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収まるべきところへ
久々の登校 2
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4時間目が終わって、お昼休み。
俺はセジュールと一緒に、留学生の皆に連れられて食堂の2階にある個室へ。
「さ、座って座って。
今日は特別な料理を頼んであるんだ」
「特別…?」
「そう、サラシナ国の郷土料理!
ロンバード君が食べたいって言ってたから」
「本当!?やった!」
こっちの世界に生まれて18年。
長らく見る事すら出来なかったお米が、遂に…!
「サラシナ国に転移陣があったら、もっと色んな食材を取り寄せられるんだけど…
今回はお米と調味料しか持って来られなくて」
「ああ、転移陣か…あれは親父の領分だからなぁ」
カナデ君から、まずはご挨拶のジャブ。
それをさらりとセジュールが躱す。
「そうですね、父の作った物については、御前会議にかける事になっていますから…」
「そうでしたか、それではまた書簡を王宮へ送ると致しましょう」
転移陣の技術供与の話…いつかはサラシナとサリルを転移陣で繋ぎたいから、そう遠くないうちかな、と思う。
そうしているうちにお膳が運ばれてくる。
お味噌汁に大根おろし付き焼き魚、煮物…。
そして、おひつの中からは白ご飯の香り…
「ロンバードはお箸使える?」
「あー…どうだろ、やってみる、けど…」
考えてみたら、生まれ変わって以降お箸使った事ないな。
前世の記憶で使えれば良いんだけど…
と、そんな事を言っているうちにお茶碗に白ご飯がよそわれて、目の前に置かれる。
「…早速、頂いてもいい?」
「うん、どうぞ。
話は食べながらでもいいし…ね、みんな」
「ああ、それで構わない」
「そうだね、まずはご歓談…といこうか」
「やった!いただきま~す!」
俺はいつも通り手を合わせて頂きますをし、箸を手に取って、早速お味噌汁から…。
「ん~、おいしい!」
***
…食事会は和やかに進み、と言いたいところだったけど…
「ところで、あの『オマモリ』の件だが」
「あ、ああ…魔力欠乏症の?」
「そうだ。
アデアにはあれを都合すると聞いたが、我が国にも当然用意はあると考えて良いかな」
…と、流暢になったサリュール先輩がいきなり切り込んできた。
「お兄様…そんな約束、いつの間に?」
「そ、それは…魔物の暴走を抑えるのを、レドモンド君が助けてくれた時に」
「という事は、単純に口約束という事ですね」
「う、うん」
セジュールが助け舟を出してくれたので、俺はそれを補強しようとお守りの問題点について話す。
「それにあのお守りは、まだ効果があるとはっきり分かったわけじゃないし、危険性についても」
「危険?危険と分かっていて、君は子どもにあれを渡すような人間では無いだろう」
「いや、魔力欠乏症でない人があれを使うとどうなるのかが…」
それなのに、何かまずい流れになってしまう。
「ああ、その危険性についてはまだ調べがついていないが、効果のあるなしについてなら…クレア殿が」
「そうですね、オーセンの各神殿を通じて『オマモリ』を貰った子の経過を調査しました」
「えっ!?」
いつの間にか経過調査をしたというクレア君が、嬉しいような困ったような結果を教えてくれる。
「殆どの子が、効果を実感しているようです。
ベッドから起き上がれなかった子が、自分の足で数歩ですが歩いた事を神前に報告に来た者が十数名」
「そう…ほとんど、って事は全員じゃない、って事だよね、だから…」
だから俺が「まだ完全じゃない、改良の余地がある以上は製品として世には出せない」…と言おうとすると、
「そうだね、合併症で他の病気も抱えてしまった子には、まだ効果が実感できないみたい」
「そうか、他の病気が…」
「つまり魔力欠乏症については一定の効果が見込める」
「いや、でも危険性の方がね、まだ」
何とかお守りの事を押しとどめようとする俺。
すると、静かな声でニールが言う。
「…世界中で、待っている子どもがいる。
何もしてやれないと泣く親がいる。
彼らの為に、僅かでも希望となる『オマモリ』を持ち帰ってやれないのなら、我々がここに居る意味は無い」
それは、重い言葉だった。
確かにあれで効果があるなら…プラシーボ効果だとしても、効果は効果…と、考えて良いのか…だけど。
「ニール殿下…お気持ちは分かりますが、これが悪用されたら」
「悪用されたら?そんな事は後で考えれば良い」
「あと、危険性の問題が」
「危険かどうかなど、罪人の首にでもぶら下げてみれば良かろう」
こんな分の悪すぎる勝負…セジュールがどう頑張っても、無理だろうな。
仕方ない…
いや、仕方ない、じゃない。
俺だって人を救いたくてあのお守りを作った…
だから。
「…分かった。
でもね、今の状況じゃ量産は難しいんだ。
材料も揃えられないし、職人さんだって足りない…」
「ならばこちらから何でも、」
「うん、だからね」
そんな大きな話にするからいけないんだ。
もっと小さな…内輪の話にしてしまえばいい。
「俺がみんなに作り方を教える。
銅板の作り方、魔力集積回路の刻み方から、腹巻に縫い付ける方法まで」
「お兄様!?」
「ロンバード!」
「みんなが覚えて帰ってくれれば、問題は解決する…よね?」
こうすれば、お守りの事は皆が「留学先で得た知識」って事にできる。
国がどうこう…なんて、関係ない。
「セジュール、大変な話をさせて、ごめんね。
ダリル様と陛下には俺から話をする。
これを災害救助のための国際機関の最初の仕事にしようと思う…って。
病気は災害じゃないけど、命を助ける集団だって事を分かって貰うにはぴったりだしね」
人を救いたい気持ちに国境は関係ない。
そういう組織を作ろうとしてる俺が、外交バランスを気にして動かないなんて…おかしいじゃん。
「お兄様…大丈夫なんですか?」
「んん、まあ…みんなの器用さにかかってるとこはあるけど、見本も渡すし」
「本当!?やった!!」
これで、この話は決着がついた…よね?
では改めて…
「ところでロンバード君」
「!?」
えっ、まだ何かあるの!?
俺はセジュールと一緒に、留学生の皆に連れられて食堂の2階にある個室へ。
「さ、座って座って。
今日は特別な料理を頼んであるんだ」
「特別…?」
「そう、サラシナ国の郷土料理!
ロンバード君が食べたいって言ってたから」
「本当!?やった!」
こっちの世界に生まれて18年。
長らく見る事すら出来なかったお米が、遂に…!
「サラシナ国に転移陣があったら、もっと色んな食材を取り寄せられるんだけど…
今回はお米と調味料しか持って来られなくて」
「ああ、転移陣か…あれは親父の領分だからなぁ」
カナデ君から、まずはご挨拶のジャブ。
それをさらりとセジュールが躱す。
「そうですね、父の作った物については、御前会議にかける事になっていますから…」
「そうでしたか、それではまた書簡を王宮へ送ると致しましょう」
転移陣の技術供与の話…いつかはサラシナとサリルを転移陣で繋ぎたいから、そう遠くないうちかな、と思う。
そうしているうちにお膳が運ばれてくる。
お味噌汁に大根おろし付き焼き魚、煮物…。
そして、おひつの中からは白ご飯の香り…
「ロンバードはお箸使える?」
「あー…どうだろ、やってみる、けど…」
考えてみたら、生まれ変わって以降お箸使った事ないな。
前世の記憶で使えれば良いんだけど…
と、そんな事を言っているうちにお茶碗に白ご飯がよそわれて、目の前に置かれる。
「…早速、頂いてもいい?」
「うん、どうぞ。
話は食べながらでもいいし…ね、みんな」
「ああ、それで構わない」
「そうだね、まずはご歓談…といこうか」
「やった!いただきま~す!」
俺はいつも通り手を合わせて頂きますをし、箸を手に取って、早速お味噌汁から…。
「ん~、おいしい!」
***
…食事会は和やかに進み、と言いたいところだったけど…
「ところで、あの『オマモリ』の件だが」
「あ、ああ…魔力欠乏症の?」
「そうだ。
アデアにはあれを都合すると聞いたが、我が国にも当然用意はあると考えて良いかな」
…と、流暢になったサリュール先輩がいきなり切り込んできた。
「お兄様…そんな約束、いつの間に?」
「そ、それは…魔物の暴走を抑えるのを、レドモンド君が助けてくれた時に」
「という事は、単純に口約束という事ですね」
「う、うん」
セジュールが助け舟を出してくれたので、俺はそれを補強しようとお守りの問題点について話す。
「それにあのお守りは、まだ効果があるとはっきり分かったわけじゃないし、危険性についても」
「危険?危険と分かっていて、君は子どもにあれを渡すような人間では無いだろう」
「いや、魔力欠乏症でない人があれを使うとどうなるのかが…」
それなのに、何かまずい流れになってしまう。
「ああ、その危険性についてはまだ調べがついていないが、効果のあるなしについてなら…クレア殿が」
「そうですね、オーセンの各神殿を通じて『オマモリ』を貰った子の経過を調査しました」
「えっ!?」
いつの間にか経過調査をしたというクレア君が、嬉しいような困ったような結果を教えてくれる。
「殆どの子が、効果を実感しているようです。
ベッドから起き上がれなかった子が、自分の足で数歩ですが歩いた事を神前に報告に来た者が十数名」
「そう…ほとんど、って事は全員じゃない、って事だよね、だから…」
だから俺が「まだ完全じゃない、改良の余地がある以上は製品として世には出せない」…と言おうとすると、
「そうだね、合併症で他の病気も抱えてしまった子には、まだ効果が実感できないみたい」
「そうか、他の病気が…」
「つまり魔力欠乏症については一定の効果が見込める」
「いや、でも危険性の方がね、まだ」
何とかお守りの事を押しとどめようとする俺。
すると、静かな声でニールが言う。
「…世界中で、待っている子どもがいる。
何もしてやれないと泣く親がいる。
彼らの為に、僅かでも希望となる『オマモリ』を持ち帰ってやれないのなら、我々がここに居る意味は無い」
それは、重い言葉だった。
確かにあれで効果があるなら…プラシーボ効果だとしても、効果は効果…と、考えて良いのか…だけど。
「ニール殿下…お気持ちは分かりますが、これが悪用されたら」
「悪用されたら?そんな事は後で考えれば良い」
「あと、危険性の問題が」
「危険かどうかなど、罪人の首にでもぶら下げてみれば良かろう」
こんな分の悪すぎる勝負…セジュールがどう頑張っても、無理だろうな。
仕方ない…
いや、仕方ない、じゃない。
俺だって人を救いたくてあのお守りを作った…
だから。
「…分かった。
でもね、今の状況じゃ量産は難しいんだ。
材料も揃えられないし、職人さんだって足りない…」
「ならばこちらから何でも、」
「うん、だからね」
そんな大きな話にするからいけないんだ。
もっと小さな…内輪の話にしてしまえばいい。
「俺がみんなに作り方を教える。
銅板の作り方、魔力集積回路の刻み方から、腹巻に縫い付ける方法まで」
「お兄様!?」
「ロンバード!」
「みんなが覚えて帰ってくれれば、問題は解決する…よね?」
こうすれば、お守りの事は皆が「留学先で得た知識」って事にできる。
国がどうこう…なんて、関係ない。
「セジュール、大変な話をさせて、ごめんね。
ダリル様と陛下には俺から話をする。
これを災害救助のための国際機関の最初の仕事にしようと思う…って。
病気は災害じゃないけど、命を助ける集団だって事を分かって貰うにはぴったりだしね」
人を救いたい気持ちに国境は関係ない。
そういう組織を作ろうとしてる俺が、外交バランスを気にして動かないなんて…おかしいじゃん。
「お兄様…大丈夫なんですか?」
「んん、まあ…みんなの器用さにかかってるとこはあるけど、見本も渡すし」
「本当!?やった!!」
これで、この話は決着がついた…よね?
では改めて…
「ところでロンバード君」
「!?」
えっ、まだ何かあるの!?
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