上 下
70 / 187
聖人様になる旅路

深き友の恋 〜リンデ王子視点〜

しおりを挟む
「…で、どうだ?シゲル様との仲は」
「極めて良好です、先程もキスをして参りました」
「それは素晴らしい成果だな!」
「ありがたき幸せ」

堅物通り越して変人な、部下であり乳兄弟のミシェル・トライデントにも漸く初恋が訪れた。
お相手は何と、当代聖人様であらせられるシゲル・カラタニ様…。

無謀通り越して絶望。

余りのことに私もトライデント侯爵夫妻もハゲ散らかすかと思われたが、周囲の絶望をよそにこれを奇跡まで巻き返しやがったらしい…

ニヤニヤするな!!
実にキモチワルイ。
あと「ありがたき幸せ」って返しもどうかと思う。

「それに、一言あればいつでもキスして良いと」
「ほんとうか…!?」
「本当ですとも!
 ああ、それから、シゲルがあの時のクリスチーヌの言葉の真意を読み解いてくれたのですがね」
「それついでに報告していい内容じゃなくない?」

どういう話からそうなったのかは分からないが、ミシェルはシゲル様にクリスチーヌが継承権返上を申し出た時の宣言について聞いたらしい。

そんなこともあったねえ…

てかまだ悩んでたんだなお前。
あれからもう何年経ってると思ってるんだ。
もう余はディディ経由で全部知ってるんだけど?

まあ、聞くだけ聞いておこう。
その場に居なかったシゲル様に、何がわかるとも思えんが…。

「で、シゲル様は何と?」
「あの言葉、嘘があるとしたら「友情」だろうと。
 そこが本当は「忠誠」なのではないかと…」
「大正解」「えっ」「ああ、気にせず続けて?」

なんとなんと…!
まさか、光の力がそこまで凄いとは!!
王家に稀に発現する闇の能力まで読み解くなど…
おどろ木ももの木さんしょの木、とはこの事だな。

「聖人であるシゲル様がそう仰ったのであれば、やはりそれは真実であろう…王宮に疾く伝えよ。
 お前からの言葉であれば、真実と捉えられよう」
「はっ、すぐに報告書を、父経由で提出致します」
「うむ、それで頼む」

……まーでも、燻ってるからね。
このお言葉は大変に有難いと言わざるを得んね。

中高年どもは「十年前が昨日のことに感じる現象」のせいか知らんがまだ言い続けておるしなー。
歳を取るってそういう事よって母上も言ってたし。
父上もまだチクチク言われてるし。

「余は嘘をつくことは下手だが、それだけで王が務まらぬというわけでなし。
 嘘をつけん王など前にいくらでもおるのにな」
「………………そーですね」

ぬっ、なんだこやつ、返事が適当だぞ。

さてはまたシゲル様を探しに行く気…ん?窓?
あっ、シゲル様が馬と戯れている…
あっ、馬がシゲル様を舐めた。
ははは、随分と好かれて…

「失礼します!!」
「ミシェル!?」

脱兎の如く駆け出したミシェル。

まさかとは思うが、あいつ馬にも嫉妬するのか?
そんなことないよね?あれ?うん?
あっ、もうあんなとこいる。
馬が舐めたあとにキスしてる。
おまけに頬ずりしてる。

「うへぁ…」

重いってゆーか、なんてゆーか…

「ちょーっと、教育が必要だな…」

ったく、執事のやつが余計なことするから!
本を取り上げて机の上に置いてたら、クリスチーヌに痛くもない腹を探られるし…
ディディには真綿で締められる感じで怒られるし…

「しょうがない、明日の壮行会までに修正しよ」

またディディに怒られるのやだもん。
クリスチーヌは別に、妹だし怖くないけど。

でも小憎らしい妹になったよな、クリスチーヌも。
『ディディ様の為に兄様を大切にして差し上げます』とか言うしさぁ、まあ許すけど。

ディディの大事な忠臣だし…
私の、たった一人の妹だもの。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの運命の番になれますか?

BL / 連載中 24h.ポイント:19,765pt お気に入り:231

深きダンジョンの奥底より

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:256pt お気に入り:24

俺の幸せの為に

BL / 連載中 24h.ポイント:2,450pt お気に入り:313

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:669pt お気に入り:153

五番目の婚約者

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:1,235

処理中です...