【完結】ざまぁは待ってちゃ始まらない!

紫蘇

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本気のざまぁを見せてやる!

【グヴェン】騒動

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ロンバードが石碑へ向かったのを見て、俺は病院へ向かう。
村での聞き取り調査の間に、気になる話を聞いたからだ。

病院に着くと、丁度受付のところで患者と談笑している院長がいたので声を掛けた。

「やあ、院長殿!」
「これはこれは、グヴェン様…!
 西の方からわざわざ」
「ああ、石碑の事が気になってな。
 ここは東で、うちは西。
 反対側にあたる石碑なだけに、何かあったら影響が大きいんじゃないかと思ったんだ」
「そうでしたか」
「ところで、学生が運び込まれたと聞いたが…」
「ええ、こちらです…ご案内致します」

院長に連れられて部屋に入る。
そこにはロンバードの護衛のうち2人がすでに待機しており、問題の「学生」を見張っていた。

2人に院長が声を掛ける。

「どうですか、ご学友の様子は」
「特に目を覚ます様子は、まだ…」
「心配ですから、早く王都へ運びたいのですが…
 いけませんか」
「ええ、頭を打っているようですから、まずは意識を取り戻してからでないと判断できません」
「そうですか…」

どうやら護衛の方でも、この男が怪しい事に気が付いたらしい。
学友という事にして連行しよう、という腹のようだ…

…そうだな、ロンバードが戻る前に処理した方が良いかもしれん。

「俺が治癒してみよう。
 ロンバードほど上手くは無いが、出来なくもない」
「良いのですか!?」
「我が国を支える官吏になるかもしれん人材なら、元第二王子として助けるのは当然のことだ」

それにしても頭か…神経を使うな。

「すまんが、院長殿。
 集中したいので席を外して貰えるか?」
「えっ、ああ、ですが…」
「言っただろう、俺はロンバードほど上手くない。
 院長殿は少し魔法を使うだろ?集中する時どうしてもその魔力が気になるんだ、すまんな」
「は、はい、それでは…」

ロンバードの治癒魔法は、我が国の最高峰と言ってもいい。
それにはあの性格もあるだろうが、何より人体への造詣が深いんだ。
どこにどういう臓器があって、それが体の中でどういう働きをしているか…とか、関節、骨、筋肉、神経…
医者にでもなるつもりだったのだろうか。

院長が気遣わし気に部屋を出ていく。
それをしっかりと見送って、俺は護衛2人に話しかける。

「…他の3人は」
「カンテとクレーは、他にそういう人間が入り込んでいないかを調査に…魔術師のゼルは、王宮へ飛びました」
「…よし」

ロンバードについた護衛の5人は、ロンバードを守る「範囲」を広げたらしい。
ようやく自分たちの仕事が分かったといったところだな。

「…じゃあ、行くぞ。
 暴れたら、頼む」
「はっ」

頭…頭の中には脳ってのがあって、それが体に指令を出してる…とか、何とか。
そこに傷が付いたら、大変…なんだっけ?

「…まあ、いいか」

細かい事はどうでも、傷を修復すりゃ何とかなんだろ…

「も~どれ~もとにも~どれ~」
「……」

なんだよその顔は!
そりゃロンバードのほうが格好良いだろうさ…
医者が使うような言葉も使うしな。

そもそも治癒ってのは特定の詠唱が無いんだ。
単純に自分の魔力を他人の身体に足して都合つけるだけだからな。
だからこそ奥が深い…

「も~どれ~」
「……」

だから!
なんなんだよその顔は!!

……ん?

「ーーーぅ」
「おい、反応…っ!?」

男は目を覚まし、俺の顔を見るとベッドから抜け出そうとした。
が、うまく行かずベッドから落ち、また頭を打ちそうになったところを護衛に受け止められて捕まった。
だが、そう簡単に大人しくはしてくれない。

「くそっ!離せっ!!」
「おい、暴れるな!」
「…どうしたんですか!?」

騒ぎを聞きつけて院長が入ってきた。
目を覚ました「学生」は院長に向かって叫ぶ。

「助けて!助けてくれ!!」

護衛の2人が上手い事フォローする。

「大丈夫だ!もう大丈夫だぞ!」
「もう魔物はいないんだ、落ち着け!」

つまりこいつは錯乱している…
という事にしよう、って、なるほどね。

「仕方ない、………強制睡眠!」
「く、はな、せぇ……」

…よし。

「魔物に襲われた事が、相当の恐怖を彼に植え付けたのでしょうか…?」

護衛のひとりが俺に話しかける。
俺はそれに乗っかって、こいつを移動させるべき理由をこじつける。

「そうだな…この村にいると、また起きた時に思いだして錯乱するかもしれない。
 早めに王都へ運んだ方が良い…なあ、院長殿?」
「……そう、かも、しれません」
「…決まりだな」

俺は多少強引に退院を認めさせた。
こいつが何者なのかは分からんが…

「心配するな、院長殿。
 俺が責任を持って王都へ運ぶ」
「はい、お願い致します」

何か情報は持っているだろう。
後は…親父と兄貴に頼むとするか。
そろそろ箒を返さないと、母上も怒るだろう…

俺はその「学生」を抱え、病院を後にする。

「ロンバードの護衛、頼んだぞ」
「はい、グヴェン様」

これで少しは事態が把握できれば良いが…。

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