上 下
7 / 208
ざまぁしやがれください!

タダより高いものはなし

しおりを挟む
「よーし、今日の授業、終了だ!」
「あざっした!」

や~、ようやく授業が終わったぞ。

本日最後は体術の授業だ。
体術と剣術は選択制で、どちらかというと剣術の方が人気があったりして人が少ない。
授業というよりグループレッスンだな。

先生が道場から出て行き、場の雰囲気が緩む。
そのほっとした空気の中、友だちが言った。

「ねぇロンバード、この後お茶しに行かない?」
「あー、ごめんニール、もう先約があって」
「そうなの?」
「うん…でも、場所はちょうど学生寮だし、途中まで一緒に行こうぜ」
「おっけー」

今日は朝言ってた通り、留学生の人に母国の言葉や文化なんかを教えてもらう予定なんだ。
っていうか、このニールも留学生なんだけどな。


ニールは山の向こうのドラーク帝国ってとこ出身で、その国は元々50以上の部族がそれぞれに集落を作って緩やかに繋がりを保って暮らしてたんだけど、およそ100年前、世界中が戦争に熱狂する時代が来る直前に、とある部族の長が「このままじゃいかん」って言って、その50以上ある部族を強引にまとめ上げて作ったんだ…

って、ニールから教えてもらった。
そん時ニールが言ってた事は今も覚えてる。

「おかげで今でもドラーク皇族は、恨みや恐怖の対象になってたりするけどね」
「そっか…やっぱ許すって簡単じゃないよな」

やられた方がやった奴を許すって相当難しい。
やられた方は一生ものの傷を負ったりもするし、そうなったら一生死ねって呪い続ける事の方が普通…
なのは、この世界でも同じなんだなって思った。


…そう、虐めなんてしない方がいいに決まってる。
いじめっ子が一人もいなくなれば、世界はもっとましになる。
そんなこと分かってるんだ、だけど…。

…なんて、俺はロッカールームで着替える間、ずっと考えていた。

***

ニールと授業の話で盛り上がりつつ歩き、いつの間にか学生寮。

「んじゃ俺、サリュール先輩の部屋行くから、ここで」
「えっ?ちょっと、ロンバード!?
 婚約者がいるのに他の男と二人きりで会うとか」
「いや、執事っぽい人もいるし」
「それを人数に入れちゃ駄目だよ…」

うん、それは知ってた。
母さんが持ってた小説にもそんな話があったしな。

でも、悪役令息になるには「はしたない」事もやっていかなきゃだし…それに、こんな事でエッチしなくてもビッチになれるんなら利用しない手はないでしょ。

実質タダみたいなもんじゃん?

「大丈夫だよニール、俺一人で…」
「仕方ないね、僕がついていってあげる」
「えっ」
「僕が着いて行けば、少しはましでしょ?
 さ、行こう!」
「えっ……あ、うん……」

…ニールの押しの強さに勝てず、俺はニールと一緒にサリュール先輩の部屋へ行った。
ノックして一言声を掛ける。

「すみませ~ん、サリュールせんぱーい。
 ロンバード・キャンディッシュが参りました~」

すると部屋の扉がするりと開いて、サリュール先輩が俺を出迎えてくれた。

「今日も可愛いね、ロンバ…と、なんでいる?ニール・レア」
「ああ、婚約者のいる方と他の男性を2人きりにするわけにはいきませんからね」
「…ふーーーん、なるほどね」

サリュール先輩とニールが、何故か剣呑な雰囲気に…。
ほらぁ、やっぱ一人で来た方が良かったんじゃん!

「すみませんサリュール先輩…」
「ううん、ロンバードは悪いない、だからあやまるない。どこかサロン空いてるでしょ、そこ行こう」

そう言って、俺はサリュール先輩の案内でサロンとやらへ…。
腰に添えられた手は気になるけど、先輩の国ではこれが普通なんだって。

「そういえばロンバード、今日の噴水の事、噂なってるよ!」
「えっ、もう?」

俺はその話が気になって身を乗り出す。

「計画順調ね!我が国来る、歓迎よ!」

実はサリュール先輩やニールや、留学生の友だちには計画の事全部話してあるんだ…
話させられたとも言うけど。

「うん、行く行く!って、サリュール先輩に会いに行っても門前払いされそうだけど」

だってめちゃ小汚い恰好してるだろうし。
バックパッカーって言えば聞こえはいいけど、半分放浪者だろうしな…。

でも、サリュール先輩は真剣な顔で言う。

「そのような事は起こり得ぬ。
 サリルに於いて、既にロンバードに関わる件は全て最優先事項だ…直ちに私自ら動けるようにな。
 だから喩え何処にいようと迎えに行く」
「あ…と」

サリュール先輩は真剣になると何故か流暢になる。
いつもはカタコトでフランクだから話しやすいんだけど…。

妙な緊張感の中、言葉に詰まる俺にニールが助け舟を出してくれる。

「じゃあ無事に砂漠越えなきゃね!ロンバード」
「あ、そうそう、その話を聞きに…。
 それと、サリル語も教えて欲しいです」
「……そうだったね!さっそくしよう」

その後は一転、穏やかな雰囲気の中、2時間程砂漠の話を聞いたり食べ物の話をしたり…。
なかなか充実した時間を過ごして、親父と一緒に馬車に乗って帰った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...