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第一章/馴れ初め
【回想】ろくでもない思い出
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今日の授業が終わって、僕は職員室へ戻る。
「待たせ過ぎたかなあ…」
とはいえ、エルデ・ケンプファー君とここの校長は僕の私塾で知り合ってからの仲だから、きっと積もる話でもしているだろう。
「それにしても、9年ぶりか…」
9年前は、まだ僕は私塾の経営者だった。
最初は通いの子だけだったけど、住込みで学ぶ子も出てきて塾はいつも賑やかだった。
僕は子どもたちと寝食を共にし、色々何とかやりくりしながら生活していた。
学友の方々の助けで何とか経営できていたその私塾だけど、ついに7年前潰れてしまった。
潰れた理由は、色々ある。
でも一番の理由は、僕が戦えない人間だったからだ。
子どもたちを守ることなら何とか体は動いた。
だけどそれ以上、戦う事が出来なくて。
そう……僕は、何もできない。
敵意を向けられると、身体が震えて出来ないんだ。
そうなってしまったのは、僕が12歳で帝都の魔道学校へ入学した後だった…
***
それは入学式の次の日だった。
「おい、属国民。
お前みたいなのが教室にいると臭くてたまらないから出て行け」
「そうだそうだ、貧乏臭いのがこっちにも映っちまうぜ!」
「……」
「何とか言えよ!!」
「その、別に、臭くは…」
「こいつ口ごたえしたぞ!不敬罪だ!!」
「処刑しろ!窓から吊るせ!!」
そういって寄ってたかって殴られた後、本当に首にカーテンを巻かれて窓から吊るされた。
その時は吊るされる瞬間に風魔法でカーテンを切って脱出して事なきを得たのだけど、そうしたら、許可無く魔法を使ったと今度は教師に殴られた。
次の日は噴水で溺死させられそうになって、水の精霊に助けてもらった。
そして、学校で教えていないことをやったと、教師から今度は鞭と謹慎をくらった。
寮のベッドは叩き壊されて、クローゼットからは何もかもが無くなり、教科書は全て破かれた。
毎日蹴られたり、殴られたり、着ている制服を皆の前で破かれたりもした。
教師は見て見ぬふりどころか、逃げるのは甘えだと僕を叱責して雑用を押し付けた。
僕はその学校の特待生だった。
帝国には、属国の平民でも魔力が特に多くて読み書きの達者な子どもをタダで良い学校に通わせてもらえる制度があって、僕の家はあまりお金がなかったから、タダで学校に行けて寮にも入れてご飯もついてくるって言われてすぐに飛びついたんだ。
子どもが働きに出たって、稼げるお金はたかが知れてる。
それなら僕への出費がないほうがずっと家の為になると思ったんだ。
だけど、テストを受けて良い点数を取らないとお金がかかるって聞かされて…。
途中でやめたら、入学金もそれまでのお金も請求されるって言われて、どうしようもなかった。
家に帰れない僕は、破かれた制服を何とか継ぎ合わせて、教科書が無いから図書館で借りて、内容を全部頭に詰め込んでから授業を受けた。
ノートも筆記用具も当然無かったから、授業の内容も頭に詰め込んだ。
そうして1ヶ月とちょっと経った頃…
その壮絶な虐めは、急に幕を閉じた。
僕を虐めていた子、それを笑ってみていた子、僕を罰した教師までが学校から追放されたからだ。
そして、僕のクラスには3人だけが残った。
それが僕の「級友」だ。
彼らは僕に言った。
「属国の平民のくせに我が帝国で最も誇り高き学校へ入る輩など、きっと汚い手を使ってまで我ら帝国貴族にたかりにきた蛭なのだろうと思っていた。
だが、君はどうやら違うらしい。
これからは級友として君を扱ってやろう、感謝するが良い」
…「帝国の貴族」は「属国の平民」をどう見ているのか、この時はっきり分かった。
「級友」は僕に新しい制服と文具と教科書やたくさんのレポート用紙を与えてくれたけど、それは彼らの為に尽くすのに必要なものだったからだ。
彼らは言った。
「君ほどに身分の低い者が帝国貴族の一員たる我々と空間を共にするためには、君が奴隷である必要があるんだよ、分かるね」
僕は彼らが恐ろしすぎて、授業が終わるとすぐに図書館や自習室へ逃げ込んだ。
寝るのも寮ではなく、物置小屋を選んだ。
それでも彼らの奴隷として生活する事からは逃れられなかった。
食事だけは代替案が見つからなかったからだ。
学友と呼べる人が出来たのは、それから2年後の事だった。
「待たせ過ぎたかなあ…」
とはいえ、エルデ・ケンプファー君とここの校長は僕の私塾で知り合ってからの仲だから、きっと積もる話でもしているだろう。
「それにしても、9年ぶりか…」
9年前は、まだ僕は私塾の経営者だった。
最初は通いの子だけだったけど、住込みで学ぶ子も出てきて塾はいつも賑やかだった。
僕は子どもたちと寝食を共にし、色々何とかやりくりしながら生活していた。
学友の方々の助けで何とか経営できていたその私塾だけど、ついに7年前潰れてしまった。
潰れた理由は、色々ある。
でも一番の理由は、僕が戦えない人間だったからだ。
子どもたちを守ることなら何とか体は動いた。
だけどそれ以上、戦う事が出来なくて。
そう……僕は、何もできない。
敵意を向けられると、身体が震えて出来ないんだ。
そうなってしまったのは、僕が12歳で帝都の魔道学校へ入学した後だった…
***
それは入学式の次の日だった。
「おい、属国民。
お前みたいなのが教室にいると臭くてたまらないから出て行け」
「そうだそうだ、貧乏臭いのがこっちにも映っちまうぜ!」
「……」
「何とか言えよ!!」
「その、別に、臭くは…」
「こいつ口ごたえしたぞ!不敬罪だ!!」
「処刑しろ!窓から吊るせ!!」
そういって寄ってたかって殴られた後、本当に首にカーテンを巻かれて窓から吊るされた。
その時は吊るされる瞬間に風魔法でカーテンを切って脱出して事なきを得たのだけど、そうしたら、許可無く魔法を使ったと今度は教師に殴られた。
次の日は噴水で溺死させられそうになって、水の精霊に助けてもらった。
そして、学校で教えていないことをやったと、教師から今度は鞭と謹慎をくらった。
寮のベッドは叩き壊されて、クローゼットからは何もかもが無くなり、教科書は全て破かれた。
毎日蹴られたり、殴られたり、着ている制服を皆の前で破かれたりもした。
教師は見て見ぬふりどころか、逃げるのは甘えだと僕を叱責して雑用を押し付けた。
僕はその学校の特待生だった。
帝国には、属国の平民でも魔力が特に多くて読み書きの達者な子どもをタダで良い学校に通わせてもらえる制度があって、僕の家はあまりお金がなかったから、タダで学校に行けて寮にも入れてご飯もついてくるって言われてすぐに飛びついたんだ。
子どもが働きに出たって、稼げるお金はたかが知れてる。
それなら僕への出費がないほうがずっと家の為になると思ったんだ。
だけど、テストを受けて良い点数を取らないとお金がかかるって聞かされて…。
途中でやめたら、入学金もそれまでのお金も請求されるって言われて、どうしようもなかった。
家に帰れない僕は、破かれた制服を何とか継ぎ合わせて、教科書が無いから図書館で借りて、内容を全部頭に詰め込んでから授業を受けた。
ノートも筆記用具も当然無かったから、授業の内容も頭に詰め込んだ。
そうして1ヶ月とちょっと経った頃…
その壮絶な虐めは、急に幕を閉じた。
僕を虐めていた子、それを笑ってみていた子、僕を罰した教師までが学校から追放されたからだ。
そして、僕のクラスには3人だけが残った。
それが僕の「級友」だ。
彼らは僕に言った。
「属国の平民のくせに我が帝国で最も誇り高き学校へ入る輩など、きっと汚い手を使ってまで我ら帝国貴族にたかりにきた蛭なのだろうと思っていた。
だが、君はどうやら違うらしい。
これからは級友として君を扱ってやろう、感謝するが良い」
…「帝国の貴族」は「属国の平民」をどう見ているのか、この時はっきり分かった。
「級友」は僕に新しい制服と文具と教科書やたくさんのレポート用紙を与えてくれたけど、それは彼らの為に尽くすのに必要なものだったからだ。
彼らは言った。
「君ほどに身分の低い者が帝国貴族の一員たる我々と空間を共にするためには、君が奴隷である必要があるんだよ、分かるね」
僕は彼らが恐ろしすぎて、授業が終わるとすぐに図書館や自習室へ逃げ込んだ。
寝るのも寮ではなく、物置小屋を選んだ。
それでも彼らの奴隷として生活する事からは逃れられなかった。
食事だけは代替案が見つからなかったからだ。
学友と呼べる人が出来たのは、それから2年後の事だった。
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