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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息

久々の再会

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宴に行っても酒が飲めるわけでも無し、それでも戦友には会いたし…

というわけで、目立たないタイミングで会場に入って騎士団に合流することにした。
壇上ではリブリー第1王子様が演説中…

あ。

あそこに見えるプラチナブロンドの頭…

「そりゃ来るか…キャンディッシュ様は侯爵だしな」

あれから何度か図書館で彼を見た。
熱心に本を読んだり、何か書き物をしたり…
見た目も変わった。
サラサラになびかせていた髪をくくり、シャツは白になり、制服のリボンもきちんと締め…
後は先の尖った靴を辞めて貰えたら、少しは信用できそうだ。

「って、信用できるからって何だって話だけどな…」

だが正直、魔術塔にいても学園にいても、…家にいたとしても、気が休まらない。
信用できる相手はいないし、飯は……。
だから思考がマイナスに傾きがちになるんだろう。

最近じゃ息子の…有翔の事ばかり考える。
俺の運転がまずかったせいで、死なせてしまった息子の事を…。
俺じゃなくて有翔が転生すれば良かったのに、と、そればかり…
でも、有翔は繊細だから、俺の代わりに生まれていたらきっと心を病んでいるだろう。
だから、貴族の子に生まれてくれていれば…
今じゃ学園で子どもたちを見るたびに、有翔の生まれ変わりがいないか探してばかりだ。

「…誰にでもは、言えないからな」

騎士団のみんなには、叙爵が決まった時に話した。
前世の記憶があって、それが52年分。
こっちで生まれて12年、足して64年分。
だから本当は、64歳なんだ、って。
すげえサバ読んでごめん、って。

みんなは俺の話を頭から信じてくれた。
むしろ納得だ、とも言ってくれた。
そう言ってくれると信じて、話して、そう言ってくれた仲間。

「…俺も、騎士団に戻りたいな…」

仕事をくれと言ったら騎士団に正式に入団できると思ったのに、やたら居心地の悪い研究施設に押し込まれるし、四六時中監視されるし、嫌味ったらしく子ども扱いしてくる上司はいるし…

「…やれやれ」

そろそろ演説も終わりそうだ。
戦友たちを見つけて合流しよう…遠征前に渡したアレの効果も気になるしな。

***

「ビゼー殿、久し振り!」
「おおギゼル!元気だったか」
「団長になって初めての遠征、どうだった」
「ああ、無事に全員を連れて帰れてほっとしている」
「あっちに前の団長のユッカさんもいるぜ」
「まじで?後で挨拶してこよ」

演説が終わってから、俺は古巣の騎士団と合流した。
みんな相変わらず…でも、傷が増えて無さそうで良かった。

「あ、そうそう、あれ、効果あった?」

…学業を優先させろ、って謎の王命が下って遠征に同行出来なかった俺は、魔力だけでもついて行かせられないかと思って、自分の髪の毛で紐を作って、それをお守りに持たせたんだ。
一瞬でも魔法が使えるようになればと思って…

髪の毛に魔力が宿るってのは定番だからな。

「ああ、あの髪の毛で出来た紐か?効果あったっていうか、アレ無かったら死んでたわ」
「おい…また無茶したのか、シド!」
「しょうがねーだろ、そうしなきゃオーガなんか倒せるかよ!」
「あれデカイからな~」
「知能も高えんだぜ?
 だったら命懸けの先制攻撃!しかねーじゃん」

いやそんな事は知ってるよ。
何だって一緒に討伐してきた仲じゃねーか…
ははっ。

「そこを髪の毛の魔力で何とかしろよ」
「何とかしたから生きてるんだろ!
 突撃する時にあの結界が急に展開してさ…」
「やべぇ怪我したら回復魔法でドン!よ」

どうやら俺がいた時と同じ戦い方が出来たらしい…
良かった。

「まあ、使えたんなら良いけど…今持ってる?」
「おう、もう真っ白になってるけど」
「えー…魔力無くなると白くなんのか、これ」
「全員のやつが真っ白だぞ」
「うっわぁ…次は絶対ついて行くわ、俺の髪そんな伸びてないし」
「おう、そうしてくれ、頼むぞ」
「任せろ!」

ああ、やっぱりここが落ち着く。
みんなが俺を対等に扱ってくれる。
妙に持ち上げるでもなく、貶めるでもなく、子ども扱いでも無く、腫物扱いでもない。

「そうそう、ギゼル、酒飲めるようになった?」
「ならねーよ…まだ体は14だぞ」
「確か20になるまで飲まないんだっけ?」
「ああ、前世、で、そう、なってた…から…」

久々の再開で、気が緩んでたのもあったかな。
俺は感傷的になり過ぎて、いつの間にか…泣いてた。


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