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向かえ!大団円

【ビゼー】謎の鉄板 2

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「まず状況を説明するとだな」

モーリス卿に付いて行った仲間の話によると…

「まず、宿屋に入る前に私の索敵でどの部屋に何人いるかを調べた。
 すると3階に10名程の気配を感じた。
 だから我々は3階を目指して階段を上がろうとした。
 すると偶然一人の人間と鉢合わせてしまい、驚いた彼は声を上げた…」

その声で3階にいる連中は彼らの存在に気付いたらしく、上の方が騒がしくなった。
だから慌てて男を押しのけ3階に上がると、ある一つの部屋へ魔術師が逃げ込むのを見た…

「だからその部屋へ行こうとしたらじゃな!
 こやつが別の部屋から出てきて、通せんぼしよったんじゃ!」

そういってモーリス卿は一人の男を突き出した。
すると、地下室に避難していた魔術師が彼の名を呼んだ。

「カンテ!」
「は?カンテ…だと!?」

確か、バレンに取り込まれた諜報員の名前も、カンテ…!

私は彼の本心を探る為、きつく睨みつけた。
すると…

「け、剣聖様ぁ!その人も悪い人じゃねえよ!」
「そうだ!その人ともう1人の剣士様が、外にいた俺らを宿屋まで連れてきてくれたんだぁ!」
「その人がいなかったら、俺らみんな死んでた!」
「怪我して走れねぇテレンスも、抱えて走ってくれたんだよ!」

またも村人から声が上がる。
なるほど、彼もまた村人にとっては悪い人間ではないようだ。

「その人ぁその爺さんの言う腐れ魔術師によ、こき使われてただけだぁ!」
「……そうなのか?」
「そうだぁ!ひでえ、あいつら!爺さんの言う通り腐れ魔術師だぁ!
 この人らが一生懸命やってんのに、偉そうにするだけで何にもしねえ!!」

村人が口々に、ここに居ない魔術師の悪行を訴える。
奴ら、南東の農場で何の反省もしていなかったらしい…

ま、簡単に死なせないでくれって言うから生かしてるだけの死刑囚だったからな。
それほど更生を促す事もしなかったんだろう。

村人の訴えは続く。

「だからよ、あいつらここに連れてきてやらなかったんだぁ!」
「でも…そん時、その剣士さんともう一人の人もよ、連れてきてやれなくてよ…」
「カンテさん、ごめんなぁ…おれら、カンテさんのこと、見つけられなくてよ…」

騒いでいた村人たちが急に静かになる。
どうやら相当申し訳ないらしい…

何という善良さだろう!

あのルーシャ殿が治めている土地なだけの事はある。
私がこの場にいる必要はもう無かろう…
向こうで「良い」魔術師は小さくなっているしな。

「ではもう一人の男も安全を確認した方が良いな。
 すまんが、持ち場を代わって貰えるか?」
「ああ、任せろ!…モーリス卿の事は頼んだ」
「ああ、ではモーリス卿、参りましょう」
「うむ!安心しろ皆の者、腐れ魔術師共は見つけ次第、息の根を止めてやる!」
「爺さん頑張ってくだせえ!」
「応援してますぜ!」

…村人たちから謎の声援を受け、私とモーリス卿はもう一度宿屋へと向かった。

***

宿屋に入るとすぐに、その「もう一人の男」は見つかった。
いや、出迎えられたと言った方が正しい。

「お待ちしておりました、ビゼー殿」
「…ほう?」
「性根の悪い魔術師は、もうここにはおりません」
「…どういう事だ?」
「ご説明しましょう…こちらへ」

もう一人の男は自分をクレーと名乗った。
私の記憶では、クレーもまたバレンに心を支配された事がある人間だ。
すぐに捕縛され、支配は解かれたと聞いていたが…

彼に付いて、階段を上がり、魔術師が消えたという3階の部屋へ入る。
そこには飲み散らかされた酒瓶、食いかけの肴…

そして。

「何だこれは…」

床に転がっていたのは、細かく模様が彫り込まれている、一枚の丸い、鉄の、板…?

「新しい魔道具です」
「魔道具!?」
「人を転移させる魔道具だそうです」
「転移!?」

モーリス卿はその板のそばにしゃがみ込み、まじまじとそれを見た。

「確かに、ギルドに置かれとる転移陣とかいうのに似ておるな」
「ええ、ギゼル殿が開発中だったのをお借りして参りました」
「何っ!?」
「これに魔力を通せば、ここではない場所に瞬時に移動する事ができるそうです」

クレーの説明によれば、彼とカンテが間者としてバレンの元へ潜入する手土産として、メルバ殿が用意してくれた物なのだそうだ。
件の魔術師共は、全員この転移陣を使って逃げた…らしい。

「何と…どこへ出るんじゃ?」
「分かりません」
「…は?」
「ですから、何処へ出るのかは良く分かりません。
 ここへ入った人間が、一体どうなるのかも分かりません」

クレーはさらりととんでもない事を言ってのけた。
それはつまり、彼らを殺しましたと言うのと同義では…

「なぜそんな危険なものを…!」
「まあ、実験体といったところでしょうか。
 魔術塔にも同じものを作って設置する予定だそうですが…さて、いつになるやら」

…という事は、彼らは…?

一体どこへ、行ってしまうのだ…?

「ですが『小さな生き物を転移させる実験に成功した』との事ですから…
 もしかしたら、どこかに置かれたその実験用転移陣から出てくるんじゃないですかね?
 …多分」
「もしかしたら」
「多分」

なので、あまり触らない方が良いですよ、とクレー。
鉄の板をなでていたモーリス卿は慌ててそれから手を離し…

「あの坊主、恐ろしい物を作りよったわ」

…と言って、黙り込んだ。
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