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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息

チャラ令息の華麗なる転身

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僕は宮廷官吏、メルバ・キャンディッシュ。

毎日ちゃんと出勤して仕事して、色んな人に会って真面目な話をする。

話の内容はもちろん「この国をより善くする為に何が必要か」って事。

ギゼルもいっぱい案をくれるんだけど、それをそのまま言う訳にはいかない。
それを実現した場合に起きるだろう「良い事・悪い事」を想定したり、実現に必要なものを考えたり…

しなきゃいけない事が山ほどある。
だから沢山の人と真面目な話をするし、沢山の文献や資料に埋もれる事もある。
やたらと計算している日もあるし…
ふふん、これでも算学は得意なんだ!

出来る男メルバ・キャンディッシュ!
この時のために家族にすら本当の姿を見せなかった切れ者、メルバ・キャンディッシュ!!

そうやって「遊び人は仮の姿、真実は貴族の鑑」という印象を着々と周りに植え付けているよ。

だけど…

「だけど、それだけじゃ足りない…」

来月からはそこに「一途な男」っていう印象を加えるべく、僕は労務課に申請書を提出した。

***


「…で、来月から毎日午後休だと?」
「はい、ギゼル殿が学園に復学するにあたり、多数の不安な点が確認されております。
 私が侯爵家の威厳をもって、その解消に当たるのが一番効果的ではないかと」
「…で?本音は」
「毎日会いたい。
 会ってイチャイチャしたい。
 あわよくばキスしてセックスしたい」
「まだキスもしてないのか」
「……お触りしかしてない」
「普通逆じゃね」

申請書は意外と早くリブリーのところへ着いたらしく、朝から執務室に呼び出された。
っていうか隣の部屋なんだからこっちに来れば良いのに…
きっと少し怒ってるんだな。

「魔法無し貴族はもうみんな、僕とギゼルが結婚する事を歓迎してくれてるんだ。
 最強の魔術師をこっちの派閥に引き入れるのにも必要だ、ってね」
「ほー、宴のおかげだな?」
「そうかもね!」

けど、本当はそれだけじゃない。
僕を変えてくれたのは間違いなくリブリーだ。
リブリーが僕に「見せかけだけでも真面目になれ」って言ってくれたから。
だから、僕はギゼルに「見せかけだけじゃない」ところを見せたくなったんだ。

「…本当にありがとう、リブリー」
「殊勝になるのは無事に結婚出来てからにしろ。
 気持ち悪い」
「なんだよその言い方~!…ってね。
 後、魔法有り貴族共を牽制したいってのもある…
 堂々とうちに求婚しに来る馬鹿は湧くし」
「ああ…それは、すまん」

静養中も、ギゼルがうちにいる事は特に秘密にしていなかった。
だから変なのが次から次へと…

「ギゼル殿を囮にして、残党を処理する計画だったからな」
「それは分かってたけどさ、もうウンザリだよ…」

使用人を買収しようとするとか、不法侵入するとか、そういうのは捕まえて牢屋に入れられるけどさ。
求婚してくるのはどうしようもないじゃない?

「まさか向こうがそういう方向に作戦変更するとは思わなかったよ…
 あれだけの事しといて、厚顔無恥すぎない?
 僕としては、再起不能になる程度に悪い噂をたててあげるくらいしか出来ないからさ」
「…お前なぁ」
「半分くらい本当の事だもん…でもさ」

魔法が使えても驕る事なく、真面目にやってきた貴族もいるのは分かってる。
そういう人たちは少しずつ拾い上げていこうって話も出てる。
具体的には王宮勤めにしてそこそこの地位に付けようって話…僕がそうしているようにね。

「魔法が使えるから悪い、ってならない様にしないといけないね」
「魔法が使えなくても悪い奴はいるしな」

そう、魔法なし貴族でも金欲しさに備蓄を売り払ったり民に重税を課したりしてた奴もいる。
だけど、魔法が使えるからこそ、それを十二分に発揮して魔物の被害から領地を守った領主もいる。
そういう領主様は、領民から「元の領主様に戻してくれ」って嘆願書も来るし…


って、そんな人一人しかいないんだけどね!


魔物の大増殖が陸だけで済んだのは、その人のおかげって言われてるんだ。
滅多に領地からお出にならず、国事にも殆ど参加されないから、僕もリブリーの戴冠式でお見かけした程度にしか知らないんだけど…。

「あのさ、リブリー?僕、思うんだけど。
 海の公爵様だけ例外ってことで良くない?」
「……海だからか?」
「うん、海だから」
「…………考えておく」

陸とは違うルールでもまあ…いいかなって。
っていうか、あの領を代わりに治められる人がいないもんな…。

あっ、そうそう。

「そういうわけだから、来月から午後休むね」
「誰が許可すると思ってんだこの馬鹿」
「むしろ何で許可してくれないのかと」
「お前の!仕事を!誰がするんだ!!」
「それは……リブリー?」
「てめえぶっ殺すぞ」
「やだこわーい」

……と言いつつ早上がりの許可をくれるあたり、リブリーはやっぱり優しいんだよね。

いい友達を持ったなぁ、僕!
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