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向かえ!大団円
【ダリル】秘密兵器
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「…では、ここにある食材はどれを使っても良いのだな?」
「はっ、はい!もちろんです!」
「ふむ…」
俺は宿の厨房で悩んでいた。
昼飯のサンドイッチの中身は何にするか…。
「…スフィーリア公には負けん」
ヨークが話していたのを聞いてしまったのだ。
野営で彼が作った食事が美味しかった話を…
そしてその話に、ロンバードが同意していたのを。
…これは、スフィーリア公がこちらへ留学してくる1年前の事。
アデア王国の大使に「レドモンド・スフィーリア」という人物について尋ねた時の事だ。
レドモンド殿が当主を務めるスフィーリア家は、公爵という立場でありながら、代々のしきたりとして他の騎士と同様に野営をし、時には自ら獲った魔物を捌く…という話を聞いたのだ。
それは、部下の忠誠と士気を高める為の大事な仕事なのだ…と。
公爵様が自分たちの為に作ってくださった料理を食べる、という事。
公爵様は自分たちと同じものを食べている、という事。
どちらも親近感と一体感を産むのに大変有用なのだそうだ。
だから、俺も料理を学ぶ事にしたのだ。
指揮官としてただ指示をするのではなく、そうした柔らかい面を見せる事もまた大事…
「…まあ、よく考えれば、我が国で貴族が自分で食事を作る事自体、珍しい事でもないしな」
なぜ自分で作るか、と言えば、もちろん毒殺を避けるためだ。
特に魔法無し貴族であれば、解毒の魔法は使えないのだから細心の注意を払わねばならない。
「…簡単に毒が手に入るのが問題だな」
別に堂々と売っているわけでは無いが、毒を持つ魔物が珍しくない為に入手しやすいのだ。
それから今回問題になった転売組織が違法に取り扱っている事もある。
そいつらから毒を買い、弱みを握られた貴族や宮廷官吏の多い事!
さらに捕縛した転売屋どもの、余罪の多さと言ったら…。
「…そんな事は、今は置いておいてだな」
貴族の中で最も料理上手なのは、キャンディッシュ家の元当主であるミルコ殿だ。
隠居先の海が見える丘へ何度か通って教えて頂いた。
もちろん本を見て学んだり、王宮の調理師に教えてもらったり。
ミルコ殿の次に上手な、メルバに教わったり…
「…あいつめ」
ニヤニヤしながら、ロンバードの好きな料理をあれやこれやと…
だが、ついにそれが役立つ時が来たのだ。
「…よし、下ごしらえは出来たな」
一番大事なのは、肉を触ったら必ず石鹸で手と使った道具を洗う事だ。
肉に付いている菌が生野菜についてしまうと、盛ったつもりが無いのに毒の食べ物が出来てしまう事がある。
そうなると、鑑定魔法では毒の判定が出ない…
「…まあ、料理の味以前の問題だな」
さてと、鶏肉に下味が付くまでの間にサンドイッチを作ってしまおう。
「だが問題は、俺が作ったと言わずに出すか、作ったと言って出すか…だな」
ロンバードにより深く印象付ける為には、さて、どちらが……。
***
デザートの林檎を剥く俺に、ロンバードが驚く。
「…ダリル様、林檎……」
「何だ、意外か?これぐらい簡単にできるぞ」
「へえぇええ……」
俺の手元に尊敬のまなざしを注ぐロンバード。
ふふ…どうやら明かす時が来たらしい。
「大体、この籠の中身は全部俺が作った料理だぞ」
「えっ、これ、ダリル様が作ったんですか!?」
「そうだが?」
びっくりした顔で、口元を抑えるロンバード。
どうやら作戦は成功したらしい…ふふ。
「実は以前から興味があって、少し学んだのだ」
「すごい…!すごい!」
「ふふ、そうだろう?」
本当は相当に学んだけれど、こういう時は余裕を見せる方が大事。
「王宮に戻ったら、時々庭でこうして2人…外で軽食をつまみながら話をしよう」
「いいですね、そういうの!」
「時には、セジュールやミリエッタを呼んでやっても良いし」
「えっ、良いんですか?」
「良いも悪いも、2人とも王妃補佐の役職に就くのだから当たり前…であるし、お前と弟の時間を全て奪うつもりは無いからな」
本当は、ずっと2人きりが良い。
だが、それではロンバードを大事にしている事にはならない。
「俺は、お前が大事だから、お前の周りも、お前の家族も大事にする。
……約束だ」
「はいっ!」
俺はロンバードを幸せにする。
俺がロンバードを幸せにするんだ。
「はっ、はい!もちろんです!」
「ふむ…」
俺は宿の厨房で悩んでいた。
昼飯のサンドイッチの中身は何にするか…。
「…スフィーリア公には負けん」
ヨークが話していたのを聞いてしまったのだ。
野営で彼が作った食事が美味しかった話を…
そしてその話に、ロンバードが同意していたのを。
…これは、スフィーリア公がこちらへ留学してくる1年前の事。
アデア王国の大使に「レドモンド・スフィーリア」という人物について尋ねた時の事だ。
レドモンド殿が当主を務めるスフィーリア家は、公爵という立場でありながら、代々のしきたりとして他の騎士と同様に野営をし、時には自ら獲った魔物を捌く…という話を聞いたのだ。
それは、部下の忠誠と士気を高める為の大事な仕事なのだ…と。
公爵様が自分たちの為に作ってくださった料理を食べる、という事。
公爵様は自分たちと同じものを食べている、という事。
どちらも親近感と一体感を産むのに大変有用なのだそうだ。
だから、俺も料理を学ぶ事にしたのだ。
指揮官としてただ指示をするのではなく、そうした柔らかい面を見せる事もまた大事…
「…まあ、よく考えれば、我が国で貴族が自分で食事を作る事自体、珍しい事でもないしな」
なぜ自分で作るか、と言えば、もちろん毒殺を避けるためだ。
特に魔法無し貴族であれば、解毒の魔法は使えないのだから細心の注意を払わねばならない。
「…簡単に毒が手に入るのが問題だな」
別に堂々と売っているわけでは無いが、毒を持つ魔物が珍しくない為に入手しやすいのだ。
それから今回問題になった転売組織が違法に取り扱っている事もある。
そいつらから毒を買い、弱みを握られた貴族や宮廷官吏の多い事!
さらに捕縛した転売屋どもの、余罪の多さと言ったら…。
「…そんな事は、今は置いておいてだな」
貴族の中で最も料理上手なのは、キャンディッシュ家の元当主であるミルコ殿だ。
隠居先の海が見える丘へ何度か通って教えて頂いた。
もちろん本を見て学んだり、王宮の調理師に教えてもらったり。
ミルコ殿の次に上手な、メルバに教わったり…
「…あいつめ」
ニヤニヤしながら、ロンバードの好きな料理をあれやこれやと…
だが、ついにそれが役立つ時が来たのだ。
「…よし、下ごしらえは出来たな」
一番大事なのは、肉を触ったら必ず石鹸で手と使った道具を洗う事だ。
肉に付いている菌が生野菜についてしまうと、盛ったつもりが無いのに毒の食べ物が出来てしまう事がある。
そうなると、鑑定魔法では毒の判定が出ない…
「…まあ、料理の味以前の問題だな」
さてと、鶏肉に下味が付くまでの間にサンドイッチを作ってしまおう。
「だが問題は、俺が作ったと言わずに出すか、作ったと言って出すか…だな」
ロンバードにより深く印象付ける為には、さて、どちらが……。
***
デザートの林檎を剥く俺に、ロンバードが驚く。
「…ダリル様、林檎……」
「何だ、意外か?これぐらい簡単にできるぞ」
「へえぇええ……」
俺の手元に尊敬のまなざしを注ぐロンバード。
ふふ…どうやら明かす時が来たらしい。
「大体、この籠の中身は全部俺が作った料理だぞ」
「えっ、これ、ダリル様が作ったんですか!?」
「そうだが?」
びっくりした顔で、口元を抑えるロンバード。
どうやら作戦は成功したらしい…ふふ。
「実は以前から興味があって、少し学んだのだ」
「すごい…!すごい!」
「ふふ、そうだろう?」
本当は相当に学んだけれど、こういう時は余裕を見せる方が大事。
「王宮に戻ったら、時々庭でこうして2人…外で軽食をつまみながら話をしよう」
「いいですね、そういうの!」
「時には、セジュールやミリエッタを呼んでやっても良いし」
「えっ、良いんですか?」
「良いも悪いも、2人とも王妃補佐の役職に就くのだから当たり前…であるし、お前と弟の時間を全て奪うつもりは無いからな」
本当は、ずっと2人きりが良い。
だが、それではロンバードを大事にしている事にはならない。
「俺は、お前が大事だから、お前の周りも、お前の家族も大事にする。
……約束だ」
「はいっ!」
俺はロンバードを幸せにする。
俺がロンバードを幸せにするんだ。
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