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向かえ!大団円

策士な親戚

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ヨークさんの魔法が放たれた直後、そのまま玄関から普通に中へ入る。

お屋敷の廊下では、昔からお勤めの使用人さんがスヤスヤと寝ている。
俺たちはそれを避けて進み、食堂の扉を開ける。
後でちゃんとどこかへ寝かせよう…。

扉ごしでもヨークさんの魔法が効いたらしく、4人ほど机に突っ伏して寝ている。
シドさんが言う。

「おー、見たこと無いのが居るわー」
「あれを拘束すれば宜しいですかな?」
「うん、後で地下室へ入れとこ」

目が覚めた時に魔法を使われても面倒ですね、と椅子に括り付けた人たちの口にその人たちが履いていた靴下を脱がせて詰め込むブレックさん…

非道。

シドさんがこそっと言った。

「今回の騒動で、この領が巻き込まれる事は分かってたからな。
 『村や町の警戒を強めたせいで、屋敷は手薄』…っていう演出をしといたわけよ」

実は、俺が到着するより前に、親父から手紙が届いてたんだって。
黒幕は自分への同情心を利用して心を操るから気を付けろ、って。

「ほら、トリルって優しいじゃん?
 だからつけ込みに来ると思ったんだよな」
「父さんの弟なのが信じられないですもんね」
「お前も言うねぇ」

トリル叔父さんは、なんて言うか…メルバ父さんから狡猾さを抜いて誠実さを足した感じの人だ。
顔は似てるんだけど…良い人感がすごい。

「エディやルッツからしてみれば、父親と似て非なる者感もまた怖いんだろうな…」
「それはありそうだな。
 おし、次の部屋行くぞ」
「「了解」」

この屋敷は地上2階、地下2階の合計4階。
地下階は備蓄倉庫と牢屋だ。
地上1・2階は入り組んではいないけど、地下は増設に次ぐ増設の結果迷路みたいになっていて「かくれんぼ上級フィールド」と化している。

シドさんに見つからないように隠れて逃げて…そうやって俺とセジュールと従兄弟で良く遊んだなー。
おかげで地下のマップはバッチリ頭の中に…

と昔を思い出していると、シドさんが俺に囁いた。

「ほらな、かくれんぼしといて良かっただろ」
「……!?」

まさか、こういう時の為に…って。
さすが過ぎない?

***

1階を捜索し終わり、2階へ上がる。

「み~~んな、おやすみ~~!」

改めてヨークさんが広範囲の強制睡眠をかけて2階にいる全員を眠らせ、俺とシドさんは使用人の人を安全な場所へ移し、スミスさんとブレックさんは知らないやつを片っ端からふん縛る。

もちろん、口の中には靴下…
まるで作業のように淡々とそれをやるブレックさんに、一抹の狂気を感じる。

2階はトリル叔父さんの執務室があり、そこには叔父さんがいるはず…なんだけど。

「スミスさん、トリル叔父さん、いた?」
「いえ、見当たりません」
「ヨークさんは?」
「いやあ…それらしい人は」

どこにも、見当たらない。
見落とすことなんかないと思うけど、もう一回確認して回ってみようか…

ん?

「シドさん、トリル叔父さんを索敵で見つけられないですか?」
「ん?ああ、トリルは……
 まあ、地下に行ってみようじゃないか」

……シドさんの様子がおかしい?
もしかして、シドさんはすでに操られて……
って、操るってどの程度までいけるんだろ。

「…シドさん、バレン・ロフィーシュの事は」
「ああ、可哀想だとは思うが」
「…思うんですね」
「残念ながら、同情は出来んね」
「えっ、なんでですか?」
「何がだ?」

可哀想だと思うのと、同情って違うの?
俺はずっと同じものだと思ってたけど…俺の感覚とシドさんの感覚ってそれほど違うんだろうか。
違うんだろうな。
だって俺には魔物と最前線で戦い続けた経験も無いし。

「その、同情できないって…」
「そりゃ学園に通ってたんなら、他に生きる道はいくらでもあっただろうからな」
「……そうですよね」

賊になる以外の道が無い奴。
盗む以外に生きていく道がない奴。
そういうのでもないなら、同情もくそもない…

シドさんはそう言って真剣な顔つきになる。

「俺も、貴族の真似事は出来ない方でな。
 これ以上は聞かないでくれると、助かる」
「……?分かりました」

シドさんの言い分が良く分からないまま、俺たちは静かに地下へと降りていった…。

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