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ざまぁなど知らぬ!
【閑話】国王も父親である
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ある日の夜、王宮の一室で国王と王妃は蒸留酒を片手に語り合っていた。
「なあカリーナ。
ダリルがロンバードとの婚約をさも『国益のため』のように振舞うのをどう思う?」
「素直じゃないのは父親譲りだな、と思うね」
「いや、そういう事を聞いている訳じゃ」
「はは、分かってるよ」
王妃カリーナは快活に笑い、国王リブリーの肩を叩いた。
表では完璧な淑女を演じる彼女の本質は、きっぷが良く多少ガサツな好奇心のかたまりだ。
リブリーは彼女のそんな所に惚れたのだ。
「好きだから結婚するなんて事が通じる立場じゃないからね。
言い訳としては良い方なんじゃない?」
「だが、それでは本当に愛しているのか、相手が不安になるのではないか?」
二十年程前、血の粛清を断行した「紅の王」。
だがその冷徹な為政者も、プライベートは心配性な一人の父親だ。
ごく親しい者しか知らないその顔を、王妃カリーナは心から愛していた。
「心配ないさ、リブリーだって私との婚姻をやれ公爵家の後ろ盾を得るためだとか何だとか説明していただろ?
だけど私はリブリーの愛を疑った事は一度も無いんだから」
「カリーナ…」
当時多くの貴族から嫌われ、婚約者も決まらない程に「見捨てられていた」リブリー。
魔物の大増殖という災害がなければ、お飾りの王にもなれず廃嫡される予定だった。
貴族連中に媚を売らず、贅沢もせず、得た金の殆どを孤児院や養老院に寄付するような清廉な男のたった一人の友人が、何故か希代のナンパ男メルバだったのだから不思議なものだ。
そのメルバも今や、あらゆる情報を集めて分析し施策を提案する王の側近…
実は学生の頃から変わらない立ち位置でもある。
そうだ。
リブリーとメルバは学園でいつでも一緒だった。
だからリブリーが疎ましかった連中は考えた。
お互い長男だから、こいつらを結婚させればどちらかが家を捨てる事になる。
ならばリブリーに王家を捨てさせれば良い。
そして「貴方の旦那様とは何度かベッドを共にした仲でね」と馬鹿にしてやろうと…。
まあ、全員を地獄に送った今となってはどうでも良い話だ。
「私だってリブリーとメルバの噂は聞いていたけど、この目で見れば二人の間には友情しか無い事は明白だったしね。
それに、リブリーが私に義務からではなく心から丁寧に接してくれて、嬉しかったし…。
そんな時、メルバがあなたを焚きつけているのを見たんだ。
『愛は言わなきゃ伝わらないよ』ってね」
「…あいつ、わざと見せたな」
「はは、そうかもね!あのメルバだもん」
メルバは時に「分からせる」為にそういう事をする癖がある。
ギゼルを手に入れた時もそうだった。
これは俺のものだ、と周囲を牽制するために…モニョモニョ。
「人目は無いけど誰かが見る可能性が高い場所を良く知ってるからな…」
「あれは最早『能力』ね」
自分の目で見たものが衝撃的であればあるほど、人に話さずにはいられない。
強烈な真実の伝え方であり、効果的に広める方法…
では、あるけれど。
「ギゼル殿も大変なやつに好かれたものだ」
「ほんと、あんなに嫉妬深いとはね!
ギゼル殿と噂のあったシドさんを、自分の弟の旦那にしちゃうぐらいに」
「その噂も、誰がたてたものだかなぁ…」
「けど噂をしただけで罰するなんて、そんな事出来ないものね」
「一種の娯楽でもあるからな」
息子の結婚には、今も下らない噂が湧いている。
相手が二転三転し、おまけに結婚する前から不倫相手まで囁かれているのだ…
そのお相手にパン爺までいるのには笑うしかない。
「まあ、あの子のいう事に乗ってやるのが親の務めなんじゃない?
私はグウェンだけじゃなく、ダリルにも愛する人と結ばれて欲しいね」
グウェンはダリルの弟だ。
今年19歳の彼は、15歳の時に公爵領の跡継ぎにと乞われて港町へ行き、そこで一人の男性と恋に落ちた。
「まさか行ったその日に『結婚したい人がいる』と言い出すとは思わなかったな…」
「パパがグヴェンの好みを調べて仕込んでいたのかもしれんな」
「はは…だが、あのお方ならやりそうだ」
国を再建している只中、後継者争いなどしている場合ではない。
カリーナの父親は、そうした思いもあって、第二王子を養子にしたいと言ったのだろう。
「まあ、私一人しか子どもがいなかった事もあるだろうけどね」
「そうだな…すまない、カリーナ。
私と結婚しなければ、オーセン初の女領主にもなれただろうに…」
オーセンでは、女性の地位が低い。
リブリーの母親はその事に苦しめられ、いつも疲れた顔をしていた。
所詮女である母親の言うことなど聞く価値は無い…と傍若無人に振る舞う弟に、女の価値は乳だけだと公言して憚らない夫。
そんな彼らに右倣えする宮廷…。
だから、リブリーは女性の地位を上げたかった。
カリーナと最初に意気投合したのも、そのことについてだった。
王都に次ぐ港湾都市を擁する「西の公爵領」の領主が女になれば、男どもの意識も変えられる…
カリーナはそう考えて、当時は男子しか通っていなかった「学園」に飛び込んだ。
その夢は、リブリーとの結婚で叶わなくなってしまったけれど…。
「いいんだよリブリー。
女の地位を上げる手段はそれだけじゃない。
ダリルから聞いたんだ、面白い子がいるってね」
今度茶会にでも招いてみようかと思ってるんだ、とカリーナ。
息子の噂に登場する人物でもある彼女は…
今後、台風の目となるのだろうか?
「なあカリーナ。
ダリルがロンバードとの婚約をさも『国益のため』のように振舞うのをどう思う?」
「素直じゃないのは父親譲りだな、と思うね」
「いや、そういう事を聞いている訳じゃ」
「はは、分かってるよ」
王妃カリーナは快活に笑い、国王リブリーの肩を叩いた。
表では完璧な淑女を演じる彼女の本質は、きっぷが良く多少ガサツな好奇心のかたまりだ。
リブリーは彼女のそんな所に惚れたのだ。
「好きだから結婚するなんて事が通じる立場じゃないからね。
言い訳としては良い方なんじゃない?」
「だが、それでは本当に愛しているのか、相手が不安になるのではないか?」
二十年程前、血の粛清を断行した「紅の王」。
だがその冷徹な為政者も、プライベートは心配性な一人の父親だ。
ごく親しい者しか知らないその顔を、王妃カリーナは心から愛していた。
「心配ないさ、リブリーだって私との婚姻をやれ公爵家の後ろ盾を得るためだとか何だとか説明していただろ?
だけど私はリブリーの愛を疑った事は一度も無いんだから」
「カリーナ…」
当時多くの貴族から嫌われ、婚約者も決まらない程に「見捨てられていた」リブリー。
魔物の大増殖という災害がなければ、お飾りの王にもなれず廃嫡される予定だった。
貴族連中に媚を売らず、贅沢もせず、得た金の殆どを孤児院や養老院に寄付するような清廉な男のたった一人の友人が、何故か希代のナンパ男メルバだったのだから不思議なものだ。
そのメルバも今や、あらゆる情報を集めて分析し施策を提案する王の側近…
実は学生の頃から変わらない立ち位置でもある。
そうだ。
リブリーとメルバは学園でいつでも一緒だった。
だからリブリーが疎ましかった連中は考えた。
お互い長男だから、こいつらを結婚させればどちらかが家を捨てる事になる。
ならばリブリーに王家を捨てさせれば良い。
そして「貴方の旦那様とは何度かベッドを共にした仲でね」と馬鹿にしてやろうと…。
まあ、全員を地獄に送った今となってはどうでも良い話だ。
「私だってリブリーとメルバの噂は聞いていたけど、この目で見れば二人の間には友情しか無い事は明白だったしね。
それに、リブリーが私に義務からではなく心から丁寧に接してくれて、嬉しかったし…。
そんな時、メルバがあなたを焚きつけているのを見たんだ。
『愛は言わなきゃ伝わらないよ』ってね」
「…あいつ、わざと見せたな」
「はは、そうかもね!あのメルバだもん」
メルバは時に「分からせる」為にそういう事をする癖がある。
ギゼルを手に入れた時もそうだった。
これは俺のものだ、と周囲を牽制するために…モニョモニョ。
「人目は無いけど誰かが見る可能性が高い場所を良く知ってるからな…」
「あれは最早『能力』ね」
自分の目で見たものが衝撃的であればあるほど、人に話さずにはいられない。
強烈な真実の伝え方であり、効果的に広める方法…
では、あるけれど。
「ギゼル殿も大変なやつに好かれたものだ」
「ほんと、あんなに嫉妬深いとはね!
ギゼル殿と噂のあったシドさんを、自分の弟の旦那にしちゃうぐらいに」
「その噂も、誰がたてたものだかなぁ…」
「けど噂をしただけで罰するなんて、そんな事出来ないものね」
「一種の娯楽でもあるからな」
息子の結婚には、今も下らない噂が湧いている。
相手が二転三転し、おまけに結婚する前から不倫相手まで囁かれているのだ…
そのお相手にパン爺までいるのには笑うしかない。
「まあ、あの子のいう事に乗ってやるのが親の務めなんじゃない?
私はグウェンだけじゃなく、ダリルにも愛する人と結ばれて欲しいね」
グウェンはダリルの弟だ。
今年19歳の彼は、15歳の時に公爵領の跡継ぎにと乞われて港町へ行き、そこで一人の男性と恋に落ちた。
「まさか行ったその日に『結婚したい人がいる』と言い出すとは思わなかったな…」
「パパがグヴェンの好みを調べて仕込んでいたのかもしれんな」
「はは…だが、あのお方ならやりそうだ」
国を再建している只中、後継者争いなどしている場合ではない。
カリーナの父親は、そうした思いもあって、第二王子を養子にしたいと言ったのだろう。
「まあ、私一人しか子どもがいなかった事もあるだろうけどね」
「そうだな…すまない、カリーナ。
私と結婚しなければ、オーセン初の女領主にもなれただろうに…」
オーセンでは、女性の地位が低い。
リブリーの母親はその事に苦しめられ、いつも疲れた顔をしていた。
所詮女である母親の言うことなど聞く価値は無い…と傍若無人に振る舞う弟に、女の価値は乳だけだと公言して憚らない夫。
そんな彼らに右倣えする宮廷…。
だから、リブリーは女性の地位を上げたかった。
カリーナと最初に意気投合したのも、そのことについてだった。
王都に次ぐ港湾都市を擁する「西の公爵領」の領主が女になれば、男どもの意識も変えられる…
カリーナはそう考えて、当時は男子しか通っていなかった「学園」に飛び込んだ。
その夢は、リブリーとの結婚で叶わなくなってしまったけれど…。
「いいんだよリブリー。
女の地位を上げる手段はそれだけじゃない。
ダリルから聞いたんだ、面白い子がいるってね」
今度茶会にでも招いてみようかと思ってるんだ、とカリーナ。
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今後、台風の目となるのだろうか?
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