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向かえ!大団円

【ダリル視点】恋人からの通信

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執務室で南東の農場からの報告に目を通していると、腕輪が光って声がした。

「ダリル様!」
「どうした、ロンバード?」

慌てた様子で連絡をしてきたのは愛しの婚約者だ。
確か今日は南端の石碑を見に行くと言っていたが…
何か問題があったのだろうか?

「ダリル様、第27騎士団からの報告書は」
「今のところ届いていない」
「でも、何度も送ったって!」
「そうだろうな」
「知ってるんですか!?」
「そりゃ、来ないのはおかしいからな。
 今必死で調べている最中だ」

そう、27からの報告が石碑に行く様命じて以降来ていない事に違和感を感じてすぐに動いたものの、なかなか尻尾が掴めずにいる。
単独犯で無いことは分かっているが…
明らかに後手を踏んでいる。

「ところで、こちらからの連絡は届いているか?」
「えっ、ちょっと待って…えっ、届いてる?」
「何という内容で?」

そう俺が尋ねると、ロンバードの周囲がざわついたようになり…ロンバードと騎士がいくつかの会話を交わしながら、こちらへ報告が届く。

「えっと内容は…えっ、そのまま待機しろって?補給は…え、元団員で領主の人が順番に?えっ?」
「どうした、ロンバード」
「待機命令が出た時に補給物資の話が無かったから、南端の森に近いとこで領主をしてるグラノールおじ…子爵に相談したらそうなったみたいです」
「…なるほど」

グラノール子爵か…なるほど。
あの御仁も、大増殖を収めた英雄の一人だ。
彼らは程よく王宮を信頼していないからな…。
ただ、彼らも待機には賛成だったのは救いだ。
きっと村人たちの事を考えてくれたのだろう。

「ロンバード、騎士団長と直接話しても?」
「ええ、ちょっと待って下さい…団長さん、これ」
「お借りいたします…これはどうやって使えば?ああ、この板に喋りかける、成程…」

いちいちロンバードを介するのも面倒なので、騎士団長と直接会話する。

「石碑の破損について、彼らに何か言った事は?」
「はっ、それもグラノール子爵を通じ、ギゼル様に」
「…ギゼルは何と?」
「魔物に人を襲わせたい奴がいる、と。
 そいつに悟られないように、ロンバード様が旅程通りここへ来るのを辛抱強く待ってくれないか、とのことでした。
 自分が出産で動きが取れないから…と」

第27騎士団にとって、英雄となった元団員は王と同等かそれ以上の存在。
特にギゼル殿は石碑を作った本人だし、頼るのは分かるが…

「待機命令以降、王宮からは?」
「は、何も。
 ですが、グリフォンの討伐も終わっておりませんし、我々としても待機が一番であると判断を」

…ギゼルが第27騎士団に対し何を言ったかはメルバによってこちらに知らされているとはいえ、これでは命令系統がバラバラになりかねん。

だが、彼らが王宮から半分独立した騎士団そんざいである事が、今は有難い。

「…素晴らしい判断だ、感謝する。
 ところで、偽物の手紙は届いていないか?」
「は、届いておりません」

騎士団への命令書は「特別な魔法のお手紙」を使用している。
住所でなく、個人へ届く様に指定された手紙だ。
やはりこれもロンバードが考えたもので、個人の魔力を登録しておく必要はあるが、出先の相手に連絡を入れる方法として重宝されている。

その便箋は偽造防止に特殊なインクで王家の紋が入れられ、厳重に国王の執務室に保管されている。
つまり、奴らの手下は最初の一枚を盗んで以降、そこに近づけていない…
そして、偽物を用意出来ていないという事は、第27騎士団の誰とも接触出来ていないということか。

ふむ…大分絞られてきたな。
ということは、あいつと、あいつと…ふむふむ。
ここまで絞り込めれば、後は任意の聴取に踏み切れるだろう……よし。

「少しロンバードと話をしたい、代わってくれ」
「は、畏まりました」

がさごそと音がする。腕輪がロンバードに返された様子を待って、話しかける。

「王宮のゴミはもうすぐ片付く。
 安心して帰ってくるといい…そして、帰ったらすぐに結婚しよう」
「はい」
「南の事が片付いたら一旦王宮へ戻ってくれ。
 衣装合わせだけはしておかねばならん」
「えっ、式は後でもいいって」
「…必要なのだ、頼む」

それは最悪の場合、やつらとの最終決戦の場にするために張る罠でもある。

だが、そうならないように、動く。
南東の農場には現在、魔法が使える使えないに関係なく死刑囚だけが収容されている。
もちろん、あの「大改革」で死刑判決が出た人間も。

「愛している、ロンバード。
 お前が強いのは分かっているが、どうか俺に守られるために、帰って来て欲しい」

俺はそう言って通信を切る。

「…相手は死刑囚だ。
 死んで元々のつもりで最初は嬉々として従うだろうが…土壇場では、さあ…どうかな?」

自己犠牲の精神が奴らにあるかどうか。
元々無い感情は、どうにもならんぞ?

「バレンよ…この世の中、悪意も無く人を傷つけて平気な者がいる事を知っているか?」

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