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【おまけ】第27騎士団、集合!
怪力男の悲しみ
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ユッカ・サンドーラは「怪力」の持ち主だ。
その能力で、騎士学校の学生でありながら多くの武術大会を制してきた。
だから卒業後は引く手あまただった。
だが、人生そう上手くはいかない。
第1騎士団長は叫んだ。
「ユッカ・サンドーラ、お前は首だ!」
ユッカは「何言ってんだこいつ」と思ったが、どうやら模擬戦で相手を片っ端から叩き潰したことが原因らしい。
それから数日後、第2騎士団長も叫んだ。
「お前がいると、怪我人ばかり増える。
うちではもう面倒見きれん!首だ!」
ユッカはまたも「何言ってんだこいつ」と思ったが、やっぱり模擬戦で相手を片っ端から叩き潰したことが原因らしい。
さらにそれから2日後、第3騎士団長は言った。
「なあ、ユッカ。
お前、対人戦に向いてないんじゃないか?
普通な、人間はこんなに叩かなくても気絶する。
つまり手加減が下手くそなんだな。
だからこの際、魔物討伐専門の騎士団に異動してみちゃどうだ。
魔物相手なら殺しても文句言われないし、まあ…遠征は多いし危険ではあるんだが、手当も付くし」
今度はユッカも「なるほど」と得心した。
どうやら人を相手にするのに自分の力は不向きらしい…
なるほど!
「ではそうします」
「じゃあ俺の方で良さそうな団を見繕っておこう。
そっち方面は少々荒くれ者が多いらしいが、ユッカならやっていけると思う」
「はい、ありがとうございます!」
次の日、第3騎士団長はユッカに選択肢を示した。
「魔物討伐専門で今んとこ空きがあるのは第15、16と27騎士団の3つだ。
そんで、そのうち王都に今帰ってきてるのが27。
今日にでも面接したいって言ってるし行くか?」
「はい、是非!」
騎士を辞めなくて良いのなら何でも良い。
騎士になった時、親がすごく喜んでくれたからだ。
家計が助かるからという理由だとしても。
初任給で仕送りをした時の手紙の内容は、今でも覚えている。
【ユッカが稼いでくれたから、割れた窓も交換ができたよ。
本当にありがとう】
貧乏男爵家の長男として生を受け、貧しい事が当たり前で育ったユッカは兎に角金が欲しい。
第27騎士団は魔物討伐部隊の中でも特に荒くれ者・捻くれ者・変わり者が集まるお行儀の良くない所らしいが、魔物から採れる肉や皮なんかを売って小遣い稼ぎもできると聞く。
「……むしろ幸運とも言えるのでは?」
次は雨漏りを直すのだ。
ゆくゆくは台所のかまどを最新式に変えたい。
家の灯りだって魔導灯にしたい。
「よーし、稼ぎまくるぞ!」
夢は膨らむばかりである。
***
そして、数年後。
「ユッカ~!そっち行ったぞ!」
「まかせ、ろ!」
向かってきた人食い熊の鼻先に、ユッカは拳を叩き込む。
熊の鼻はひしゃげ、ついでに頭蓋もひしゃげる。
それから首を捉え、あらぬ方向へグリンと曲げる。
ゴキリ、と嫌な音が鳴って、巨大な熊は静かに…
「よーし、これで20万、頂き!」
剣で斬るより、こっちのほうが皮に傷がつかないから高く買ってもらえる。
それに、儲けは皆で山分けだ。高い方がみんな喜ぶ。
ユッカは自分と仲間両方の為に剣でなく拳を選択した。
だって剣はすぐ壊れるし、高くつく。
その点メリケンサックは剣よりずっとお安い。
「ははっ、最っ高だ!」
ユッカは今、お安く高い物を手に入れられる喜びに満ち溢れていた。
仲間たちも上機嫌でユッカにガッツポーズを送る。
「さっすがだぜ撲殺野郎!」
「それって褒めてるんすか?」
「褒めてる褒めてる!」
今は魔物の増殖期で、いくらでも獲って良いと団長からお達しがあった。
なのでドンドン殺して荷車に積む。
「よーし、これで床板を貼り替えられるぞ!」
「おう、絨毯も良いの買えるんじゃね?」
「いっそこの皮ひいたらいいんじゃね?」
仲間たちとワイワイ言いながら引き上げる。
ユッカにとって第27騎士団は最高の居場所だった。
魔物相手の戦いは、怪我も多いし死人も多い。
だが、「荒くれ者、捻くれ者」と言われている団員は、単に敬語が使えないだけで気の良い連中ばかりだったし、何より魔物なら叩きのめしても褒められるだけだ。
「第3騎士団長殿には、感謝しないとな」
後で知った事だが、第3騎士団長殿は『配材』という能力を持っているのだそうだ。
その能力は、その人間が最も活躍できる場所が分かる…というものらしい。
「あの時出会えて、本当に良かった」
ここを紹介してもらえなかったらと思うとぞっとする。
金も仲間も得られず、家族は貧しい暮らしに逆戻り、そして自分は…。
「ユッカ!次はあっちだぜ!」
「分かった、今行く!」
今日の狩りは絶好調だ。
この調子なら、最新式竈も目前…。
ユッカは拍手するように、拳にはめたメリケンサックをカチカチと鳴らして走った。
その能力で、騎士学校の学生でありながら多くの武術大会を制してきた。
だから卒業後は引く手あまただった。
だが、人生そう上手くはいかない。
第1騎士団長は叫んだ。
「ユッカ・サンドーラ、お前は首だ!」
ユッカは「何言ってんだこいつ」と思ったが、どうやら模擬戦で相手を片っ端から叩き潰したことが原因らしい。
それから数日後、第2騎士団長も叫んだ。
「お前がいると、怪我人ばかり増える。
うちではもう面倒見きれん!首だ!」
ユッカはまたも「何言ってんだこいつ」と思ったが、やっぱり模擬戦で相手を片っ端から叩き潰したことが原因らしい。
さらにそれから2日後、第3騎士団長は言った。
「なあ、ユッカ。
お前、対人戦に向いてないんじゃないか?
普通な、人間はこんなに叩かなくても気絶する。
つまり手加減が下手くそなんだな。
だからこの際、魔物討伐専門の騎士団に異動してみちゃどうだ。
魔物相手なら殺しても文句言われないし、まあ…遠征は多いし危険ではあるんだが、手当も付くし」
今度はユッカも「なるほど」と得心した。
どうやら人を相手にするのに自分の力は不向きらしい…
なるほど!
「ではそうします」
「じゃあ俺の方で良さそうな団を見繕っておこう。
そっち方面は少々荒くれ者が多いらしいが、ユッカならやっていけると思う」
「はい、ありがとうございます!」
次の日、第3騎士団長はユッカに選択肢を示した。
「魔物討伐専門で今んとこ空きがあるのは第15、16と27騎士団の3つだ。
そんで、そのうち王都に今帰ってきてるのが27。
今日にでも面接したいって言ってるし行くか?」
「はい、是非!」
騎士を辞めなくて良いのなら何でも良い。
騎士になった時、親がすごく喜んでくれたからだ。
家計が助かるからという理由だとしても。
初任給で仕送りをした時の手紙の内容は、今でも覚えている。
【ユッカが稼いでくれたから、割れた窓も交換ができたよ。
本当にありがとう】
貧乏男爵家の長男として生を受け、貧しい事が当たり前で育ったユッカは兎に角金が欲しい。
第27騎士団は魔物討伐部隊の中でも特に荒くれ者・捻くれ者・変わり者が集まるお行儀の良くない所らしいが、魔物から採れる肉や皮なんかを売って小遣い稼ぎもできると聞く。
「……むしろ幸運とも言えるのでは?」
次は雨漏りを直すのだ。
ゆくゆくは台所のかまどを最新式に変えたい。
家の灯りだって魔導灯にしたい。
「よーし、稼ぎまくるぞ!」
夢は膨らむばかりである。
***
そして、数年後。
「ユッカ~!そっち行ったぞ!」
「まかせ、ろ!」
向かってきた人食い熊の鼻先に、ユッカは拳を叩き込む。
熊の鼻はひしゃげ、ついでに頭蓋もひしゃげる。
それから首を捉え、あらぬ方向へグリンと曲げる。
ゴキリ、と嫌な音が鳴って、巨大な熊は静かに…
「よーし、これで20万、頂き!」
剣で斬るより、こっちのほうが皮に傷がつかないから高く買ってもらえる。
それに、儲けは皆で山分けだ。高い方がみんな喜ぶ。
ユッカは自分と仲間両方の為に剣でなく拳を選択した。
だって剣はすぐ壊れるし、高くつく。
その点メリケンサックは剣よりずっとお安い。
「ははっ、最っ高だ!」
ユッカは今、お安く高い物を手に入れられる喜びに満ち溢れていた。
仲間たちも上機嫌でユッカにガッツポーズを送る。
「さっすがだぜ撲殺野郎!」
「それって褒めてるんすか?」
「褒めてる褒めてる!」
今は魔物の増殖期で、いくらでも獲って良いと団長からお達しがあった。
なのでドンドン殺して荷車に積む。
「よーし、これで床板を貼り替えられるぞ!」
「おう、絨毯も良いの買えるんじゃね?」
「いっそこの皮ひいたらいいんじゃね?」
仲間たちとワイワイ言いながら引き上げる。
ユッカにとって第27騎士団は最高の居場所だった。
魔物相手の戦いは、怪我も多いし死人も多い。
だが、「荒くれ者、捻くれ者」と言われている団員は、単に敬語が使えないだけで気の良い連中ばかりだったし、何より魔物なら叩きのめしても褒められるだけだ。
「第3騎士団長殿には、感謝しないとな」
後で知った事だが、第3騎士団長殿は『配材』という能力を持っているのだそうだ。
その能力は、その人間が最も活躍できる場所が分かる…というものらしい。
「あの時出会えて、本当に良かった」
ここを紹介してもらえなかったらと思うとぞっとする。
金も仲間も得られず、家族は貧しい暮らしに逆戻り、そして自分は…。
「ユッカ!次はあっちだぜ!」
「分かった、今行く!」
今日の狩りは絶好調だ。
この調子なら、最新式竈も目前…。
ユッカは拍手するように、拳にはめたメリケンサックをカチカチと鳴らして走った。
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