195 / 218
収まるべきところへ
夜の衣装合わせ ※
しおりを挟む朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
56
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?


聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる