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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息
チート魔術師の過去 1
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それはもう、ありふれた悲劇だった。
簡単に言ってしまうと、魔物が増えて暴れ出し、畑が荒らされて作物が取れなくなったので口減らしをするしか無くなった親に売られる、という事。
それが自分の身にも起きた。
いや、村の子どもたち全員に、起きた。
悲劇も数が多いと涙なんか出やしない…
それくらい、悲劇は日常で、ありふれていた。
じいちゃん達はすでに自分の意志で山へ行った。
セルフ姥捨だ。
山で生きられる限りは生きるつもりだ、と言いながら、魔物に襲われてDEAD ENDになる覚悟をしているのは見え見えだった。
それでも駄目だから、子どもの番になった。
仕方のない事だった。
ド田舎の農村には魔物に対抗する力が無い。
大人でもどうしようもないのに、いよいよ子どもじゃ役には立てない。
それに…
一家心中するよりは、子どもだけでも…
悲惨な生活が待っているのは分かっていても…
それでも。
生きてさえ、くれれば。
「ごめん…っ、ギゼル…」
「どうか、どうか…精一杯、生きて」
泣きながら仕方なく子どもを売る。
自分の親もそうだった。
兄弟が多かったわけじゃない、ただ…
すでに一人も育てられないところまで、来てしまったのだ。
「さっさと別れを済ませてくれ、次の街へ行く前に日が暮れちまう」
「すみません…っ」
「お前ら、早く馬車に乗れ!出発するぞ」
人買いは年に1度やってくる。
それは冬。
何も実らない冬…
「元気でね…!」
「どうか、生き残って…!」
この村にある家の殆どが、そうして子どもを売った。
だから、自分だけが特別だとは思わなかった。
……その日の、夜までは。
***
馬車の旅は難航した。
積んだ子どもが多かったのか、馬がくたびれていたのか、出発が遅くなったのか…
いや、単に魔物が多かったせいもあるだろう。
度々馬車は止まり、用心棒が飛び出していき、剣戟が響いた。
その全部が寄り合わさった結果だろう。
次の街までまだまだ距離があるというのに日が暮れてしまったのだ。
「…夜通し走る以外にない」
商品を一つでも多く届けたい人買いは、無茶な旅程を選んだ。
用心棒は渋ったが、最終的にそれで話がついた。
自分たちは運ばれるだけの存在だったし、街に着くまで食事は無しだと言われていたから、早く着くなら何でも良かった。
暗くなる前に少しでも距離を稼ごうと、馬車はスピードを上げた。
だがスピードを上げたら、当然音は大きくなる。
そうなると魔物たちに見つかる可能性も高くなるし、魔物が立てる音も分からなくなる…
結果。
「くそ、こんなに出るなんて聞いてないぞ!!」
「この辺までは騎士団が掃除しに来てるはずだって、アンタ言ったじゃないか!!」
馬車の外で罵り合う言葉が聞こえた。
俺たちは怖くて、固まって震えてた。
そしたら、
「おい!お前ら、降りろ!」
馬車の扉が開いて、用心棒たちが乗り込んで来て、俺たちを全員外へ放り出した。
そして一言、
「てめえらを自由にしてやる!」
と叫んで、そのまま馬車に乗って、逃げた。
つまり、俺たちを囮にして助かろうって算段…
上手く行ったかどうかは定かでないけど。
まあ、それはさておき。
急に外へ放り出された俺たちは、いよいよ固まって震えた。
暗闇には沢山の目が光っていて、不気味な唸り声が聞こえて、その全部が魔物の目だと分かった。
俺は売られた子どもの中じゃ一番年上だったから、みんなを守らなきゃならないと思って…
「ぎぜるにいちゃん…!」
「だ、大丈夫、大丈夫だ、大丈夫…っ」
死にたくなくて、死なせたくなくて。
だけど喰い殺される未来しか見えなくて。
足が震えて、拳を握りしめて、それも震えて。
「畜生…っ!」
魔物さえいなかったら、こんな思いをだれもしなくて済むのに、と思った瞬間、魔物が襲い掛かる素振りを見せて…
気付いたら、魔物が全部死んでた。
森の木が、雷に撃たれたように裂けて、焦げてた。
縋り付いてた子どもたちは、唖然としていた。
その時に分かったんだ。
「どうやら、俺には魔法が使えるらしい」
魔力暴走というやつかな、なんてどこかで分かってしまった。
こういうのWEB小説で読んだ事あるな…って…
ん?
WEB小説って何?
そう、電車通勤の合間に、スマホでよく読んでた…
……ん?
……電車?通勤?
……スマホ?
そうだ、俺は……!!
そうして、急速に思い出した。
この世界に生まれる前の人生と、その終わり方を。
自分の運転する車の中で、たった一人の家族が、息子が、ひしゃげて死んだ事を。
そしてその後、自分も…。
「ああ、異世界転生、か」
そうやって、ファンタジーだと笑っていたはずの事象が、自分に起きた事を理解したのだ。
簡単に言ってしまうと、魔物が増えて暴れ出し、畑が荒らされて作物が取れなくなったので口減らしをするしか無くなった親に売られる、という事。
それが自分の身にも起きた。
いや、村の子どもたち全員に、起きた。
悲劇も数が多いと涙なんか出やしない…
それくらい、悲劇は日常で、ありふれていた。
じいちゃん達はすでに自分の意志で山へ行った。
セルフ姥捨だ。
山で生きられる限りは生きるつもりだ、と言いながら、魔物に襲われてDEAD ENDになる覚悟をしているのは見え見えだった。
それでも駄目だから、子どもの番になった。
仕方のない事だった。
ド田舎の農村には魔物に対抗する力が無い。
大人でもどうしようもないのに、いよいよ子どもじゃ役には立てない。
それに…
一家心中するよりは、子どもだけでも…
悲惨な生活が待っているのは分かっていても…
それでも。
生きてさえ、くれれば。
「ごめん…っ、ギゼル…」
「どうか、どうか…精一杯、生きて」
泣きながら仕方なく子どもを売る。
自分の親もそうだった。
兄弟が多かったわけじゃない、ただ…
すでに一人も育てられないところまで、来てしまったのだ。
「さっさと別れを済ませてくれ、次の街へ行く前に日が暮れちまう」
「すみません…っ」
「お前ら、早く馬車に乗れ!出発するぞ」
人買いは年に1度やってくる。
それは冬。
何も実らない冬…
「元気でね…!」
「どうか、生き残って…!」
この村にある家の殆どが、そうして子どもを売った。
だから、自分だけが特別だとは思わなかった。
……その日の、夜までは。
***
馬車の旅は難航した。
積んだ子どもが多かったのか、馬がくたびれていたのか、出発が遅くなったのか…
いや、単に魔物が多かったせいもあるだろう。
度々馬車は止まり、用心棒が飛び出していき、剣戟が響いた。
その全部が寄り合わさった結果だろう。
次の街までまだまだ距離があるというのに日が暮れてしまったのだ。
「…夜通し走る以外にない」
商品を一つでも多く届けたい人買いは、無茶な旅程を選んだ。
用心棒は渋ったが、最終的にそれで話がついた。
自分たちは運ばれるだけの存在だったし、街に着くまで食事は無しだと言われていたから、早く着くなら何でも良かった。
暗くなる前に少しでも距離を稼ごうと、馬車はスピードを上げた。
だがスピードを上げたら、当然音は大きくなる。
そうなると魔物たちに見つかる可能性も高くなるし、魔物が立てる音も分からなくなる…
結果。
「くそ、こんなに出るなんて聞いてないぞ!!」
「この辺までは騎士団が掃除しに来てるはずだって、アンタ言ったじゃないか!!」
馬車の外で罵り合う言葉が聞こえた。
俺たちは怖くて、固まって震えてた。
そしたら、
「おい!お前ら、降りろ!」
馬車の扉が開いて、用心棒たちが乗り込んで来て、俺たちを全員外へ放り出した。
そして一言、
「てめえらを自由にしてやる!」
と叫んで、そのまま馬車に乗って、逃げた。
つまり、俺たちを囮にして助かろうって算段…
上手く行ったかどうかは定かでないけど。
まあ、それはさておき。
急に外へ放り出された俺たちは、いよいよ固まって震えた。
暗闇には沢山の目が光っていて、不気味な唸り声が聞こえて、その全部が魔物の目だと分かった。
俺は売られた子どもの中じゃ一番年上だったから、みんなを守らなきゃならないと思って…
「ぎぜるにいちゃん…!」
「だ、大丈夫、大丈夫だ、大丈夫…っ」
死にたくなくて、死なせたくなくて。
だけど喰い殺される未来しか見えなくて。
足が震えて、拳を握りしめて、それも震えて。
「畜生…っ!」
魔物さえいなかったら、こんな思いをだれもしなくて済むのに、と思った瞬間、魔物が襲い掛かる素振りを見せて…
気付いたら、魔物が全部死んでた。
森の木が、雷に撃たれたように裂けて、焦げてた。
縋り付いてた子どもたちは、唖然としていた。
その時に分かったんだ。
「どうやら、俺には魔法が使えるらしい」
魔力暴走というやつかな、なんてどこかで分かってしまった。
こういうのWEB小説で読んだ事あるな…って…
ん?
WEB小説って何?
そう、電車通勤の合間に、スマホでよく読んでた…
……ん?
……電車?通勤?
……スマホ?
そうだ、俺は……!!
そうして、急速に思い出した。
この世界に生まれる前の人生と、その終わり方を。
自分の運転する車の中で、たった一人の家族が、息子が、ひしゃげて死んだ事を。
そしてその後、自分も…。
「ああ、異世界転生、か」
そうやって、ファンタジーだと笑っていたはずの事象が、自分に起きた事を理解したのだ。
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