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向かえ!大団円
【ヨーク】強くて偉くて気になるやつ
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馬上で一人、呟く。
「こうやってのんびり旅するの、初めてだな…」
「いつもは飛んでばかりいるからか?」
「ああ、魔術師になって、空飛べるようになってからはずっとね」
俺は、アデア王国のレドモンド・スフィーリア公と一緒に馬に乗っている。
もちろん一人一頭ずつだ。
子どもの頃良く乗せてもらったから大丈夫…って強引に借りて来たけど、正直早足が精一杯。
そんでも、このレドモンドって男は「ゆっくりこの国を見てたいと思っていたからちょうど良い」なんてさ。
紳士な事言ってくれちゃうんだよな…
俺の知ってる騎士とも公爵様とも大違いだ。
「しかし、空を飛ぶというのは実に楽しいじゃないか。
馬は退屈なんじゃないか?」
「そんな事無いよ、馬もいいもんだ…可愛いし」
「ははっ、そうだな。
可愛い愛馬がいれば、乗馬は楽しい。
だが君には愛箒…?があるから、空を飛ぶ方が楽しいんじゃないかと思ったんだ」
「まあ、空を飛ぶのも確かに楽しいけどさ」
こんな風に、会話まで爽やかだし。
俺の知ってる騎士ってのは、要はユッカさんが率いてた頃の第27騎士団だ。
騎士らしいのはビゼーさんだけで、後はまあ…ルーシャ父さんみたいな?
そんで、知ってる公爵様はナヴェント公。豪快な海の男。
だけどこのレドモンドって人は、紳士でそつがなくて、とにかく全然違う。
だからどうしても気になる…んだと、思う。
そんで、もっと一緒にいてみたくなったんだ。
「そろそろ休憩しようか」
「そうしましょうか」
いつの間にか太陽は一番高いとこへ上がってる。
つまり昼飯の時間だ。
あの時は魔力温存しなきゃいけなかったからやらなかったけど、今回は俺が茶を淹れよう。
そう思って背嚢からポットを出して茶葉を入れ、魔法で出した熱湯をそこへ注ぎ…
「…オーセンの魔術師は、こうやって茶を淹れるのが一般的なのかい?」
「いや、人によるんじゃないかな…
ポットに湯を入れてから茶葉入れる人もいるし」
…茶葉入れて水入れて煮出す人もいる。
ギゼル兄ちゃんの事だけど。
「ああいや、聞き方を間違えた。オーセンの魔術師はみんな、魔法でいきなり熱湯を出せるのかという事だ」
「ええっ…どうだろ、そもそも魔術師って、あんまり茶を淹れたりしないからなぁ」
「そうなのか?なぜ?」
「面倒だから、他人に入れてもらうのを待つ」
「はは、なるほどな!」
俺はコップを二つと茶こしを出して茶を注ぎ、レドモンドさんに渡す。
そんな質問をしたって事は、きっとロンバードもこうやってレドモンドさんに茶を淹れたんだろうな…と思って、俺はもう少し話を続ける。
「俺とかロンバードって色んな魔法使うじゃん。
だからそれほど面倒だとは思わないんだけどさ。
けど、普通は得意分野ってのがあって、水魔法が得意な人は火魔法が苦手とかあるんだって。
ギゼル兄に言わせると、属性に特化する事で脳への負担を減らしてるんだろ、って事らしいけど」
「では、君やロンバード君の脳は…」
レドモンドさんは心配そうに俺の事を見た。
こういうのを心配してくれる彼はきっと優しい人なんだろうと思う。
けど、やっぱロンバードの事も一緒だったから、ちょっとモヤっとする。
そのモヤっとした気持ちのまま、真相を話す。
「いや、脳への負担を減らすって、ギゼル兄特有の嫌味だから大丈夫」
「…では、どういう意味なんだ?」
「うん、そういう奴らは魔法の勉強以外に「他人を蹴落とす」勉強なんかもしなくちゃいけないんだから、多少魔法が使えなくても仕方ないよな、って意味」
「…辛辣なお方だな」
「まあ、そんだけ色々あったって事っつーか…
出自が出自なだけに…みたいな?」
まあ、出自は俺もそうなんだけどさ。
けど俺が学園に入った時にはもう大分改革が進んでたから、命を取られそうになる事は無かったけど。
「俺もギゼル兄も、親に売られた子だからね」
「売られた?」
「そう、家が貧乏すぎてさ」
あの時は、みんなそうだった。
けど俺たちは、運よくギゼル兄が魔法を使えるようになって、運よく騎士団に拾われて、生き延びた。
「俺ら、すげぇツイてたんだ。
先に売られた兄貴は死んじゃってたし、他の子も…さ。
それに比べたら大した事じゃないんだけどね」
魔物より人間の方がずっと残虐だ。
楽しみの為に、子どもを殺す。
俺たちにとっては地獄のような国だった。
けど今のオーセンは、税金を死ぬまで搾り取られる事は無いし、生きる金が無くなったら国を頼る事が出来る。
子どもを売ろうって親はもういない。
人買いは全員死刑になったし、孤児院も随分ましになったから。
「どうしてあんな酷い国だったんだろうって、今となっては不思議だけどね」
歴史の授業を受けたら分かる。
バレンの作りたかった国は、地獄の入口だって。
「…二度とそういう国にしてはいけないな」
「そうだな、魔法は便利だけど、誰でも使えるわけじゃないから」
「だが、ロンバード君の作る魔法の道具は、誰でも使えるんだろう?」
むむ、またロンバードの話…。
何かむかつく。
「こうやってのんびり旅するの、初めてだな…」
「いつもは飛んでばかりいるからか?」
「ああ、魔術師になって、空飛べるようになってからはずっとね」
俺は、アデア王国のレドモンド・スフィーリア公と一緒に馬に乗っている。
もちろん一人一頭ずつだ。
子どもの頃良く乗せてもらったから大丈夫…って強引に借りて来たけど、正直早足が精一杯。
そんでも、このレドモンドって男は「ゆっくりこの国を見てたいと思っていたからちょうど良い」なんてさ。
紳士な事言ってくれちゃうんだよな…
俺の知ってる騎士とも公爵様とも大違いだ。
「しかし、空を飛ぶというのは実に楽しいじゃないか。
馬は退屈なんじゃないか?」
「そんな事無いよ、馬もいいもんだ…可愛いし」
「ははっ、そうだな。
可愛い愛馬がいれば、乗馬は楽しい。
だが君には愛箒…?があるから、空を飛ぶ方が楽しいんじゃないかと思ったんだ」
「まあ、空を飛ぶのも確かに楽しいけどさ」
こんな風に、会話まで爽やかだし。
俺の知ってる騎士ってのは、要はユッカさんが率いてた頃の第27騎士団だ。
騎士らしいのはビゼーさんだけで、後はまあ…ルーシャ父さんみたいな?
そんで、知ってる公爵様はナヴェント公。豪快な海の男。
だけどこのレドモンドって人は、紳士でそつがなくて、とにかく全然違う。
だからどうしても気になる…んだと、思う。
そんで、もっと一緒にいてみたくなったんだ。
「そろそろ休憩しようか」
「そうしましょうか」
いつの間にか太陽は一番高いとこへ上がってる。
つまり昼飯の時間だ。
あの時は魔力温存しなきゃいけなかったからやらなかったけど、今回は俺が茶を淹れよう。
そう思って背嚢からポットを出して茶葉を入れ、魔法で出した熱湯をそこへ注ぎ…
「…オーセンの魔術師は、こうやって茶を淹れるのが一般的なのかい?」
「いや、人によるんじゃないかな…
ポットに湯を入れてから茶葉入れる人もいるし」
…茶葉入れて水入れて煮出す人もいる。
ギゼル兄ちゃんの事だけど。
「ああいや、聞き方を間違えた。オーセンの魔術師はみんな、魔法でいきなり熱湯を出せるのかという事だ」
「ええっ…どうだろ、そもそも魔術師って、あんまり茶を淹れたりしないからなぁ」
「そうなのか?なぜ?」
「面倒だから、他人に入れてもらうのを待つ」
「はは、なるほどな!」
俺はコップを二つと茶こしを出して茶を注ぎ、レドモンドさんに渡す。
そんな質問をしたって事は、きっとロンバードもこうやってレドモンドさんに茶を淹れたんだろうな…と思って、俺はもう少し話を続ける。
「俺とかロンバードって色んな魔法使うじゃん。
だからそれほど面倒だとは思わないんだけどさ。
けど、普通は得意分野ってのがあって、水魔法が得意な人は火魔法が苦手とかあるんだって。
ギゼル兄に言わせると、属性に特化する事で脳への負担を減らしてるんだろ、って事らしいけど」
「では、君やロンバード君の脳は…」
レドモンドさんは心配そうに俺の事を見た。
こういうのを心配してくれる彼はきっと優しい人なんだろうと思う。
けど、やっぱロンバードの事も一緒だったから、ちょっとモヤっとする。
そのモヤっとした気持ちのまま、真相を話す。
「いや、脳への負担を減らすって、ギゼル兄特有の嫌味だから大丈夫」
「…では、どういう意味なんだ?」
「うん、そういう奴らは魔法の勉強以外に「他人を蹴落とす」勉強なんかもしなくちゃいけないんだから、多少魔法が使えなくても仕方ないよな、って意味」
「…辛辣なお方だな」
「まあ、そんだけ色々あったって事っつーか…
出自が出自なだけに…みたいな?」
まあ、出自は俺もそうなんだけどさ。
けど俺が学園に入った時にはもう大分改革が進んでたから、命を取られそうになる事は無かったけど。
「俺もギゼル兄も、親に売られた子だからね」
「売られた?」
「そう、家が貧乏すぎてさ」
あの時は、みんなそうだった。
けど俺たちは、運よくギゼル兄が魔法を使えるようになって、運よく騎士団に拾われて、生き延びた。
「俺ら、すげぇツイてたんだ。
先に売られた兄貴は死んじゃってたし、他の子も…さ。
それに比べたら大した事じゃないんだけどね」
魔物より人間の方がずっと残虐だ。
楽しみの為に、子どもを殺す。
俺たちにとっては地獄のような国だった。
けど今のオーセンは、税金を死ぬまで搾り取られる事は無いし、生きる金が無くなったら国を頼る事が出来る。
子どもを売ろうって親はもういない。
人買いは全員死刑になったし、孤児院も随分ましになったから。
「どうしてあんな酷い国だったんだろうって、今となっては不思議だけどね」
歴史の授業を受けたら分かる。
バレンの作りたかった国は、地獄の入口だって。
「…二度とそういう国にしてはいけないな」
「そうだな、魔法は便利だけど、誰でも使えるわけじゃないから」
「だが、ロンバード君の作る魔法の道具は、誰でも使えるんだろう?」
むむ、またロンバードの話…。
何かむかつく。
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