弟子と師匠と下剋上?

紫蘇

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第一章/馴れ初め

困った弟子

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エルデ・ケンプファー君は僕の自慢の弟子だ。

とはいえ、自慢じゃない弟子は一人もいない。

魔導師になった子が1番多いけど、騎士になった子もいれば、裁判官になった子もいるし、外交官として活躍している子もいるし、魔法の教師として帝国で一番の学校で教鞭を執る子もいるし…。

みんな僕なんかを軽々と追い越して活躍している。

師匠として嬉しい限りだけど、時に複雑でもある。

弟子を妬んだ人たちに細々とやっていた私塾が潰されてしまったりとか、たくさん酷い目にも合ってきたけど、まあそんなことはどうでも良くて。

師匠としての立場が無い、というか…
今の職場も、弟子にあてがってもらったし。
立派に育った弟子たちが、今も僕なんかを慕ってくれるのが…

何というか、重い。

そんな弟子たちの中で、一番優秀で一番重たいのが、エルデ・ケンプファー君なのだ。

彼は若くして帝国筆頭魔導師にまで上り詰め、当然そうなるまでには様々な偉業を成してきた。

悪竜ドラゴン討伐に成功したり。
精霊と邂逅して魔法を教わったり。
召喚魔術を成功させて使い魔を使役したり。
瘴気の森を1人で浄化したり。


「瘴気の森」というのは、人から忘れられた場所に魔物が大量発生する現象だ。

それを放っておくと魔物たちの殺し合いが始まり、強い魔物たちだけが残る。
そしてその魔物たちがさらに魔物を呼んで使役し、また殺し合い……それを繰り返して、遂には最強の魔物「魔王」が生まれ、それが大量の魔物を率いて人の界を蹂躙し始める。

だから、その強い魔物たちが魔物を呼ぶ前に全てを倒しきらないと大変なことになる。
その強い魔物たちを残らず退治するのを「浄化」と呼んでいるんだ…

つまり「瘴気の森」を1人で浄化するというのは1人で強い魔物を全部倒しきること。


悪竜ドラゴン討伐以外、全て前人未踏の偉業だ。

そんな彼が僕を慕ってくれるのは、正直言って荷が重い……というか、何というか……。

魔法もそれほど使える訳でないし、
剣なんてもっと使えない。
僕は誰かを傷つけるとか、そういうのが苦手で…
魔物相手でも、戦う事に躊躇してしまうんだ。

でも、弟子はみんなそれを自分自身で克服して、戦うとなったら躊躇しない。
命の取り合いにも踏み込んでいける…
彼ら・彼女らは、僕が教えられない事を自分で学んで成長していったんだ。

今教えている子たちも、立派に育っていって欲しい。
僕みたいな偽物の優しさじゃなくて、本当の優しさを持った子に育って欲しい…

僕に出来るのは、知識を教える事だけ。

偉そうに言える事なんて何もない…

はず、なんだけど。


……


突然職場に訪ねて来たエルデ・ケンプファー君に、僕は言った。

「こういうのは!
 お互いに合意が無いとっ!
 駄目なんだよっ!!」

すると、彼は何て言ったと思う?

「合意を頂けなくても結構。
 欲しい物は手に入れる主義なので」

今は授業中だっていうのに、そんな事言われても困るし……小さな子どもたちには刺激が強すぎるキスをされるのも困る。


全く、どうしてこんな事になったんだろう…
僕は続く彼の言葉に頭を抱える。


「タビト、私はあなたが欲しい、身も心も全て。
 ああ当然、私もあなたに全てを捧げます。
 これについて同意が得られないのであれば、あなたを帝都に連れ帰り私の屋敷に監禁します。
 差し当たり、まずあなたの全身を性的に開発し、快楽漬けにして私なしでいられない体にします。
 それと並行して、あなたを徹底的に甘やかし、私への依存心を育て上げます。
 それが終わり次第、社会的にもあなたは私のものだと知らしめるために婚姻関係を結び、死ぬまで一緒に暮らします。
 当然墓も隣同士…いや、一緒にしましょう、死んでも一緒がいい。
 そして来世も一緒になれるよう神に交渉します」


……僕の弟子が、とんでもない事を言い始めた。
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