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二つの世界が出会う時
運命の番の話
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次の日、パッセルは堂々とオメガクラスに机を運び込んでそこへ居座った。
学園の理事長が飛んできてアルファクラスに戻る様に言ったが、程度の低いアルファと一緒にいるぐらいなら真面目なオメガといた方がましだと言って聞かなかった。
理事長は私の首が掛かっているんだと泣き落としにかかったが、
「では代わりのアルファ様をフォエバストリア殿下にお願いすると致しましょう。
アルファなら誰でも組織の長が務まるのであれば、別にあなたが理事長でなくても構わんでしょう」
と取り合わない。
それで、学園に喧嘩を売って無事で済むと思うなよ…と理事長が脅すと、パッセルは
「ほう、それは王立の学園を私物化しているという自供でございますかな?」
と逆に脅し上げた。
パッセルの中にいる奥津四郎が火を噴いたのだ。
戦場で人を殺した経験がある者は、この国に一人もいない。
「…抜かすな俗物、灰にするぞ」
平和ボケした連中とは違い、それはもう圧倒的な迫力だった。
「ひぃっ…お、覚えてろ!!」
理事長はすたこらと逃げて行った。
そのクソダサい姿を見たオメガの学生たちは、「アルファだから立派だ~…なんて事は無いのだな…」と頷きあったのだった。
***
今日の第一寮裏の勉強会が終わり、主催の3人は夕食の為に学園の食堂へ。
「腹減った~!何食べようかな」
「シチューがまだ残っていると良いのですが…」
「パッセルってシチュー好きだよね」
「ええ、柔らかく煮込まれている人参が好きで」
3人はほぼ毎日こうして夕食を共にし、勉強会についてのミーティングをする。
寮住まいの二人はもちろん、家から通っているフェリスも一緒だ。
「確かに…あ、僕もシチューにしよう~」
「俺は3倍シチューにしよう」
「私の分が無くなります!」
「「あはははは」」
フェリスは実家での腫物扱いをいい事に、門限を無きモノにした。
神経が図太くなってみれば、親が何も言わないのは大変に都合がよろしかった。
「しかし最近人が増えたな」
「ええ、どうやら彼ら、アルファに嫁いでも安心できない事に気付いたらしくて」
「まあ…そうだな、質の悪いのは平気で番を捨てると聞くし」
アルファは番を捨てても平気だが、オメガは番に捨てられると悲惨だ。
発情期を越すのに必要な「番の精」が摂取できなくなってしまう。
一度番を持ったオメガは、番ったアルファに一生を縛られる…
「…こっちから番を解消できる手段を考えねばなりませんな」
「なるほど、そうすればアルファとオメガの立場が少し対等に近づくか」
「対等に…ですか」
ここでフェリスは、長らくの疑問をクレイドにぶつけた。
「そういえば、クレイド殿はオメガ差別をなさらないですよね?」
「はっはっは、そんなものにこだわっていられる程、領地経営は甘くないのだ」
「確かに、男も女も無く働いておりますね」
「力の有る無しなど、言っても仕方が無いだろ。
1しかできません、なら1やれ、という事だな」
「厳しい……!!」
性差を埋める便利な道具など無い。
ただ「ちりつも」が馬鹿にならない事を知っているから、「ちりつも」の為の人員も馬鹿にしない…
というほんのりブラック気味な話で、差別が無くてハッピー…というわけでは無さそうだ。
「そもそも、アルファもオメガも貴族にしかいないって事になってるじゃん。
うちの領に貴族は我が家しかないしさ。
家庭内で差別とか…まあ、する家もあるかもしれないけど…働き手が他にいる家ならなぁ」
オメガであるクレイドの母親だって、何がしか家での仕事がある。
発情期には父親と共に暫く休みを取る事も仕方ないと思うし労わりもするが、裏には「それで復帰が楽になるなら仕方ない」という気持ちがあるという。
「あの…モンタルヌス家って、その…どうして、お金が無いんです?」
「親父が母さんと結婚するのに借金したから」
学園で出会って、どうしてもこの人とでなければ嫌だとお互いが言いはった結果、そういう目に…とクレイド。
「運命の番だったみたいでさ、もう出会ったらしょうがないよなって…
お伽噺みたいな確立だし、母さんの元婚約者も仕方ないって許してくれたんだってさ」
「いい話ですね」
「でも、母さんの実家にも元婚約者にも金払わなきゃなんないけどな」
運命の番も楽じゃないぜ~とクレイド。
そもそも婚約が決まるのが早すぎるんじゃないかとパッセル。
確かにそうだよね…とフェリス。
「僕なんか12歳で診断してすぐですよ!
お見合いもしないで勝手に話が決まってて…それも10歳の時のお茶会で『格好良いなって思った』って言ったからっていうだけで!」
「まじか、完全に公爵様の暴走じゃん」
「そうなんです、アルファの俺が正しい未来を決めてやる的なアレ!腹立つでしょう?」
するとその言葉に、パッセルでもクレイドでもない方向から反応があった。
「…そうだったのか」
「!!」
その声に3人は反射的に立ち上がり、そちらを見た。
そこにいたのは…
「……殿下!?」
「…今まで誤解していて悪かった、フェリス」
「私も…大変、失礼な事を…今まで」
「アラウダ殿!?」
フォエバストリア王子と、側近のアラウダだった。
学園の理事長が飛んできてアルファクラスに戻る様に言ったが、程度の低いアルファと一緒にいるぐらいなら真面目なオメガといた方がましだと言って聞かなかった。
理事長は私の首が掛かっているんだと泣き落としにかかったが、
「では代わりのアルファ様をフォエバストリア殿下にお願いすると致しましょう。
アルファなら誰でも組織の長が務まるのであれば、別にあなたが理事長でなくても構わんでしょう」
と取り合わない。
それで、学園に喧嘩を売って無事で済むと思うなよ…と理事長が脅すと、パッセルは
「ほう、それは王立の学園を私物化しているという自供でございますかな?」
と逆に脅し上げた。
パッセルの中にいる奥津四郎が火を噴いたのだ。
戦場で人を殺した経験がある者は、この国に一人もいない。
「…抜かすな俗物、灰にするぞ」
平和ボケした連中とは違い、それはもう圧倒的な迫力だった。
「ひぃっ…お、覚えてろ!!」
理事長はすたこらと逃げて行った。
そのクソダサい姿を見たオメガの学生たちは、「アルファだから立派だ~…なんて事は無いのだな…」と頷きあったのだった。
***
今日の第一寮裏の勉強会が終わり、主催の3人は夕食の為に学園の食堂へ。
「腹減った~!何食べようかな」
「シチューがまだ残っていると良いのですが…」
「パッセルってシチュー好きだよね」
「ええ、柔らかく煮込まれている人参が好きで」
3人はほぼ毎日こうして夕食を共にし、勉強会についてのミーティングをする。
寮住まいの二人はもちろん、家から通っているフェリスも一緒だ。
「確かに…あ、僕もシチューにしよう~」
「俺は3倍シチューにしよう」
「私の分が無くなります!」
「「あはははは」」
フェリスは実家での腫物扱いをいい事に、門限を無きモノにした。
神経が図太くなってみれば、親が何も言わないのは大変に都合がよろしかった。
「しかし最近人が増えたな」
「ええ、どうやら彼ら、アルファに嫁いでも安心できない事に気付いたらしくて」
「まあ…そうだな、質の悪いのは平気で番を捨てると聞くし」
アルファは番を捨てても平気だが、オメガは番に捨てられると悲惨だ。
発情期を越すのに必要な「番の精」が摂取できなくなってしまう。
一度番を持ったオメガは、番ったアルファに一生を縛られる…
「…こっちから番を解消できる手段を考えねばなりませんな」
「なるほど、そうすればアルファとオメガの立場が少し対等に近づくか」
「対等に…ですか」
ここでフェリスは、長らくの疑問をクレイドにぶつけた。
「そういえば、クレイド殿はオメガ差別をなさらないですよね?」
「はっはっは、そんなものにこだわっていられる程、領地経営は甘くないのだ」
「確かに、男も女も無く働いておりますね」
「力の有る無しなど、言っても仕方が無いだろ。
1しかできません、なら1やれ、という事だな」
「厳しい……!!」
性差を埋める便利な道具など無い。
ただ「ちりつも」が馬鹿にならない事を知っているから、「ちりつも」の為の人員も馬鹿にしない…
というほんのりブラック気味な話で、差別が無くてハッピー…というわけでは無さそうだ。
「そもそも、アルファもオメガも貴族にしかいないって事になってるじゃん。
うちの領に貴族は我が家しかないしさ。
家庭内で差別とか…まあ、する家もあるかもしれないけど…働き手が他にいる家ならなぁ」
オメガであるクレイドの母親だって、何がしか家での仕事がある。
発情期には父親と共に暫く休みを取る事も仕方ないと思うし労わりもするが、裏には「それで復帰が楽になるなら仕方ない」という気持ちがあるという。
「あの…モンタルヌス家って、その…どうして、お金が無いんです?」
「親父が母さんと結婚するのに借金したから」
学園で出会って、どうしてもこの人とでなければ嫌だとお互いが言いはった結果、そういう目に…とクレイド。
「運命の番だったみたいでさ、もう出会ったらしょうがないよなって…
お伽噺みたいな確立だし、母さんの元婚約者も仕方ないって許してくれたんだってさ」
「いい話ですね」
「でも、母さんの実家にも元婚約者にも金払わなきゃなんないけどな」
運命の番も楽じゃないぜ~とクレイド。
そもそも婚約が決まるのが早すぎるんじゃないかとパッセル。
確かにそうだよね…とフェリス。
「僕なんか12歳で診断してすぐですよ!
お見合いもしないで勝手に話が決まってて…それも10歳の時のお茶会で『格好良いなって思った』って言ったからっていうだけで!」
「まじか、完全に公爵様の暴走じゃん」
「そうなんです、アルファの俺が正しい未来を決めてやる的なアレ!腹立つでしょう?」
するとその言葉に、パッセルでもクレイドでもない方向から反応があった。
「…そうだったのか」
「!!」
その声に3人は反射的に立ち上がり、そちらを見た。
そこにいたのは…
「……殿下!?」
「…今まで誤解していて悪かった、フェリス」
「私も…大変、失礼な事を…今まで」
「アラウダ殿!?」
フォエバストリア王子と、側近のアラウダだった。
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