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恋人同士になる試練

遠い国の王様 2 ~マルコさん視点~

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リュールミエール王子が敵軍に呼びかける。

「皆の者、聞け!
 この方は父王の危機を救う為、聖人様がお遣わし下さった治癒師様だ!
 今すぐ引け、父王の元へこの方を疾くお連れせねばならぬ!」

兵士たちがざわつく。
今は敵だが、元々軍は王に仕える存在だ。
その王が救えるかもしれないとあれば、心が動くのも当然だろう。

だが城門の王子は甲高い声で叫ぶ。

「うそだ!人間にそんな力あるもんか!
 兄さんたちはお父様にとどめを刺しに来たに決まってる!
 みんな!あいつらを倒して!お父様の仇を打ってよ!」

まあ、そうだわな。
いきなりやってきて治しますよ…じゃなあ。

うーん、どうやって証明するか…。

するといきなりリゲル殿が叫んだ。
「嘘だと思うならその目で見ていろ!」

そしていきなり持っている剣で自分の腹を突いた…!

「リゲル殿!?」
「うっ…ぐっ」
「何すんだいきなり!」
「ぐっ…ああああ!」

腹を突いた剣を引き抜く。
派手に血がしぶき上がる。
敵も味方も声を飲み、全員がリゲル殿に注目する…!

「う、ぐ…マルコ殿っ、頼んだ…!」
「っあーもう!
 …偉大なる神に願う、この者の傷を癒し、流れた血を元に戻し賜え…!」

腹はやめろよ、せめて腕を斬るとかあるだろ!?
斬ってすぐだからすぐ治せるけど!!

「即効恢復」

俺は治癒魔法を詠唱し、リゲル殿の傷に手をかざす。
リゲル殿の傷口が光りを放ちつつ元へ戻る…

「おおお…さすがですなマルコ殿!」
「先に一言言ってからやってくれ、焦って詠唱間違えたらどうすんだ」
「はは、申し訳ない!」

残念ながら、服は穴があいたままだし血も全部は戻り切らないけどな。
この程度なら俺にも簡単に出来るんだぜ?
シゲル様の能力がエグいだけ。

「お、おおお…!すごい…」

それを見た獣人の国の連中がざわめく。
あれは本当か、手品ではないのかという奴もいる。

それに乗って城門の虎の子がまた叫ぶ。
「みんな、騙されちゃだめ!人間は嘘が得意なんだ!ひきょう者め!お父様のところには行かせない!」

するとセレスが大きな声で言う。
「これが聖人様の巡礼に同行を求められる治癒師の実力だ!
 これを見て、まだリュールミエール王子の言葉を疑うものはかかって来るがいい!」

そして前へ出て剣を抜き、王子の隣に並ぶ。
なんて男前なんだセレス…聖騎士団で一番モテる奴は格が違うぜ。

だがそれを見て、虎の隣にいるイカツイオッサンが言い返す。
「王に媚を売り、今度は国まで売る気かリゲル!
 権力に尻を振るしか能の無いお前を信じる程、俺たちは阿呆ではない!」

するとハイドが剣を抜き、高く掲げ、恫喝する。
「はっ、下らん!疑う奴はブチ殺す!」

うーん語彙力。
でも、その方が盛り上がるんだな…

「そうだテメー、ぶっ殺すぞ!」
「おどれら舐めてんじゃねーぞ!!」
「瞬殺じゃ瞬殺!!」

ほら、後ろの部隊が大きな声で煽り始めた。
向こうの兵隊もざわざわしているが…残念ながら、覚悟決まんのはこっちの方が先みたいだ。

「通さぬのなら押し通る!王子、号令を!」
「皆の者!城門の突破だけに集中しろ、行くぞ!」
「オオオオオ!」

リゲル殿が先頭になり、ハイドとセレスもその後ろを獣人の戦士とともに走っていく。

「ひーーー!」
「うわぁーーー!」
「ぬあーーーー!?」

叫び声と同時に、ドサ、ボサ、という音が聞こえる。
あいつら身体強化を使ったんだな…敵を次々に跳ね飛ばしてるもん。

「怖い怖い」

剣が本職じゃない俺は、安全な位置で自分の身を守りつつ進軍する。
俺が死んだら王様を治せる可能性は限りなくゼロになるし…

うわっ!!

「おい、セレス、こっちに敵、飛ばすなって!」
「その程度避けられるだろう、甘えるな!」
「何でそんな厳しいかね!?」

何かあったら治せるだろうったって、魔力は有限なんですけど!?

***

敵がドッカンドッカン跳ね飛ばされるのを見ながら、城の中を全速力で駆ける。

「人間ごとき俺がぅわーーーー!」
「貴様、人間の分ざああーーーー!」

その…だな。
獣人がどんだけ人間より身体能力高いったって、こいつらそれ以上の力の魔物と飽きる程戦ってんだわ。
だからそう簡単には負けないんだ…ごめんな?

「なぜ、人間は獣人にぉーーーー!」
「貴様人間ではなぁーーーー!」

ちょっと面白くなって来た。
何でこいつら、人間のほうが獣人より下だと思ってるんだろ。
まあ先に進めば理由も分かるかもな。

「どけ!我らが王を救うのだ!」
「…マルコ、いっそ俺が背負って走るか」
「そのほうが早そうだな」

一目散に王様の部屋を目指す俺たち…

「あの奥の部屋だ!」
「王子、マルコ、先に行け!」
「分かった!!」

王様の部屋も移動させられてる…なんて事が無きゃ良いんだがな。

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