【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

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幕間 7

★記録係と騎士

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ここは、「南の辺境」から名前を変えた、ミドリー国の更に南にある、小さな島。
誰もやってこない浜辺にテントが立っている。

「裸でも寒くないっていいねー」

鍛えられた体を全て晒して、ハンモックに寝そべる男は、細身の男に声をかける。

「そうだな」

彼は薄手のシャツとゆるいズボンを穿いて、男のハンモックの隣に座っている。

「ここで暫く過ごすのもいいなぁ…海も綺麗だし魚も取り放題だし」
「水が雨水しかないけどな」

食べなくても飲まなくても平気なので、本当はそんなことはどうでも良いのだが。

「ねえ、スー。書き物、進んでる?」
「ああ、この島の地図は、描けたよ」

スー。本名スーべリオ。細身で飄々とした中年。
元トーリ王国の記録係。今はただの「眷属」だが、記録することはやめられない。
とにかく色々記録して、溜まったところで本国へ送るのが、彼の「仕事」である。

「ところで、ギー。裸でいると、虫に食われるだろ?どんな虫に食われたのか教えてくれないか」
「ええっ、覚えてないよ」

ギー。本名ギレット。鍛えられた体に整った顔。
元トーリ王国の騎士。彼もまた「ただの」眷属であり、スーを護衛しながら世界の色々な場所に行っては、裸になって寝転がることを楽しんでいる。人がいる所だとできない謎の趣味である。

「んー、どっか虫に食われた跡とかないかな」

スーはギーの体をじっくりと眺める。
眺めていたかと思うと、徐ろに脚を開かせる。
そして、下半身を舐めるように…見る。

「やだ、スー…積極的」
「たまにはこっちから言おうかなと思ってな…
 ……抱かせろ、って」

----------

2人で「楽園」に残されたあの時。
新米騎士のギーは、周りに冷たくあしらわれるのに耐えきれず、初日で泣いた。
記録係のスーは、今まで職場でもこういう扱いだったので何も特に感じなかったのだけど、ギーがぽろぽろ泣くのを見て、慌てて抱きしめた。

「大丈夫、私がいるよ、1人じゃない」

そうやって背中をさすり、慰めているうちに…いつの間にか同じ床で寝ることになり…そこからまたなし崩し的に…体の関係を持ってしまった。

最初のキスも、ギーからせがんだ。
最初はおでこ、次の時は鼻先、次は頬…
そして、唇。
深いキスは、その次。

ギーは泣く度に、もっと、もっと、とせがんだ。
スーは、言われるまま、してやった。
行為がエスカレートしていくのを、止められなかった。

そして、ついに、「抱いて」と言われた。

そういう知識が無かったので、その日は断った。
一緒にただお互いのナニを扱いて、終った。

「今度は、抱いてくれる?」

というおねだりに、

「……やり方が分かったら、な」

とは言ったものの…。
何とか方法を調べなくては、となって、気づいた。

絶望的な気分だった。
そんな記録があるはずがない。
同性愛はこの国では禁忌だからだ。
禁忌であることを相談するなら、
相当人を選ばなければならない。

しかし話しかけるべき人の目星はついている。
ユーゴがお熱を上げていた彼だ。
彼はユーゴの恋心を叱りつけたりしなかった。
どうやら禁忌を咎める人ではなさそうだ。
その人は……
この楽園で、単に先生と呼ばれるあの人だ。
周りから愛され、大切にされているあの人だ。
何でも知っていそうなあの人だ。

スーは、誰かに話し掛けるのが苦手だった。
話し掛けられるのも苦手だった。
だのに、いきなり楽園の主に話しかけるなんて…

それでも、年上の矜持が優った。
先生はいつも畑で人々に囲まれているが、やるしかないと覚悟を決めた。

「先生っ、お聞きしたいことが」
「お前が先生に何の用だ」「答える義理はない」

周囲の人間が邪魔をする。
それでも、声を張る。

「先生っ!お聞きしたいんです!!」

すると、人々の隙間から、
「ちょっと、ごめんよ、はーい、何を?」
と、先生が現れた。

「こ、個人的なっ!こと、なのですがっ!」
「うん、どうしたの?」
「男をっ、抱くとはっ!どうしたら!と!」
「ちょっ、おま!?めちゃ個人的!!」

声大きい!あっちいこう、あっち、と言って、
先生は慌ててスーの手を引いた。

屋敷の裏にある長椅子へ座ると、

「そんで、急に『男を抱く』って…誰が誰を?」
「その…わ、私が…、私がギー…ギレット、うちの、騎士の、か、彼を、だ、だく、抱く、のです」
「え!あの子!?…ゴメン、声大きかった」
「そ、その、皆さんがまだ私達を警戒しておられるのが辛かったようで、慰めているうちに、何故かそういうことになってしまって、こんな中年が、あんな若い子を…抱く、ことに」
「「皆さんが警戒している」方を何とかしたいわけではないの?」
「それは、我々がこの楽園の「監視」として居る以上当たり前のことですし…本当は、死体要員ですが」
「死体要員!?死んでる扱いなの!?」
「元々「死んでも困らない」者としてここへ派遣されてきていますから…。
 私もギレットも、身寄りがありませんので。
 それより、その、男を抱く方法が分かるものがないかと…」
「ああ、それね!そっちは秒で解決するよ」
「秒?」
「すぐにってこと。ついといで!」

先生はスーを自室に連れて行った。
そしてガサガサと棚の裏を探した。

「このあたりに、確か隠したんだよ~」
「は、はあ」
「あ、あった!」

何かの教本に見えるそれは…

「じゃーん!「男同士の性交について」!
 いわゆるエロ本…艶本?…とは一線を画したハウツー本…指南書、手引書…だ!君に貸したげる!」

あまりにどストレートなタイトルだった。

「こ…こここ、こんな本があるとは…」
「王都の一部で流通してるんだけど、ちゃんとしてる本だよ!ちなみに「女同士~」も完備」
「な…なぜ…」
「そりゃー、性教育も大事な教育だからさ」

はあ、なるほど…と思ったが、この国で同性同士での性交は完全に禁忌だ。つまりこれは…禁書。

「禁忌だよねー。困ったことにねー。
 でも好きになったらしょうがないじゃん?
 ほんで、セックスしよ!ってなったとしてさ、気持ちよくなかったら、愛も壊れちゃうじゃん」

……ちなみにセックスは性交という意味らしい。

「は、そ、そうですか…。」
「そんなこと気にしてるのに、大声で男抱くとか言っちゃだめじゃん」
「…もう死んだ身なので、怖いものはないです」

はは、なるほどねぇ、と言って先生は笑った。

スーはその本を抱えて自室に戻り、読んだ。
用意する物、準備の方法…愛撫、挿入、後始末。
これは…と気が遠くなるが、とにかく読まなければ…

気づけば夕方になっていた。
ギーが部屋に帰ってきたのに、気づくのが遅れた。
慌てて本を閉じたが、隠す前に題名を見られた。

「おとこどうしの、せいこうに、ついて」
「あ、ああ、やり方がわかったらと思って」
「……本当だったんだ」
「……へ?」
「……やり方が分からないから無理だ、って言葉は、本当だったんだ」
「そりゃ、本当も何も」
「体よく断られたんだと、思ってた…」
「えっ……」

ギーは、いつもと違う涙を浮かべた。そして、

「……抱いて」

と言った。

----------

ハンモックが揺れるたび、嬌声があがる。
ギーはハンモックに背中を乗せて脚を開き、スーはハンモックを揺すりながら腰に打ち付けるように穿つ。

「抱いて、って言われるばかりなのも、情けない気がしてね、たまには私から、誘おうかなと、思って、」
「あっ、あん!嬉しい、スー!」
「これで、ゆらゆらしてる、ギーを見て、思いついて、しまって、つい」
「あっ!いい、深い!いいっ、いい!」

ギーは昔から、男が好きだったそうだ。
でも、抱いてなんて誰にも言えなかった。
禁忌だから。
急にハンモックを揺らすのをやめ、ピタリと腰とお尻をくっつけた。そのまま、ぐりぐりと押し込む。

「最初は誰が良かったの?」
「や、いじわる、いわないでぇ…」

旅の間に、自分は自分と同じ騎士ユーゴを好きになると思ったのに、なぜか心を惹かれたのは、記録係のおじさんのほうで…

「本当は誰に抱かれたかったの?」
「あっ、す、スーがいいっ、スーがいいのっ!」

そう、抱かれたいと思った男なんていくらでもいたけど、自分がどうしても手に入れたいと思ったのは、一人だけだ。

「…ギー、正直に言ってごらん?
 私ね、変身の仕方を覚えたから…ギーの抱かれたかった男に変身して抱いてあげられるよ?」
「え…」

考え込む、ギー。

「早く、教えて?」

耳元で囁く、スー。
ついでに耳を舐める。乳首も抓る。

「やっ、やっぱり、スーがいい…!」
「じゃあ、今日はそうしようか」

でもいつかね、やってみないか?
いつもと同じじゃ飽きるだろ…
と言って、スーが笑う。

「そんなこと、いいからぁ、早く…して?」
「はいはい」

日が暮れるまで、2人は繋がりあった。



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