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本気のざまぁを見せてやる!

魔術師は結婚を断りたい 5

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「ロンバード様、これはまさか…」
「しーっ、我慢、絶対攻撃しちゃ駄目」
「確かに、挑んだ瞬間に死にますな」
「ひぃ…っ」

俺は一緒に付いてきた護衛の3人と一緒に、石碑の前で息を殺した。
隠密魔法を使ってるけど、こいつは随分と鼻が利くらしく、さっきからこっちをフムフムと嗅いでいる。

「…っ!」
「ひ、ひぃっ」
「は、はやく、あっちいけっ…」

何がそんなに気になるんだろうなぁ。
別に攻撃したりなんかしないのに。
俺、何か美味しいもの持ってきたかな…

「もしかして、料理したから匂いがついてるのかも…」
「そ、そんなぁ…」
「俺だけ動いてみます?そしたら分かるかも」
「だめですよっ」
「なんでそんなに冷静なんですかっ!?」

護衛の人たちは、対人の戦闘経験は豊富だけど魔物となると経験が少ないらしい。

「この地竜って魔物はね、攻撃しない限り襲って来ないんですって」
「ほ、ほんとですか…?」
「し、しんじますよ!?」

うーん、そう言われるとな…。
親父とシドさんの話と本の内容を合わせると多分そう、ってだけだからな。
個体差があったらどうしようも無い。

「何か気を引くような事があれば、そっちに関心が向くのかな…」

親父の広域結界があるから、本来ならこの石碑の裏に回り込めば勝てる。
問題はこの石碑が土台から分離してる事だ。
こいつがチョコっとでも当たったら多分倒れる。
倒れたら多分えらいことが起きる。

俺は二次元ポケットに手を突っ込んで探る。
魔法の飴があったので、一粒手に取る。

「みんな、逃げる準備をして」
「はいっ…」

3人に物理無効のバフを掛ける。
それから掛け声…

「行くよ、1、2の、3」

地竜に当たらないように遠くへ投げる。

カサリ、と音がして草むらに飴が落ちる…
地竜の注意が、一瞬逸れる。

「いまだ!走って!」

護衛の3人を石碑の裏側、つまり親父の結界内へと向かわせる。
俺はその場に残って、石碑に物理無効…!

「ロンバード様っ!?」
「3人とも、村へ走って!みんなを避難させて!!」
「は、はいっ!!」
「俺は空を飛べる、大丈夫だから!」

それから俺は、敢えて地竜の視界に入る位置へと飛んで、叫ぶ。

「こっちだ、地竜!追いかけっこしよう!」

俺は地竜の鼻先をタッチして、自分に速度倍化のバフを掛け、森の中へ走る。

とにかく石碑から少しでも引き離さないと…!

地竜は追いかけっこの提案に乗ったのか、さっきの鼻タッチを攻撃とみなしたのか、俺をドスンドスンと追いかけて来る。

「こっちこっち!捕まえてみな!」

俺は石碑を背にして走る。
まずは倒させない、それが大事。
位置がちょっとズレても、結界は機能する…
そのくらいの余裕を見て、あの回路は作られている。

「森の木が邪魔で飛べないな…っと!」

走りながら鬱蒼と茂った木の枝を切り落とし、空へのルートを確保。
上空へそのまま飛び上がる。
箒なしで飛べるようになってて良かった!

「おいで~!こっちだよ!」

地竜の興味を引き続けなきゃいけないから、とにかく今は声を出す。
最悪一発入れれば、地の果てまで追って来るだろう。

「大丈夫…」

だって、あれの倒し方を知ってる。
ブレスを吐こうとした瞬間を狙って、口の中に特大の雷撃を打ち込むだけだ。
出来る自信はある。
あとは覚悟が決まるだけ…

「やらなきゃ、やられる、だからやる」

命を奪う事は、とても恐ろしい。
だけどそれが出来なきゃ、この先魔術師なんてやってられない…!

「どっちが、どっちか、人を守るために、魔物を倒す、村を守るために、あいつを倒す…!」

分かってる、分かってるけど、俺はまだ逃げ続ける。
奴は追って来る、上空に飛んだ俺を落とそうと、ブレスを吐く。

「おおっと!」

ブレスを吐くタイミングを見極めなきゃ。
だからもう少し逃げ回らなきゃ。

そうだ、まだ、もうちょっと…

だけど。

いつかは攻撃する。
攻撃しなきゃ。
村を守らなきゃ…。

竜を、殺さなきゃ。

…殺さなきゃ…ならないんだ…!
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