【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇

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受視点

スパダリと昼飯

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「あれ、安田くん弁当じゃないの?」
「ええ、ちょっと今日は…」
「どした、金ないのか?カロリー◯イト食うか?」
「いや、久々に外へ飯食いに行ってきます」
「そうか…頑張れよ!」
「どうかご無事で…!」
「気をつけて行くんだぞ!」
「ありがとうございます」

何故か昼飯を食いに出るだけのことにエールを貰いながら会社を出る……出て暫くで、気がついた。
さすがオフィス街、飯屋が少ない。

「なるほど、頑張れか…」

安いとこは並んでる。
並んでないとこは高い。

……分かった、店に入るのは諦めよう。

「テイクアウトのキッチンカー…」

安いとこは並んでる。
並んでないとこは高い。

ちくしょう!お前もか……あっ!

「そうだ、コンビニ!」

俺は今いる場所から一番近いコンビニに入った。
高級おにぎりしか残ってなかった。

仕方ないから次のコンビニへ行ってみた。
高級おにぎりも残ってなかった。

仕方ないからまた次のコンビニへ…と、その時。

「おや、安田君?」
「あっ…長船課長!?」

スパダリ疑惑(?)のある人物と偶然にも出会ってしまったのだった…。


***


お昼を食べに行くところだという課長に連れられてやってきたのは、裏通りにある小さな居酒屋だった。
営業してんのか分かんない、暖簾も掛かっていないその店の扉を、課長はなんの躊躇もなく空けた。

「ああ、長船さん、いらっしゃい。
 部下の子連れてくるなんて珍しいね」
「はは、まあたまにはね…
 あ、この子にメニューお願いします」
「へいへいー」

俺は長船課長と一緒にカウンター席に座り、お品書きを待った。
渡されたお品書きを恐る恐る開くと。

「あ…っ、や、やすい…!」

行列の出来ていない店は高いと思ってたのに、ここは日替わり定食が700円という安さ…。
とんでもない穴場だ。

店長がおしぼりと水をくれて、注文を聞いて厨房へ戻った。
すると間髪入れず俺の隣に座った長船課長が話しかけてきた。

「お弁当、作り忘れちゃったのかい?」
「そうなんです、ついうっかり…」
「毎日お弁当なのに、珍しいなと思ってね…
 何かあったの?」
「あ、いや…ちょっと考え事を、はは」

長船課長の事を考えてたら生姜焼き焦がした、なんてさすがに言えない。

目の前に注文した日替わり定食が出てきた。
アジの開きと味噌汁、ひじきサラダの小鉢…
しかもご飯は五穀米。めっちゃ健康的。

「これで700円…お得しかない」
「そうだろう?
 この店はね、うちの部長がうまい昼飯を食いたいがために無理言ってランチ営業してもらってるの。
 入れるのはそれを知ってる人だけなんだ」
「だから空いてるんだ、すごいっすね」

さすが経営企画部…昼飯のことまでバッチリだな。

「またお弁当忘れたら声掛けて?
 連れてきてあげるから」
「ありがとうございます!」

そんな会話をしたところで、長船課長の前にもサバの味噌煮定食が運ばれてきた。
こっちはしっかりサラダ付き…これで900円。

「味噌煮も一口食べてみるかい?」
「いいんですか?あ、じゃあ俺のアジも半分」

メインを半分ずつ交換して頂く。
美味い…!

「美味しいですね!」
「そうだろう?ここの大将は腕が良いんだ。
 僕も何度か料理を教えて貰ったけど、この味にはなかなかならなくてね…」
「良いなぁ、俺も教わりたい…」

こんな美味しい和食作れたら、スパダリじゃなくても惚れるしかないでしょ…。
問題はどうやって料理の腕をアピールするかだけど。

あっ、ホームパーティーか?
でもうちでホームパーティーとか無理だろ。
築40年のワンルーム、布団は万年床、テーブルの上にも床にも棚にも本とゲームが溢れてるし、テレビはもはやゲーム用モニターと化して久しい…

飯は台所で立ち食いだし。
お洒落なお酒とか無いし…普段着はし◯むらだし。

いや、別にし◯むらが悪いんじゃない、俺のセンスがよろしくないだけなんだけどさ…

俺はそんな事を考えながら、ひじきサラダに箸を伸ばし…

「何、このひじきのサラダめっちゃ美味い!」
「おう、気に入ったか?」
「はい!こんなの食べたこと無いです、めちゃくちゃ美味いっす!」

大将はご機嫌で、サービスと言いながらひじきのサラダのお代わりを出してくれた。

「うまーい!」
「そうかそうか、いっぱい食えー」

魚も味噌煮も全部美味い!

俺は久しぶりに満ち足りた昼飯を食ったのだった。
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