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収まるべきところへ
ついに来た、この日
しおりを挟む……
………
「親父…覚悟、出来た?」
「…もうちょっと、待って」
親子してなんでこんな目に…って、二人して遠い目をする。
俺は白いローブに純白のドレス。
親父は黒いローブに純白のドレス。
「…女装は、人生の選択肢に無かったな」
「安心しろ、父さんもだ」
朝から王家の紋章を下げた馬車に乗せられて、王都の大神殿へ運ばれて、慣れないメイクして、慣れないヘアセットして、慣れない服を着せられて、今控室。
立て籠もる俺と親父を呼びに来た声がする…
メルバ父さんだ。
「…そもそも、あいつが言い出したんだ、ドレスを着せたいって」
「ええ!?」
「ミリエッタさんのドレスを見ていたら妄想が膨らんだんだとさ」
「えっ」
何その失礼極まる話!
ミリエッタさんにも親父にも謝りなさい!!
…って、あれ?
「でも、ダリル様はドレスは技術継承の為って、」
「そんなの屁理屈に決まってるだろ!!
ドレスならカリーナ様のやつをいくらでも作ればいいんだから!」
「あっ…わ~…騙された…!!」
言われてみればその通りだ。
何もウエディングドレスじゃなくったって!
外からはメルバ父さんの声に加え、セジュールの声も聞こえるようになった。
どうやらもう時間いっぱい…ええい!!
「親父、行こう。
一言文句言いに行こう」
「…そうだな」
こうなったら恥ずかしさを怒りで塗り替えるしかない!
出るぞ!!
***
……
「……誓いますか?」
はっ!?
やばい、いつの間にか入場して結婚の誓いに!
「誓います」
「ち、誓いましゅ、す!」
いきなりすぎて噛んだ。
恥ずい。
「それでは誓いのキスを」
ダリル様と向かい合う。
ふと親父を見る。
卒業式の時より泣いてる。
「よそ見するな、ロン」
「あ、ああ、はい…」
目を閉じると、唇に唇が触れる感覚。
目を開けると、ダリル様の太陽のような笑顔。
見とれていると、二度目のキスをされる。
驚いたところで、三度目…
「もうっ、キスしすぎ…!」
「ふふっ…可愛いから、つい」
「うひゃぁ!」
腰を抱き寄せられて、耳の裏にキスされる。
「んもうっ、恥ずかしいったら…」
「何を言う、まだ足りないぐらいだ。
国の内外に仲の良さを見せつけておかねばならんからな」
「そんな事言って、からかっても駄目なんですからね!」
ダリル様は俺に言う事を聞かせたい時に「断りづらい理屈」を創造する癖があるようで、セックスひとつするのにも理由を山ほど並べ立てる。
でも、それがダリル様特有の優しさなんだと…何となく、分かる。
「何の理由も付けなくて良いんですよ?
たまには」
「…たまには、か」
「たまには、です」
俺がそれでも嫌だと言えば、ちゃんとやめてくれる。
本当に嫌な事をしない為に、そうしてくれているんだ。
けど、たまになら…
俺だって、ダリル様に甘えて欲しい。
「……今日は、初夜だな」
「ええ」
「秘儀を一日先延ばしにして、朝までロンを抱きたい」
「……うん」
そんなきわどい話をしながら、扉まで歩き、振り返って出席者のみんなにお辞儀をする。
その中にはもちろん、留学生の5人にヨークさん、スミスさん、ブレックさん、カンテさんとクレーさん。
うちの家族と叔父さん家族、それからおじい様たち、ミリエッタさんとグヴェン様と伴侶のルミール様、ビゼーさんにユッカさん、ルーシャさんにグラノールさんを始め貴族の皆様。
すごい人数だな…
だからこんな大きな神殿で結婚式するのか。
ダリル様に伴われて神殿を出る。
馬車までの道の両脇に騎士がずらっと並んで、その向こう側には見物にきた人たちがいっぱい…
俺とダリル様は繋いでいない方の手を振りながら歩く。
おめでとう、おめでとうって声がそこらじゅうから聞こえる。
嬉しくなってぶんぶん手を振る。
みんながわあっと盛り上がる。
「俺、ちゃんと王子様の伴侶としてみんなから受け入れられてたんですね」
「結局、まともな反対理由は『ロンバードが今までの調子で魔法道具を開発できなくなると困るから』だけだったからな」
「ああ、魔術塔の…」
職員の人たちがずっと言ってたやつだ。
あの人たちも、結婚自体に反対だったんだっけ…
今や俺の夫はダリル様をおいて他にない、とか言い始めてるけど。
「だが今まで通りに仕事を続けてもらう事を発表すれば、反対する人間など誰もいない。
皆の願い通り、ロンバードは単純に王子様と結婚するだけだ」
「うん」
「それでいい、物事は簡単に考えるべきだ」
この後、お城に会場を移して戴冠式…俺の頭にティアラを乗せる為だけの式と、披露宴だ。
こっちでは婚姻の宴というらしい。
「物事は簡単に…ですか。
じゃあ、宴の衣装までドレスなのは何故?」
「うむ、ロンバードの可愛らしさ・賢さ・強さ・優しさ、その全てを表現するのにはドレス以外に手段が無かったのだ。燕尾服やジュストコールと違って意匠に色々と意味を盛り込めるドレスは、王子妃がどういう人間であるかを端的に示す事のできる…」
「…どうしても嫌だって訳じゃないですよ?」
すると、ダリル様は少し驚いた顔で俺を見て……
それから、小さい声で言った。
「……着せたかったから」
「着せたかったかぁ…」
予想通りのシンプルな理由に、笑ってしまう。
たったそれだけの事に一生懸命理屈をつけるダリル様が何だかとっても愛しくなって…
俺はダリル様のほっぺに、キスをした。
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