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向かえ!大団円
英雄たちと俺
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「というわけで、助っ人を連れてきたぞ」
シドさんとヨークさんに連れられてやってきたのは、がっしりとした体格の初老の男性だった。
その人を見て、スミスさんとブレックさんは青い顔になり、所長は真っ赤な顔になった。
そして叫んだ。
「シド様!助っ人と仰ったじゃありませんか!!」
「そう、だから助っ人。
騎士学校辞めて暇そうにしてたから」
「だからって…」
「いや、シド殿の知り合いという時点で普通では無いだろうとは思っておりましたが、それでも…」
スミスさんの言う通りだ。
シドさんの知り合いが普通なわけない。
ただ、それでもこれほどのビッグネームを連れて来るなんて誰も思わなかったのだ。
シドさんが言う。
「だって少しだけど『索敵』も使えるしさ、魔法にもびびらないし、逆らう奴は一撃であの世行きに…
出来ますよね?ユッカさん」
「ああ、人間なら余裕だ」
そう、物騒な物言いをするこの人は…
「だからって!
元第27騎士団の団長は無いでしょ!?」
「だって暇そうだし」
「だってじゃないんですよ!?」
2代前の第27騎士団長、ユッカ・サンドーラさんだった…。
***
ユッカ・サンドーラさんは英雄を率いた伝説の騎士団長だ。
剣を持たず、最低限の防具のみで魔物に対峙する姿は武神の如しと称えられている。
でも、俺は親父から聞いた「ユッカさんの人集め」の話の方が好きだ。
魔法が使えない、という理由でネグレクトされていた子どもたちを片っ端から引き取って、騎士団に加えたっていう話…
「ところでドニは元気にしてるか、ヨーク?」
「はい!元気に領地を飛び回ってます!」
ちなみにヨークさんの養父であるドニ・ルーシャさんも元第27騎士団員で、今はキャンディッシュ領のお隣の領を治める領主様だ。
昔自分を虐めていた親や兄弟に代わってルーシャ家の当主になり、何で俺がクソ共のケツ拭かなきゃなんねーんだと言うのが口癖のムキムキおじさん。
「それにしても大きくなったなぁ、ロンバード」
「はい、ご無沙汰してます」
「そういえば妹が生まれたんだって?
またみんなで祝いに行かないとな!」
そう、親父がいた頃の第27騎士団の人たちは時たま家を訪ねてくるのだ。
王都に来たついでだ、と言ってメルバ父さんの飯を美味い美味いと食って帰るのが恒例…
父さんの料理は美味しいからな。
親父の「芯までガッツリ火を通せば大体喰える」理論で出来た料理の5倍は美味しい。
「しかし女の子か…ついに海の公爵様の予言が当たったな」
「えっ、予言ですか?」
「んー…予言というより呪いだな。
陛下とカリーナ様のご成婚祝賀会で言ったんだ、『貴様にもそのうち分かるであろう、娘を嫁に出す苦しみが…』ってさ」
「……なるほど」
通称「海の公爵様」セーユ・ナヴェント様は、カリーナ様のお父様で親父の後見人だ。
グヴェン様の義父でもあるナヴェント公は、衰え知らずの海の男にして一流の魔術師…
そして俺の将来の義祖父様でもある。
「…こうしてみると、俺の周りって凄い人ばっかりだなぁ」
「はは、確かにそうですなぁ」
「ロンバード様も充分凄いお方ですよ?」
「いやぁ、でも…地竜を1頭倒しただけだし」
「お一人でね」
そもそも竜を倒す事自体が大変な事なんですよ?とブレックさん。
だけどあれは俺の手柄というより…
「それは倒し方を知ってたからですよ。
知らなかったら親父が来るまで逃げ続けてたんじゃないかな」
「逃げ続けるだけでも凄いんですが?」
「いやぁ、空を飛べる人なら誰でも出来ると思いますよ?
今回の地竜を引き寄せたのが人為的な事だとして、それをした人もそうやって逃げたんだろうし」
「で、逃げ切れなかったのが東の学生、と」
「そうですね…今回の事は、不幸な事故だったんじゃないかと思いますが」
やっぱり1人で森の中へ行くのは危険だって事だ。
騎士さん達だってグループ行動だし。
あの学生さんも、魔法で止血したくらいなんだから魔法は使えたんだろうけど……。
「こういう時の魔術師ギルドなのに、どうして護衛の依頼を出さなかったんだろう」
お金が無かったのかなぁ。
でも、そもそも魔法を使える人は全員が魔術塔の魔術師リストに登録するように、って決まってて、そうすれば多少お金も貰えるんだし…
うーん。
考えても分からないな。
本人から直接聞くしか無さそう…
「あー…俺、ロンバードの自己評価がおかしい理由が分かったかも」
「えっ?」
急なヨークさんの言葉に、俺は我に返る。
一体何の事?
「比べる相手が全員化物だからだ」
「こらヨーク、人を化物扱いするんじゃない」
「だってそうじゃん!
街一つ索敵できる人とか。
素手で魔物仕留める人とか。
前衛で魔法乱発して目につく魔物全部蹴散らす人とか」
そんな人間離れしたのばかり見ているから目標が異様に高いんだ…とヨークさん。
「特にお前の父ちゃんなー」
するとユッカさんが言った。
「だが、ギゼルはウチで一番の常識人だからなぁ…
普段は至極普通に見えるんじゃないか?」
「その辺、ビゼーが多分一番ヤバいよな」
「えっ」
ビゼーさんはなんと、近衛である第1騎士団の出身らしい。
だから、魔物だけでなく人間相手にも躊躇が無いらしい。
おまけに道徳心の塊みたいな所があって、悪い貴族をリアルに一刀両断…
えっまじで?
「それにさ、あの『弱点を見抜く』能力!」
「ああ『心眼』だろ?見てすぐだからな」
「だから地竜も弱点だけは分かってたんだぜ?
どうやって口の中に雷ぶち込むか悩んだだけで」
「おまけに恐ろしく強いですしね」
「人に剣術を教えるのも上手いぞ」
「書類の数字は間違いだらけですがね!」
「あのひと、計算が苦手なんだよなぁ」
「あっ!だから髪の毛紐を落札するのに500万も出しちゃった…とか?」
「ありうるー!!」
ぶはは、と笑う元第27騎士団の面々。
苦笑するスミスさんとブレックさん。
俺と所長はただそれを黙って見つめ…
「この人たちは普通じゃない」
と認識を新たにしたのであった。
シドさんとヨークさんに連れられてやってきたのは、がっしりとした体格の初老の男性だった。
その人を見て、スミスさんとブレックさんは青い顔になり、所長は真っ赤な顔になった。
そして叫んだ。
「シド様!助っ人と仰ったじゃありませんか!!」
「そう、だから助っ人。
騎士学校辞めて暇そうにしてたから」
「だからって…」
「いや、シド殿の知り合いという時点で普通では無いだろうとは思っておりましたが、それでも…」
スミスさんの言う通りだ。
シドさんの知り合いが普通なわけない。
ただ、それでもこれほどのビッグネームを連れて来るなんて誰も思わなかったのだ。
シドさんが言う。
「だって少しだけど『索敵』も使えるしさ、魔法にもびびらないし、逆らう奴は一撃であの世行きに…
出来ますよね?ユッカさん」
「ああ、人間なら余裕だ」
そう、物騒な物言いをするこの人は…
「だからって!
元第27騎士団の団長は無いでしょ!?」
「だって暇そうだし」
「だってじゃないんですよ!?」
2代前の第27騎士団長、ユッカ・サンドーラさんだった…。
***
ユッカ・サンドーラさんは英雄を率いた伝説の騎士団長だ。
剣を持たず、最低限の防具のみで魔物に対峙する姿は武神の如しと称えられている。
でも、俺は親父から聞いた「ユッカさんの人集め」の話の方が好きだ。
魔法が使えない、という理由でネグレクトされていた子どもたちを片っ端から引き取って、騎士団に加えたっていう話…
「ところでドニは元気にしてるか、ヨーク?」
「はい!元気に領地を飛び回ってます!」
ちなみにヨークさんの養父であるドニ・ルーシャさんも元第27騎士団員で、今はキャンディッシュ領のお隣の領を治める領主様だ。
昔自分を虐めていた親や兄弟に代わってルーシャ家の当主になり、何で俺がクソ共のケツ拭かなきゃなんねーんだと言うのが口癖のムキムキおじさん。
「それにしても大きくなったなぁ、ロンバード」
「はい、ご無沙汰してます」
「そういえば妹が生まれたんだって?
またみんなで祝いに行かないとな!」
そう、親父がいた頃の第27騎士団の人たちは時たま家を訪ねてくるのだ。
王都に来たついでだ、と言ってメルバ父さんの飯を美味い美味いと食って帰るのが恒例…
父さんの料理は美味しいからな。
親父の「芯までガッツリ火を通せば大体喰える」理論で出来た料理の5倍は美味しい。
「しかし女の子か…ついに海の公爵様の予言が当たったな」
「えっ、予言ですか?」
「んー…予言というより呪いだな。
陛下とカリーナ様のご成婚祝賀会で言ったんだ、『貴様にもそのうち分かるであろう、娘を嫁に出す苦しみが…』ってさ」
「……なるほど」
通称「海の公爵様」セーユ・ナヴェント様は、カリーナ様のお父様で親父の後見人だ。
グヴェン様の義父でもあるナヴェント公は、衰え知らずの海の男にして一流の魔術師…
そして俺の将来の義祖父様でもある。
「…こうしてみると、俺の周りって凄い人ばっかりだなぁ」
「はは、確かにそうですなぁ」
「ロンバード様も充分凄いお方ですよ?」
「いやぁ、でも…地竜を1頭倒しただけだし」
「お一人でね」
そもそも竜を倒す事自体が大変な事なんですよ?とブレックさん。
だけどあれは俺の手柄というより…
「それは倒し方を知ってたからですよ。
知らなかったら親父が来るまで逃げ続けてたんじゃないかな」
「逃げ続けるだけでも凄いんですが?」
「いやぁ、空を飛べる人なら誰でも出来ると思いますよ?
今回の地竜を引き寄せたのが人為的な事だとして、それをした人もそうやって逃げたんだろうし」
「で、逃げ切れなかったのが東の学生、と」
「そうですね…今回の事は、不幸な事故だったんじゃないかと思いますが」
やっぱり1人で森の中へ行くのは危険だって事だ。
騎士さん達だってグループ行動だし。
あの学生さんも、魔法で止血したくらいなんだから魔法は使えたんだろうけど……。
「こういう時の魔術師ギルドなのに、どうして護衛の依頼を出さなかったんだろう」
お金が無かったのかなぁ。
でも、そもそも魔法を使える人は全員が魔術塔の魔術師リストに登録するように、って決まってて、そうすれば多少お金も貰えるんだし…
うーん。
考えても分からないな。
本人から直接聞くしか無さそう…
「あー…俺、ロンバードの自己評価がおかしい理由が分かったかも」
「えっ?」
急なヨークさんの言葉に、俺は我に返る。
一体何の事?
「比べる相手が全員化物だからだ」
「こらヨーク、人を化物扱いするんじゃない」
「だってそうじゃん!
街一つ索敵できる人とか。
素手で魔物仕留める人とか。
前衛で魔法乱発して目につく魔物全部蹴散らす人とか」
そんな人間離れしたのばかり見ているから目標が異様に高いんだ…とヨークさん。
「特にお前の父ちゃんなー」
するとユッカさんが言った。
「だが、ギゼルはウチで一番の常識人だからなぁ…
普段は至極普通に見えるんじゃないか?」
「その辺、ビゼーが多分一番ヤバいよな」
「えっ」
ビゼーさんはなんと、近衛である第1騎士団の出身らしい。
だから、魔物だけでなく人間相手にも躊躇が無いらしい。
おまけに道徳心の塊みたいな所があって、悪い貴族をリアルに一刀両断…
えっまじで?
「それにさ、あの『弱点を見抜く』能力!」
「ああ『心眼』だろ?見てすぐだからな」
「だから地竜も弱点だけは分かってたんだぜ?
どうやって口の中に雷ぶち込むか悩んだだけで」
「おまけに恐ろしく強いですしね」
「人に剣術を教えるのも上手いぞ」
「書類の数字は間違いだらけですがね!」
「あのひと、計算が苦手なんだよなぁ」
「あっ!だから髪の毛紐を落札するのに500万も出しちゃった…とか?」
「ありうるー!!」
ぶはは、と笑う元第27騎士団の面々。
苦笑するスミスさんとブレックさん。
俺と所長はただそれを黙って見つめ…
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と認識を新たにしたのであった。
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