【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

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王子様と皇太子殿下 1

皇太子、長い走馬灯を見る 2

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でも、ある日急に事態は好転した。

皇帝のしている事を、良しとしない人が現れたのだ。

それは隣国の王子であるエース殿下と、皇帝の第一夫人である皇后様だった。

国同士の親交を深めるために来ていた彼が、ある日偶然、その「行為」を見てしまったと、何とかしてやって欲しいと、皇后様に伝えてくれた。

皇后様は、嫉妬に狂ったをして、自分を城から追放してくれた。
行き先は皇后様のご実家で、帝国最強の部隊を持つと言われている、東の辺境伯の領地だった。

そこでの暮らしは城にいた時よりずっと良かった。
剣術、戦術、戦略、軍の運営、領地経営、何でも死にものぐるいに学んで、哀しみに暮れる暇もないくらい忙しくて…。

多分それは辺境伯様の優しさだったと思う。


友達もできた。

東の辺境伯様の娘のオレーリアさん。
それから、ソラ君。

ソラ君は、北の部族の特徴を持った、黒目黒髪の男の子。
村の借金を返すために少年兵になったそうだ。
自分と同い年だったから、剣術の稽古の相手になることが多くて、自然と仲良くなった。

一緒に戦場にも行った。

二人とも子どもだったから最初は後方部隊だったけど、そのうち前線にも出るようになった。
将兵の首を二人で取って、報奨金を貰ったりもして、いつかソラ君の村の借金をなくそうねって約束した。

だから頑張って戦果を上げていたら、第一皇太子に目を付けられてしまった。
そして、急に「北の辺境をお前に任せよう」って言われた。

その頃の北の辺境は相当に荒れていた。
帝国から派遣した領主が長続きすることは無く、殺されたりすることもあった。

第一皇太子は「だからお前に託すのだ」なんて白々しい事を言ったが、本心は別だろう。

、各地に散っていた北の部族出身者を全て集めて新しい部隊を1つ編成してのだから。

つまり部下は全員、危険分子。
その意味ぐらい、馬鹿でも分かる。

死ね、ということだ。

領主になって殺されても良し。
行軍中に殺されれば尚良し。

少なくとも統治に失敗する自分を見て、
「第二皇太子とはいえ帝国人でない者だ、無能なのは仕方ない」
…って、嘲笑うことはできると思ったんだろう。


用意された部隊は全員が黒目黒髪。
率いる僕は金髪緑目。

いわゆる帝国臣民の持つ「明るい茶色の髪に青い目」の者は、部隊に一人もいなかった。


…だけど、ソラ君がいた。

ソラ君も、北の部族出身だった。
ソラ君のご両親は、併合のときの戦で帝国軍に殺された…と聞いた。

だから、僕が第2皇太子だなんて知られたら、嫌われるどころか憎まれるんじゃないかと思った。

だけどソラ君は、
「背中に焼印のある皇太子殿下なんかいないよ、いくらなんでもそんなの、信じられないよ」
って。
「おれ、ちゃんと分かってるよ。
 本当は「皇太子にさせられた、訳ありの子」なんだろ?」
って…

部下として友達として、ついてきてくれた。

騙しているようで申し訳なくて、何度か説明しようとしたんだけど、よく考えたら「皇太子にさせられた、訳ありの子」っていうのもあながち間違いでない気がして……諦めた。

多分それがあったから、他の兵士たちも僕についてきてくれたんだ。


そうして僕は北の辺境領主になった。

小競り合いより先に炊き出しをして、この土地をどう変えていくかをみんなに説明して回った。

最初は半信半疑だった領民たちも、そうやって話をするうちに少しずつ僕を受け入れていってくれた。

慣れない畑仕事に、開墾、土木工事。
みんなと一緒に、汗を流して、笑って。

作りたかった麦畑を作って、
夢だった大浴場を作って、
玉子が食べたくて鶏を飼って、
食べてみたかった豚や牛を飼って。
それからソラ君が可愛いって言ってた羊を飼って、
ソラ君がかっこいいって言ってた北の騎馬隊に憧れて馬を増やした。

そこそこ豊かな土地になった北の辺境には、小さな町もできた。

そうしてあの約束は、別の形になったけど…
ソラ君の村の借金を無くすことはできたから、守れたことになるのかな?

なってるといいな、と思う。

こうしてみると、悪い人生じゃなかったな。
北での暮らしも充実してたし、何より今年の冬は、飢えて死ぬ人を出さずに済んだ。

「いい人生、だったな…」

最後にケチはついたけど、
人生概ね、これで良かった。

何となく幸せな気持ちになっていると、どこからか蜂蜜のいい匂いがしてきた。
幸せって、甘いんだな。

そうそう、自分が北の領地で作った小麦で、ほんのり甘いパンを作ったんだ。
研究に研究を重ねた、ふわふわの美味しいパン。

天国に行けたら、かあさまにも食べてほしいな。

もう、おしろなんかにいかなくても、いいよって。

ぼくはもう、パンくらい作れちゃうんだから、ぼくがみんなとつくった、広い広いむぎばたけをみせるんだ、げんきいっぱいにそだってるムギをみながら、ぼくはいつだってかあさんのこと、おもってたんだよって。

かあさまはきっと、がんばったわねって、いっぱいよしよししてくれて、ぎゅってしてくれて、きらきらわらってくれるって、しってるんだ、

「かあさま!!」

ぼくは叫んだ。

そして走った。

もうすぐそっちへいくよ、まってて。
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