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ざまぁなど知らぬ!

彼女の名は、ミリエッタ 2

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「…というわけで、もっと女性が自由に生きられる国にして頂きたいのです」
「そうか、ミリエッタ殿はその為にここへ?」
「ええ、そうですわ」

ミリエッタさんの話は「俺とダリル様の結婚」みたいな小さな話ではなく、「結婚」そのものに対しての問題提起だった。
何で俺、彼女が俺を否定しに来る、なんて訳の分からない勘違いをしていたんだろう…

セジュールの友達が、そんな奴のはずないのにな。

「自分の姉が元気かどうか、そんな事さえ人を介さねば分からぬような世の中は間違っておりますでしょう?」
「…確かに、おかしな話だな」

女の人は結婚したら実家とは縁を切らなければならない、という慣習に異を唱えるミリエッタさん。

「そのくせあちらの家で困り事があれば、堂々と当主だけが乗り込んできて『援助しろ』…ですって!
 恥も外聞も無い愚かな貴族は、処分対象で御座いましょう?なぜこれがまかり通りますの?」
「ううむ…確かに」

ダリル様も彼女の理路整然としたプレゼンに納得せざるを得ないご様子…。

この子、本当にすごいや。

ミリエッタさんはさらに言った。

「ですが私、女と同じ事が男の方でも起きるのであれば、それも問題だと思いますの」
「…何?」

ダリル様が顔を顰める。
何か痛いところを突かれた顔だ。
ミリエッタさんは畳み掛ける。

「配偶者を囲って孤独にするのは、自分への依存度を高める手段の一つですわ。
 そうすることで、どんな扱いをされても唯々諾々と従う奴隷を作り上げる」
「しかし、愛ゆえの束縛ということもある」
「愛を盾にすれば何でも許されるのも、おかしいんじゃありませんこと?
 愛とはお互いが想い合うからこそ。
 一方が背負わされるばかりの愛は、疲弊する」
「……っ、なるほど」
「そもそも奴隷制度を禁止するなら、人を奴隷扱い出来る可能性があるものも遠ざけるべきではありませんか?」

この国は奴隷制度を禁じてから随分長い。
それでも人身売買は闇で行われている。
表向きは雇用契約、金銭はその契約金…だけど、その内容は劣悪で、当然給料は出ないし、「逆らえば死」と書かれていることさえあるという。

「…しかし、親や兄弟から虐待を受けたり虐められたりしている場合はどうだ。
 それなら結婚は救いになるのではないか?」
「それこそ「人を人間扱いしなかった」罪で親兄弟を罰すれば良いのではありませんか?
 私は「人が人として扱われる権利」、つまり「人権」を尊重する事が、結婚において最も必要なのではないかと思うのです」

人権!?
人権、それって…

俺はセジュールに聞いてみる。

「これって、つまり啓蒙思想?」
「ケイモーシソー?」

どうやらピンと来ないらしい。

……セジュールが知らないってことは、まだ最低でもこの国には無い話だってこと。
なのに、ミリエッタさんはその言葉に疑問を持っていない…ように見える。

まさか、ミリエッタさんって…
転生者?

「ミリエッタさん、それって…経験論?観念論?」
「…私、人間は生まれた時白紙だと思いますの」

あっ…それって確か、ジョン・ロック…!
やっぱり、ミリエッタさんは、転生者…!?

「ミリエッタさん、魔法は…」
「多少使える程度ですわ」
「でも、使えるんですね?」
「残念ながら、中型魔物が精一杯ですわ。
 剣も多少は習いましたけれど…」
「……女だてらに?」

敢えて俺は、彼女を逆撫でする言葉を使ってみた。
するとミリエッタさんは、挑戦的に微笑んだ。

「あら、魔物の前に男も女もありませんわ?
 どちらも喰われたら最後、ただのクソですもの」
「違いない」

ははは、とダリル様が笑う。
この言い回し…貴族らしからぬ直截さ。
俺は思わず声を上げる。

「あの!ミリエッタさん、魔術塔に興味は…?」
「特には御座いません、ただ登録だけはありますけれど…」
「一度、父に会っては貰えませんか?」
「…ギゼル大魔術師様に?」
「実は今、魔術塔で少々混乱が起きてまして」

転生者なら、親父や俺の考え方にも多少の理解があるかもしれない。

それに、女の子だし…
もしかしたら。

だけど、現実はそうトントン拍子に進まない。

「申し訳有りませんが、ロンバード様。
 今はダリル殿下への上奏に集中させて下さい」

ミリエッタさんはそう言って、

「ここから先、キャンディッシュご兄弟を巻き込むわけには参りません。
 ですので…セジュール様、折角ご紹介頂きましたのに不躾で申し訳御座いませんが、お兄様とこの席をお離れになって下さいまし」
「分かりました、ミリエッタ様…ご武運を」
「ありがとうございます、セジュール様」

と、俺達兄弟を遠ざけてしまったのだった…。
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