別にこいつとは付き合ってませんけど?

紫蘇

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恋人同士になる試練

外周の祠、第一 8

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ふと目を覚ますと、ミシェルの整った顔が目の前にババンとあった。
頬に温かい感触…

「ふわっ…あ、腕枕」

そっか、俺寝る前に腕枕の話したんだ。

俺の声に反応して、ミシェルも目を開けた。

「ごめん、起こした?」
「いや、私も今起きたところだ」
「…そっか、ふふ」

なんかデートの待ち合わせの会話みたい。

「ミシェルも疲れてるでしょ、もう少し休んだら」
「いや、これ以上は…その壁に扉が…出来たから」
「えっ?」

ミシェルが指した方向を見ると、俺たちが入ってきた壁の部分に扉が出来ている。
どうやら恋愛リアリティーショーは成功だった模様…一安心だな。

「…ミシェル、ありがと。
 任せっきりになっちゃって、ごめん」
「だいじょうぶだ。もんだいない。ほんとう」
「じゃあそろそろ、出ようか」

ミシェルが俺に何をしてたかはもう聞かない。
だって匂い嗅ぐのもキスするのも自由って言ったのは俺だし。
尻に違和感がなければそれでいい、下着はしけっているけれど。

俺はミシェルを見つめて、目を閉じる。
ミシェルが軽くキスをくれる。

「次も頑張ろうね」
「ああ、まかせろ」

そうして俺たちはベッドを離れ、装備を整え直してから扉を出た。

***

扉から出ると、さっきの虎耳獣人さんはまだ寝ており、その隣に茶色の丸い耳が生えたおじさんが増えていた。

「人増えとるやん」
「せやねん」

びっくりしすぎて何故か関西弁になる俺。
トモアキも何故か関西弁で返してきた後、俺にこの2時間で起きた事を説明してくれた。

簡単に言うと、
みんなで寛いでいたところに通路に詰まってた熊さんがやってきた!追い払おうと脅したら、何と熊さんは熊耳おじさんに大変身!いやはやびっくり!
…という事らしい。

なんだそれは。

トモアキは俺の戸惑いをよそに続きを話した。

「んでこのおじさん、虎耳さんの部下なんだって。
 この虎耳さん、獣人の国の王子様なんだけど、兄弟3人の中で一人だけつがいが見つけられなくて不貞腐れて問題児になったから、自分がこの人のつがいを探してちゃんとした王子様に戻すんだー!って必死になって、ついに神頼みに手を出したらここにいたんだと」
「は?」

急に知らない所に出てきて慌てたおじさん。
鼻の効く熊の姿になって出口を探そうとしたところ、魔物化して暴走。
いつの間にか通路に詰まっていたんだそうだ。

「うーん…やっぱ人も魔物になるんだな」
「そうだな、あと獣人って、この国の人間より闇の力に対して抵抗力がないのかもしんない。
 闇の力が発生するとこから離れたとこで暮らしてるわけだからさ」
「あー…なるほど、ありそう」

偶然にも俺の光の力を浴びて元に戻った事で、再び人の姿にもなれるようになったおじさん。
熊になる時に脱いだ服を取りに、この部屋に戻ってきたらトモアキたちがいて、おまけに王子様まで…
それで慌てて飛び込もうとしたら、セトさんに雷で脅された、と…

なにやら可哀想だな。
元の場所に戻れないもんかね…闇の力ちょっと吸っただけで魔物化してたら持たないぞ。

「なあ、この扉から元の場所に戻れないの?」
「それがさ…変なんだよ」
「変?」
「そう、皆一通りやってみたんだけどさ、扉、触るだろ。開くだろ。顔突っ込むだろ。
 したら顔がここに出て来るんだよ」
「なにそれめっちゃ怖い」

最初に庭園を見たセレスさんですら、ここに顔が出て来るようになったという。
なんだそれは…。

「んで、これは俺の推測なんだけど。
 これって、外周までに相手が決め切らなかった人が入ると素敵な相手が用意されてる扉なんじゃね?
 それか、当て馬を呼び込む波乱の扉」 
「多分後者だろうな」

だって、必ず2人で入れってなってんだぞ?
ここで膝枕していちゃつくって思ってんのに先客にだれかいるって、そりゃ波乱も起きるだろ。
何て罠を仕掛けるんだよ神様……ん?

「…てことは、この虎耳王子様、俺かミシェルのライバルになる人なわけ?」

勘弁してよ…。
俺、この状態でも手一杯なのに、また揉め事増えたら脳味噌バーストしちゃう。
俺が選ぶほうならまだしも、ミシェルが選ぶ方になったら…俺どうしたらいいのか分かんないよ。

「そうじゃない事を祈るしかないか…」

またもため息をつく俺に、トモアキが追い打ちをかける。

「まあ、そうじゃなかったとしても、面倒事は確実に増えるけどな」
「なんで?」
「言ったじゃん、この虎耳さん、王子様だって」
「うわーーーーー」

何ちゅう面倒が転がり込んできたんだよ!

「彼の国が遠くにある事が救いだな…」
「でも、探したい!って神様に祈ったら、この扉通ってこっち来ちゃうんじゃね」
「世の中転移魔法もありますしねー」
「鳥の獣人もいますから」
「わー面倒くさーい」

一個目の祠からとんでもない事になってしまった。
無事に一周できるのだろうか…

「はぁ……」

ため息しか出ないな。
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