115 / 218
本気のざまぁを見せてやる!
魔術師は結婚を断りたい 9
しおりを挟む
石碑の修復が終わり、さらに柵を立てて倒れないようにして…
そうしてようやく、東の端へ向かう。
途中にある村や町には訪問済みだから、一気に東端の村まで行けるのだ。
一日で行ける所まで走り、宿がなければ車中泊をして進む。
遅れを少しでも取り戻すためだ。
それに、馬車に乗って景色を見ている間はあまり思い詰めなくて済む。
やっぱり旅は良いな…
魔法の飴の事が終わったら、今度は世界を回ろうか。
毎日違う景色を見て、歩いて…時々誰かに会う。
何だか素敵じゃない?
「でもなぁ…」
俺が居なくなったら困る人もいるわけで…。
その人たちのために、俺は馬車の中でも思いついたアイデアを書き留めたり、まだ魔力集積回路に落とし込めてない魔法の演算をしたりしている。
質のいい馬車だからか、室内がそれほど揺れないのが有難い…
これをグヴェン様に託しておけば、きっとダリル様に届けてくれる。
多分、これが最後の贈り物だ。
…そういえば、最初にダリル様に贈ったものは何だったかなぁ。
当時は無邪気に、王子様と結婚するんだ~!なんて思ってたな…。
アホすぎる。
「思えば遠くへ来たもんだ」
「どうしたんだロンバード、さっきから」
「いえ、ただの…独り言です」
「兄貴が手紙くれって言ってたの、書いたか?」
「いえ、まだ…」
「一言でも良いんだ、早く送ってやれよ…やる気が出ないだろうが」
「…でも」
「いいから書け。
頑張ってくださいの一言で良いんだから」
でも、いまダリル様に手紙を書いたら、きっと未練がましい内容になる。
忘れて下さいって出てきたのに、それじゃ何の意味も無いじゃん。
「何でそんなに、頑ななんだかね…」
俺が王家の一員になる事を望まない人たちがいる。
殺したい程憎んでる人がいる…
「…その、殺したい程恨んでるってのが、分かんないんだよな」
「でも、親を殺されたんなら…そう思うのも無理は無いんじゃないですか」
「お前が殺したんならな」
「俺じゃなくても、親父が…」
「殺されそうになったら誰だって反撃する」
「でも、そんな事情は彼らに分からなくて…」
親父から、過去には命を狙われる度に正当防衛の名の下に相手を傷つけ、時には殺してしまう事もあったんだと聞かされた事がある。
優しいだけではやっていけない世界だと…
だから襲われた時にはまず自分を確実に守れ、と…
殺さないで解決できる事ばかりじゃないから、覚悟を決めておけ、と…
そう何度か釘を刺されている。
だけど突然、家族を殺されたら、その人はその犯人を恨むし、犯人の家族の事も恨むだろう。
正当防衛かどうかなんて関係ない。
それが分かる年齢だったかも定かじゃない。
第16騎士団の人たちが魔物の全てを恨んでいるように、親父に親を殺された人は親父の血を引く者全てを恨むんじゃないだろうか。
だから、俺は何人もから恨まれているって事で…。
だから、俺は誰からも尊敬されるカリーナ様のようにはなれない。
なのに、グヴェン様は俺に言った。
「あのな…人を殺すって、簡単じゃないんだぞ」
「?」
「殺してやる、と思うほど憎んでいても、実際にそれをするとなると躊躇するのが普通だ。
殺せば死刑になる事も、自分が悪人として裁かれる事も、明白だからな。
それを意地でも殺す、何としてでも殺す、って、相当異常な精神状態だぞ。
よっぽど……、ど……、まさか」
「?」
「殺意の増幅…!」
おい、馬車停めてくれ!!
グヴェン様は窓をあけて叫んだ。
馬車が急停止し、グヴェン様は馬車の屋根に積んであった真っ赤な箒バイクに跨った。
「少しの間だけ離れる!
ロンバードを頼むぞ、みんな!!」
「はいっ!」
そう言ってグヴェン様は空へと急上昇し…
本当に少しの間だけ、どこかへ消えた。
***
戻ってきたグウェン様は、明らかに苛立っていた。
「あの…何か、俺」
「お前じゃねえ、親父の父親か弟か、それだ」
「は、はあ…」
ムスッとして黙り込むグウェン様。
グウェン様の親父の父親…前の王様の事だ。
そして弟は陛下の弟さん。
2人とも「大改革」で処刑されて、随分になる…
その人たちが、今更どうかした?
俺はグウェン様の顔色をうかがう。
亡霊とかそういうのじゃない…よね、この感じ。
グウェン様は暫く黙りこみ…ぼそり、と言った。
「もしかしたら、お前を王妃に相応しくないと言った連中は…お前と誰かを挿げ替えたいのでは無い…
のかも、しれん」
「……?」
それは奇妙な、思いつき…のような話だった。
「奴らは、実は兄貴の方をすげ替えたかった…
のかも、しれん」
「えっ…でも、じゃあ、俺は何で殺されかけて…」
「殺せないと踏んで、けしかけた。
ただお前の不安を煽るために」
「……?」
よくわからない。
確かに死にはしなかったけど、死にそうな目にあったのには間違いなかったからだ。
グウェン様の話は続いた。
「現にお前は、兄貴と結婚出来ない理由の1つとして、『殺したいほど恨まれてる』と言った」
「それは…言いましたけど、でも他にも理由が」
そりゃ恨まれてるのが1番の理由だけど、それだけじゃなくて…。
やりたい事全部辞めてやらなきゃならない事だけをする人生に、どうしても納得がいかないからだ。
「愛があるのなら出来るはずだ、って…
出来ないのは愛がないからだ、って…」
そこまで出来ない俺は、ダリル様と結婚できるだけの愛を、持ち合わせていないんじゃないかって…。
「…あのなあ、ロンバード。よく聞け」
「……はい」
「お前を王子妃として、未来の王妃として迎えるために、どれだけの人間が準備をしていると思う」
「えっ…」
「港では、兄貴とお前の為の船を建造している。
船旅の間も仕事が出来るように、魔術塔の研究室と同じくらいの設備を整えた船室も作った」
「えっ!?」
「飯屋じゃ、ご成婚記念の料理を考案してる。
沢山の工房が、記念品を作り始めている。
祭りの準備に頭を悩ませてる村人も、どんなお祭りがあるのか楽しみにしている子どももいる」
「……」
「ロンバード、気づけよ。
お前が第一王子の伴侶になることを支持してるやつのほうが、大多数だって」
グウェン様はそれだけ言って、黙った。
俺は上手く反論出来る気がしなくて、黙った。
静かな緊張が、馬車の中に漂い…
それは次の休憩まで、続いた。
そうしてようやく、東の端へ向かう。
途中にある村や町には訪問済みだから、一気に東端の村まで行けるのだ。
一日で行ける所まで走り、宿がなければ車中泊をして進む。
遅れを少しでも取り戻すためだ。
それに、馬車に乗って景色を見ている間はあまり思い詰めなくて済む。
やっぱり旅は良いな…
魔法の飴の事が終わったら、今度は世界を回ろうか。
毎日違う景色を見て、歩いて…時々誰かに会う。
何だか素敵じゃない?
「でもなぁ…」
俺が居なくなったら困る人もいるわけで…。
その人たちのために、俺は馬車の中でも思いついたアイデアを書き留めたり、まだ魔力集積回路に落とし込めてない魔法の演算をしたりしている。
質のいい馬車だからか、室内がそれほど揺れないのが有難い…
これをグヴェン様に託しておけば、きっとダリル様に届けてくれる。
多分、これが最後の贈り物だ。
…そういえば、最初にダリル様に贈ったものは何だったかなぁ。
当時は無邪気に、王子様と結婚するんだ~!なんて思ってたな…。
アホすぎる。
「思えば遠くへ来たもんだ」
「どうしたんだロンバード、さっきから」
「いえ、ただの…独り言です」
「兄貴が手紙くれって言ってたの、書いたか?」
「いえ、まだ…」
「一言でも良いんだ、早く送ってやれよ…やる気が出ないだろうが」
「…でも」
「いいから書け。
頑張ってくださいの一言で良いんだから」
でも、いまダリル様に手紙を書いたら、きっと未練がましい内容になる。
忘れて下さいって出てきたのに、それじゃ何の意味も無いじゃん。
「何でそんなに、頑ななんだかね…」
俺が王家の一員になる事を望まない人たちがいる。
殺したい程憎んでる人がいる…
「…その、殺したい程恨んでるってのが、分かんないんだよな」
「でも、親を殺されたんなら…そう思うのも無理は無いんじゃないですか」
「お前が殺したんならな」
「俺じゃなくても、親父が…」
「殺されそうになったら誰だって反撃する」
「でも、そんな事情は彼らに分からなくて…」
親父から、過去には命を狙われる度に正当防衛の名の下に相手を傷つけ、時には殺してしまう事もあったんだと聞かされた事がある。
優しいだけではやっていけない世界だと…
だから襲われた時にはまず自分を確実に守れ、と…
殺さないで解決できる事ばかりじゃないから、覚悟を決めておけ、と…
そう何度か釘を刺されている。
だけど突然、家族を殺されたら、その人はその犯人を恨むし、犯人の家族の事も恨むだろう。
正当防衛かどうかなんて関係ない。
それが分かる年齢だったかも定かじゃない。
第16騎士団の人たちが魔物の全てを恨んでいるように、親父に親を殺された人は親父の血を引く者全てを恨むんじゃないだろうか。
だから、俺は何人もから恨まれているって事で…。
だから、俺は誰からも尊敬されるカリーナ様のようにはなれない。
なのに、グヴェン様は俺に言った。
「あのな…人を殺すって、簡単じゃないんだぞ」
「?」
「殺してやる、と思うほど憎んでいても、実際にそれをするとなると躊躇するのが普通だ。
殺せば死刑になる事も、自分が悪人として裁かれる事も、明白だからな。
それを意地でも殺す、何としてでも殺す、って、相当異常な精神状態だぞ。
よっぽど……、ど……、まさか」
「?」
「殺意の増幅…!」
おい、馬車停めてくれ!!
グヴェン様は窓をあけて叫んだ。
馬車が急停止し、グヴェン様は馬車の屋根に積んであった真っ赤な箒バイクに跨った。
「少しの間だけ離れる!
ロンバードを頼むぞ、みんな!!」
「はいっ!」
そう言ってグヴェン様は空へと急上昇し…
本当に少しの間だけ、どこかへ消えた。
***
戻ってきたグウェン様は、明らかに苛立っていた。
「あの…何か、俺」
「お前じゃねえ、親父の父親か弟か、それだ」
「は、はあ…」
ムスッとして黙り込むグウェン様。
グウェン様の親父の父親…前の王様の事だ。
そして弟は陛下の弟さん。
2人とも「大改革」で処刑されて、随分になる…
その人たちが、今更どうかした?
俺はグウェン様の顔色をうかがう。
亡霊とかそういうのじゃない…よね、この感じ。
グウェン様は暫く黙りこみ…ぼそり、と言った。
「もしかしたら、お前を王妃に相応しくないと言った連中は…お前と誰かを挿げ替えたいのでは無い…
のかも、しれん」
「……?」
それは奇妙な、思いつき…のような話だった。
「奴らは、実は兄貴の方をすげ替えたかった…
のかも、しれん」
「えっ…でも、じゃあ、俺は何で殺されかけて…」
「殺せないと踏んで、けしかけた。
ただお前の不安を煽るために」
「……?」
よくわからない。
確かに死にはしなかったけど、死にそうな目にあったのには間違いなかったからだ。
グウェン様の話は続いた。
「現にお前は、兄貴と結婚出来ない理由の1つとして、『殺したいほど恨まれてる』と言った」
「それは…言いましたけど、でも他にも理由が」
そりゃ恨まれてるのが1番の理由だけど、それだけじゃなくて…。
やりたい事全部辞めてやらなきゃならない事だけをする人生に、どうしても納得がいかないからだ。
「愛があるのなら出来るはずだ、って…
出来ないのは愛がないからだ、って…」
そこまで出来ない俺は、ダリル様と結婚できるだけの愛を、持ち合わせていないんじゃないかって…。
「…あのなあ、ロンバード。よく聞け」
「……はい」
「お前を王子妃として、未来の王妃として迎えるために、どれだけの人間が準備をしていると思う」
「えっ…」
「港では、兄貴とお前の為の船を建造している。
船旅の間も仕事が出来るように、魔術塔の研究室と同じくらいの設備を整えた船室も作った」
「えっ!?」
「飯屋じゃ、ご成婚記念の料理を考案してる。
沢山の工房が、記念品を作り始めている。
祭りの準備に頭を悩ませてる村人も、どんなお祭りがあるのか楽しみにしている子どももいる」
「……」
「ロンバード、気づけよ。
お前が第一王子の伴侶になることを支持してるやつのほうが、大多数だって」
グウェン様はそれだけ言って、黙った。
俺は上手く反論出来る気がしなくて、黙った。
静かな緊張が、馬車の中に漂い…
それは次の休憩まで、続いた。
91
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説

本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる