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恋人同士になる試練

なるほど我儘

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東の祠も無事に攻略し、街へ戻る。

ハイドさんはダッシュでマルコさんのいる病院へ行き、他のメンバーは宿に帰って早めの休息。
封印の間でのんびり休んで元気を回復した俺とミシェルは、王妃様とその仲間たちがいるお屋敷へと向かった。

「魔物化してなきゃ良いんだけどな…」
「あれだけ浄化したのだから大丈夫だろう」
「でも、基準が違うじゃん?
 ちょっとでも何かあったら怖いじゃんか」

アレルギーみたいに、ほんのちょっとでも闇の力に触れたらブワッて症状がでるのかもしれないし…
リュールミエール王子やリゲルさんは北の祠からここまで無事で来たけど、個人差があるかもしれないし。

「何とかバンデリンに帰せないかな…
 もう気が気じゃないもの」
「それについてはセトが調べてくれるそうだ」
「じゃあセトさんにお任せするしかないのか…」

転移魔法の事は俺たちには分かんないもんな。
セトさんは立派な魔導師だし、何とかしてくれると信じよう。

信じる心、大事!

***

街の東門から割と近くにそのお屋敷はあった。

疲れ果てた顔の領主様に案内されて最上階に行ってみると、そこにはキツい印象の虎耳さんと騎士っぽい服をきてるケモ耳さんたちが騒いでいた。

虎耳さんは領主様の姿を見つけると、近寄って来て恫喝した。

「貴方!いつまで私をここに閉じ込めておくつもり!?バンデリン王妃に対してこの振る舞い、国を挙げて厳重に抗議しますよ!」
「これは国際問題だぞ!」
「死をもって償っても足りぬ不敬だ!」
「そうだそうだ!!」

「ですが、外に出るのは危険でして」
「危険?我々をひ弱な人間と同じにするなど、侮辱であると何度も申しておろうが!」
「そうだ!我々を卑怯で矮小な人間と一緒にするな!!」
「そうだそうだ!!」

えっまさかずっとこんな怒ってんの?
俺は領主様の顔を見た。
領主様はめっっちゃウンザリの顔をしていた。

まじか…
そりゃお疲れの顔にもなるわ。

困った俺は敢えて大きな声で言った。

「これじゃ話どころじゃないですね、領主様」
「申し訳御座いません!!
 お疲れの所、念の為の浄化にまで来て頂きましたのに…!」

領主様は俺に向かって頭を下げた。
王妃様とその仲間たちは「聖人様」という言葉を聞いて静かになった。

「領主様、警告はなさったのですよね?」
「はい、何度も、何度も…」
「それなのにこの方々はまだ、この国が今どういう状況なのかもお分かりにならないのですか?」
「な、なんだ小僧!貴様、我々に対し不敬…」

俺は敢えて彼らを煽る言葉をかける。

「ですが、あなた方が闇の力の恐ろしさを分からないのも無理はありません。
 闇の力にあなた方の為に事前にこの屋敷中に強力な浄化を掛けたのですから」

正直、彼らには出て行って欲しい。
セレスさんが言うには、バンデリンには転移魔法に特化した「転移技師」という人がいるそうだ。
その人がここにいるのなら、多少無理をしてでもさっさと転移して貰いたい。
そして、いないのならせめてここで大人しくしていて貰いたい。
外周の祠の浄化が完了するまでは。

「何度聞いても分からないのなら、もう実際に体験する以外にありません。
 外に出たければどうぞ?
 魔物になって殺し合う事になっても、こちらは一切関知しません。勝手に出て行って勝手に魔物になって勝手に殺し合ってください。
 但し、光の力で助ける事は致しませんよ」
「なっ…!?」

俺は明日には次の祠へ向かわなきゃならない。
いつまでもここで彼らの為に浄化をしてる場合じゃないのだ。

「あなた方全員が魔物になって私が食い殺されでもしたら、世界が滅びますからね」
「なんだとこのチビ!!」
「貴様のような脆弱が、我々に盾突くか!?」

騎士らしきケモ耳さん達は怒った。
口々に俺を罵ったり脅したり…

どうやらこの人たちには「聖人様パワー」が利かない模様。
マルコさんはバンデリンでも「聖人様」ってワードは効果があったって言ってたんだけどな…うーん。

俺はこっそり領主様に聞いた。

「ラブラヴしん様ってバンデリンでは信仰されてないんですかね?」
「さあ…遠すぎて私には分かりかねます」
「ですよねー」

するといきなりミシェルがキレた。

「黙れこの馬鹿者共!
 不敬なのはどちらのほうだ、神の遣わした聖人様に対し、暴言を吐くのがバンデリンの礼儀か!」
「な…なんだと、この…!」

ミシェルは剣に手をかけ、殺気を漲らせながら彼らに吠える。

「気に入らぬなら出て行け!
 そちらに転移魔法が使える者がいるなら転移して帰れば良い。
 但しこちらにあった転移陣はもう機能していないがな」
「……!」
「転移魔法が使える人間はいるか?
 いるのならさっさとこれらを連れて帰れ。
 聖人様を傷つける者は、一人としてこの国には要らぬ!」
「……」

ミシェルの迫力に全員が黙った。
その隙に俺は彼らに言った。

「…明日から次の祠へ向けて出発します。
 その前に、あなた方が人でいられるように浄化をかけに来ました。
 バンデリンに帰るにしろトラネキサムに留まるにしろ、必要な事だと思いますから。
 この国であなた方が食べる物にも、飲む物にも浄化を掛けていきます。
 ですが、それにも限りがあります。
 必要以上の贅沢をなされば…知りませんよ」

王様に毒を盛った理由とか聞こうと思ったけど、もういい。
どうでもいいわけじゃないけど、優先順位低いもん。

「……」

俺は黙って彼らに浄化をかけ、部屋を出た。


・・・・・・

応接室に戻って、ぐったりした領主様に光を浴びせる。
すると多少元気になった領主様は怒涛の勢いで愚痴り、そして泣きながら懇願した。

「ずっと!ずっとアレなんです!
 もう無理です、王都に引き取るか、バンデリンへ送り返すか、どうにかしてください!」
「ですよね…」

我儘が原因で離婚しそうだって聞いたけど、想像以上だった。
騎士らしき人も一緒になってギャアギャア騒ぐし、どうしようもない…

「これ以上付き合いきれませぬ。
 何とかして頂けませんか…使用人たちも疲れ果てております」
「ですよねぇ…」

けど王都に送るにしても、道中がなぁ…。
ここから王都への道は浄化してないから、すごい不安なんだよね。
セトさんが転移魔法を何とかしてくれるか、あの中に転移技師とかいう人がいてくれるか…

「…クリスチーヌさんに言って、お金いっぱい吹っ掛けてもらおうね」
「勿論だ」

リュールミエール王子め…許さん!!

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