【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇

文字の大きさ
上 下
15 / 32
受視点

スパダリの行動力

しおりを挟む
ふと目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋の中。

「…ここは…んなっ?」

俺は全裸のまま、首輪を着けられて鎖に繋がれていた。手にも枷と鎖。

「…まさか」

ベッドの上で身体を起こす。
すぐに目に入ったのは姿見。
頭には犬(多分)耳カチューシャ…

「…尻尾がないだけましか」

気が付いたら監禁されていた。
犯人は課長だろう…課長じゃなかったら困る。

「課長じゃなくて、政景さん、か」

またお仕置き、なんてことになったら身が持たない。

俺は改めて部屋を見渡す…薄暗くて良く見えない。
でも政景さんの性癖から考えると、ここがSMプレイ専用ルームでもおかしくないと思う。

「…スパダリ」

人の性癖を言う前に自分の性癖を考える。

俺はどうやらちょっとMっ気があるらしい。
あとバイセクシャルだったらしい…だって過去に彼女が居た事もあるし、そん時ちゃんとセックス出来てるし。

「…あと、寂しがり…かな」

俺の動画が無いと寂しくて死ぬ、って政景さんは言ったけど、今寂しくて死にそうなのは俺の方だ。

「なんで政景さん、いないんだろう…」

会いたい。
さっきまでドロドロなセックスしてたはずなのにもう会いたい。

「せめてスマホがあったら…ゲームでもして、待ってられるのに」

目を覚ました時にいないなんて。

「…どこ行っちゃったんだろ」

時間の感覚が分からない。
マンションに連れ込まれたのは土曜日だから、どんなに寝てたとしても今日は日曜日…だと思いたい。

「…もう一回、寝直そうか…」

仕方ない、することも無いし…。
そう考えて、俺はもう一度ベッドに転がった。

「月曜日は仕事だし、解放してくれると思うんだけど…な…」

もたもたと毛布をかぶる。
手枷があるからやりにくい…はあ。

「次に目を覚ました時は、政景さん、いるかな」

いるといいな。
一人は寂しい…

そんな事を思いながら横になった時。

まるでどこかで見ていたかのように、政景さんが部屋にやってきた。

***

「ごめんね、ちょっと手間取っちゃって」

政景さんはニコニコしながら俺の頭を撫でた。

「入り用なものから先に持って来たんだ、ほら、陽向のパソコン。それからゲーム機と、スーツと通勤鞄に…」
「…えっ」

まさか、俺の家に行ってたのか?
それで荷物を?急になんで…。

「今日からここに住むのなら必要でしょ」
「す、住む…ですか!?」
「そうだよ、陽向は僕と一緒にここに住むの。
 そうすれば寂しくないし、お金も貯まるよ。
 僕も寂しくないし、お互い利益しか無いでしょ」
「そんな、急に!?」

待って待って、俺にも都合ってものが。
だって、えーと…
えーと…

何かあるだろ、何か…!!

俺は同居の話を断るべく、考えを巡らせる。
政景さんは怒涛の如く俺を説得にかかる。

「試しに陽向君を監禁してみて思ったんだけど、週末だけじゃやっぱり足りなくてね、動画も撮ったけど、やっぱり実物には叶わないし、陽向としたい事はセックスだけじゃないんだって気づいたっていうか、デートもしたい、って言われたとき、はっとしたんだ、デートは家に帰ったあとも会話が弾むし、共通の思い出があるって特別だよね、そういう関係を今までより少し濃くしたいっていう事なんだ、決して毎日セックスできるとか思ってるわけじゃなくて、毎日を共有して暮らしていきたいなって、そう思ったんだ」

そうは言われても急すぎる。
こういう事は少しずつ進めたい俺は、何とか政景さんを思い止まらせようと理屈を捏ねる。

「ガスと電気と水道とネットの契約があるんですけど」
「うん、そうだね」
「解約したりするのに時間がかかるので、今すぐというわけには」
「解約できるまでのお金は私が払うし、手続きも任せてくれ」

「それに、通勤定期の事とか、会社にも住所変更の届け出さないといけないし…」
「全部やっておくから安心して」

「それに、退去の事、管理会社に…」
「それも連絡しておくから大丈夫」

駄目だこれは。
もっと情に訴える作戦に切り替えよう。

「監禁されてるとき、寂しくて死にそうだった」
「それは…ごめん」
「セックスした後に姿が見えなくなるの嫌」
「ごめん」
「反省してる?」
「うん、だから明日から同居しよう」
「なんでそうなるんですか!?」

というか、お付き合い始めた次の日から同居って早すぎない?
まずはお試し期間ってものがだな…

まあ…お試しったって、今まで散々お泊りしてるから、何とも…言えないけど。

「…陽向君が泊まってくれる日はあんなに楽しいのに、帰ってしまうとその分寂しいんだ」
「だから、同居なんですか?」
「…だって、寂しいんだ。
 この部屋は一人で住むのには広すぎる、分かるだろ?」
「…まあ、そうですよね」
「だから同居…」
「話が急すぎるんですってば!!」

政景さんはシュンとしてしまった。
…でも、寂しいのは分かる。
俺だって、本当は帰るの寂しいし、もう一日泊まろうかなっていつも思う。
だから…

「…なので、妥協案なんですけど」
「なんだい?」
「毎日お泊りすればいいんじゃないかと」
「…!!」
「会社行くのはここから。
 会社から帰るのは向こうだけど、こっちへ毎晩遊びに来るって感じ…それじゃ駄目ですか?」
「いい、それでいい!」
「その代わり、俺、自分の部屋にいるのと同じ様にゲームするし、本や漫画に夢中になったりするけど、いい?」
「………………ぃぃ」

うん、あんまり良くないんだな。

でも俺だって趣味をできるだけ続けたい。
もちろん家事は半分こするし、その、セックスも週3日くらいなら…何とか、ついていけるかな…。

「その、一人きりで薄暗い部屋に閉じ込められるのは嫌ですけど、そういうのがあればずっと家に居ても大丈夫だし…それなら監禁みたいなもんじゃないですか?」

政景さんは唸った。
そして絞り出すように言った。

「…その代わり、ゲームしてるところ見てても良い?」
「それは…はい、楽しいかどうかは分かりませんけど」
「本や漫画を読む時は、同じ部屋に居ても良い?」
「はあ、別にそれも…いいですけど」
「じゃあ大丈夫、我慢できる」
「我慢って言っちゃってるじゃないですか」

大丈夫かなぁ、こんなんで…。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...