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聖人様になる練習

服を、服を下さい

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 敬称問題にひとまずの解決…俺が折れただけとも言う…を見た後、王子様が言った。

「ところで、伴侶様の事は「マキタ様」とお呼びすれば宜しいですか?」

 うん、そうそう…とトモアキは言いかけて、止まる。

「はっ…伴侶様?」
「はい、マキタ様はカラタニ様の伴侶でいらっしゃるのですよね?」
「……えっ?」

 俺とトモアキは顔を見合わせる。
 俺は戦々恐々、周囲の会話に耳を澄ませる。
 彼らは口々にこんな話をしている。

「まさか、すでに伴侶をお持ちの方だとは…」
「前例はありませんが、お告げによれば問題ないとのことですぞ」
「それなら聖人様を取り合うような事もなく、穏当に浄化の巡礼を行えるな」
「200年前には聖女様の愛を巡って、血で血を洗う諍いが起きたらしいからな…」
「ラブラヴしん様の深淵なるお考えだろう、文献からしても、今回の状況は今までで最も酷いのではと…」



 現場では盛大な勘違いが起きていた。



「やべえ、何でそんな、…あっ!!」

 しまった、俺もトモアキも全裸だった。

 確かに全裸の2人が重なり合って出てきたら、男同士でも勘違いを生むかもしれない。

 俺とトモアキは震えた。
 服を着てないからいけないんだ。

 くそっ、せめて風呂に入る前に呼ばれていれば…!

 トモアキと俺は皆々様の誤解を解くべく、必死で説明した。

「いや、これは、風呂に入ってたからお互い裸なだけで!な、シゲ!!」
「そうそう!別に、伴侶とかそういうんじゃないです!」
「俺たちはそういう関係じゃなくて、親友っていうか!これは事故、事故なんです!」
「そ、そう、不幸な事故!呼ばれたタイミングが悪かっただけで、普段こんな事ないですから!!」

 おっぱい好きでも男の胸は範囲外なトモアキと、未だ見ぬ理想の尻を追いかける俺は必死で否定する。
 なのに集まった人々は口々に言う。

「まさか、ご一緒に湯浴みをなさるほどの仲でありながら伴侶である事を否定されるとは…」
「あの息の合い方は、どう見ても伴侶…」
「そうだ、聖人様や聖女様のおわした国では男女の恋愛以外は全て差別の対象である…と、何かの文献に」
「おお…何という事だ!」
「ご安心くださいお二人様!
 ここでは、男同士であろうと女同士であろうと男女であろうと、恋愛に差別はございません」
「えっそうなんですか?」

 そういえばあの神様、『人と人が愛し合うのに制約の無い素敵な世界』とか言ってたな。
 なるほどこういう事か……

 じゃ、ね え!!

 俺とトモは付き合ってないし、本当にたまたま風呂にいただけだ。
 偏見は無くとも、男を好きになった事はない!
 何なら女の子と恋愛した事もない!



 ……悲しいなオイ!!



「「だから、違うんですってば~~~!」」

 俺とトモアキの叫びは、周囲の「もう安心ですよ」な空気で掻き消える。
 トモアキは小さい声で俺に怒る。

「シゲが『えっそうなんですか』とか言うから!」
「だってびっくりしたんだもん!!」

 ヒソヒソと小声で喧嘩する俺たち。

 それを見た王子様は言う。

「聖人様、伴侶様、今までお辛かったでしょう…我が国で、どうか末永く心安くお過ごしくださいませ。
 ……クリスチーヌ!そこにいるな?
 聖人様のお部屋をすぐに2人用に整え直せ」
「御意」
「お召し物も揃いのものを」
「御意」

 いやいやいや待って待って待って!?

 俺とトモアキはそんなんじゃないって!!
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