのはなぜなんだい?
それにもう一つ忠告するが、帝国と同じく、属国でも、助けて貰ったら礼を言うのが美徳だ。
どこでそれほどの属国差別を覚えて来たのか知らないが、帝国の恥になる前に改めなさい」
会長にそう言われたシュバイス様は狼狽えた。
僕もびっくりした。
何処で聞いていたんだろうって。
後で聞いた話だと、当時のシュバイス様は時々暴走するきらいがあったので、会長は彼に会話を盗み聞きできる道具を付けさせていたのだそうだ。
そんな魔道具もあるのだなあと感心したのを覚えている。
話を戻そう。
シュバイス様は会長に言い訳しようとした。
「いえ、違うのです、あれは、その……」
「そもそも、彼が礼を言いに来ない理由はすでに調べがついている。
彼は「級友」とやらに助けられた…と、彼らに勘違いさせられているからだ」
すると、僕を連れて来たシュバイス様が驚いて会長に抗議した。
「なっ…、ザイン様、なぜそれを教えてくれなかったのですか!?」
「君がカッとなって、話も聞かず飛び出したんじゃないか。
この話を始めた途端、これほど長く礼を失しているのは許せん、とか言って…
私の話の要旨はそこで無いというのに」
「……そ、れは……申し訳、ありません。
タビトも…嫌味を言って悪かった、すまん」
「!!?」
シュバイス様は僕にまで謝ってくれた。
この学校に来て初めて、僕は人間らしい扱いを受けてますます頭を垂れた。
それを見た会長は、ため息をついて言った。
「今回の問題はだね、彼が「級友」とやらにしてやっていることが、あまりに行き過ぎているということだ。
能力と成績が合致しなさすぎてA組から苦情が上がってきているくらいにね。
だからね、タビト君、彼らの分の課題をやってやるのはもう終わりにしなさい。
それから、試験の度に答えを見せてやるのも」
「……っ」
簡単に言ってくれる。
そうしなければ、彼らが僕をどうするか…
「………………。」
僕は、彼らの奴隷なのに。
1
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる