別にこいつとは付き合ってませんけど?

紫蘇

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聖人様になる旅路

馬の上での個人面談 1

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無事に内周11番目の祠で闇の力を封印して、俺たちは内周最後の祠がある村へ向かう。

馬車が無いので馬での移動だ。
俺は一人で馬には乗れないから、誰かの馬に一緒に乗せてもらわなきゃならない。
じゃあこの際だから、一人一人とちゃんと話がしたいなと思って、順番にみんなに乗せてもらう提案をしたのは良いんだけど…

「じゃあ、昼休憩までよろしくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願い致します」

あみだくじで順番を決めた結果、1日目の午前中はハイドさんの馬に乗る事になった。

「おいミシェル、そんな顔すんな」
「トラさん、心の狭い男は嫌われるぞ」
「過ぎた独占欲は修正して頂きませんと」
「……」

ミシェルは完全にブスくれている。
…ったく、仕方ないなあ。

「ミシェル」
「…何ですかシゲル様」
「だから様付けも敬語もいらないってば…
 こっち来て」
「…分かった」

ミシェルは単純だ。
だからこの作戦が効くと思う。

「ちょっと、頭、下げて」
「?」
「ちゅっ」
「!」

俺は思い切ってミシェルのおでこにキスする。

「機嫌直してよ、外周の祠で困るじゃんか」
「!!」

…どうやら作戦は成功らしい。

「じゃあ、出発しよ、みんな」
「あっ、ああ!」

トモアキは俺とミシェルを見て笑ってる。
俺もトモアキに笑ってみせる。

外周の祠はミシェルとやる。
俺はもう腹をくくったんだ!

あんなに好き好き愛してる、って言うのに襲って来ないミシェルを信じてみる。
キス一つにも同意を取ろうとしてくれるミシェルを信じてみる。
覚悟決めて、付き合ってみる。

最後までしてみて、駄目だったら…
その時は別れたらいい。
恋人は別れれば他人になれるから。

みんなにも、説明しようと思う。
俺がミシェルを信じることにした理由を。

***

出発して暫くして、ハイドさんが俺に言った。

「シゲル様、私と一緒で宜しかったのですか?」
「うん、ちょっと一人一人とお話ししたくて」
「何か問題でもあったのですか?」
「ううん、そういうんじゃないんだ」

やっぱりこういう事を人に言うの緊張する…!
俺は手汗をかきかきハイドさんに言う。

「俺、ミシェルと外周の祠やってみることにしたので…そのご報告っていうか」
「な、んと…!そうだったのですか!?」

自分の事みたいに喜ぶハイドさん。
友だちの恋が上手く行くと嬉しいのは、元の世界と一緒みたいだ。
俺はどうしてミシェルと付き合う事にしたのかを説明する。

「祠2つ、一緒にやって分かったんです。
 ミシェルは俺の事…尊重、っていうのかな。
 ちゃんと俺の気持ちを聞いてくれる、って。
 自分がしたいからって、無理強いしたりしないって…分かったので」

俺の言葉はそこで止まる。

やっぱり自分の過去を簡単には話せない。
だけどその過去も、俺がミシェルを選ぶことへの布石になってるんじゃないか、って思う。

それなら、あの街に引っ越してから急に男に執着される事が増えたのも、理解できるような気がする。
あっちの神様とこっちの神様が繋がってるなら、何らかのお膳立てがあってもおかしくない…
それはもしかしたら、俺とトモアキをくっつける為だったかもしれないけど。

無言の俺にハイドさんは言う。

「それなら良かった…
 これで私もマルコと心置きなく過ごせます」
「そうでしたか」

どうやら宿で随分気を使っていたらしいハイドさん。
マルコさんと2人でミシェルを宥めたり応援したりアドバイスをしたりしていたのだそうで…

「それでマルコさんがあの時、ミシェルをやたら推してきたんですね」
「ええ、団長を置いて2人で逢引することもできず、こう…悶々としたものが溜まると言うか…」
「んっ?」

あいびき?
ハイドさんとマルコさんが?
俺が不思議に思っていると、ハイドさんが言った。

「実は私とマルコは付き合っておりまして、もう10年になりますもので…。
 いい機会ですし、浄化の巡礼が終わったら結婚しようかと約束しているんですよ」
「へえー!何か素敵ですね」

なんだ、ハイドさんとマルコさんってそういう関係だったんだ!
知らなかったなあ…

「それなら俺も、祠の事頑張らないとな…」
「ええ、私達も出来る限りバックアップします。
 男同士の睦み合いについても、悩みや疑問があれば気楽にご相談ください」
「えっ、あ、うん」

そ、そっか。
ちゃんとした知識が無いと怪我したりするって聞く…

「団長にもきちんと説明はしておりますが、何分お互い初めてですと色々大変ですから…」
「えっ初めて?」
「はい、団長には恋人がいたことが無いので」

そういえば、セレスさんやリラさんがそんな事言ってたなあ。
最初可愛いですねの連発とかボディタッチとか、距離の詰め方が変だったもんな…

「あんなに美男子なんだから、モテそうなもんなのになあ」
「いやあ、告白した途端に100年の恋も冷めると騎士団じゃもっぱらの噂ですよ」
「それってどんな!?」

恐ろしっ!
どういう断り方してきたのよ!?

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