【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

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幕間 6

辺境の大いなる悩み(南の場合)

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…東の辺境が「国名」を巡って紛糾していた時。
南の辺境もまた、独立について悩んでいた。

「北は連合共和国、東は公国、うちらは…何国?」

これである。

南の辺境は、辺境伯が全てを治めているのではない。

広い土地を10に分け、
それをその土地に縁のある家が治め、
辺境伯はその家から税金を集め、
それを使って中央との関係を良好に保ちつつ、
土地と土地の利害を調整する係をやっているのだ。

基本的な法律もすでにある。
殺人、窃盗、火付け、詐欺など、ほとんどの人間が「悪い事」だと思っていることは犯罪、取引はお互い得になるように…というくらいのものだが…。

そんなかつての南の辺境、「ミドリー」と名前は決まったが、「ミドリー公国」なのか「ミドリー連邦」なのか「ミドリー共和国」なのか、はたまた「ミドリー王国」なのか…

「連邦っていうと、地域一個一個独立してるみたいになるやんか、でも独立してるわけではないやん」
「共和国ってなると、君主がおらんということやから…となると、辺境伯さんの立場はどうすんねんな」

そう、辺境伯は別にどこの土地も収めていないのだ。
ただ調整役として、代表として最も能力があるからそこにいる。

「それに共和国ってなると何や、代表を何年か毎に選び直すんやろ?調整役がコロコロ変わんの嫌やわ」
「ほな公国…でええん違うか?辺境伯さんが初代ってことで…まあ東とお揃いやし、ええんちゃうか」
「そや、王様が公守様になるだけやもんな」
「うーん、公国やと、辺境伯さんにもっと何か…
 軍を動かせるとかの権限がいるんと違うか?」
「うーん、軍…軍かあ」
「うちら、正規の軍いうて屋敷の警備くらいやろ」

そういえば領軍を率いて云々などあまりした事が無い。
戦争のたびに都度都度兵を募集して、喰いっぱぐれた連中に金と武器を渡して兵隊のふりだけさせているが、大概は金と外交でなんとでもしてきたのだ。

逆に言えば、それくらいの能力が南の辺境伯には求められてきた。
そして代々それをしっかりとこなしてきたのだ。
驚異である。

「おかげで平和やねんけどなー」
「ほんでも国になるんやし、国境沿いに警備隊くらいいるんちゃうか?
 知らんけど」
「知らんのんかい!!」
「で、軍いうてどうしたらええのや?」

わいわいガヤガヤ。
10人の代表者が口々に騒いでいるところ、1人静かだった老人が口を開いた。

「軍についてはやな。東の辺境と同盟組もうと思ってるねん」
「同盟?」

老人は大いに頷いて続けた。

「そや、同盟や。わしの読みやと、北と東はそのうち同盟を組むはずや。
 …「北の猟犬」がどうやって出来たかを見たらわかるやろ?北が死ぬ程貧しかったとき、北の辺境から東の辺境へ大勢出稼ぎの兵が行ってたんや、ようけ世話になっとるもんがおる…しかも、あの軍を作り上げたクロエ様も、あそこで鍛えてもろうたんやで」

「なるほど」

「せやから、東と北の同盟より先に、南と同盟を組まへんか交渉したったらええねん。
 東は交渉事がヘタクソ…ちゅうか、外交の概念がないんちゃうか?やからな、今のうちやったら『こっちから内政官やら外交官やらの指導するやつ送ったろか、そんかし何かあったら頼むわ』言うたらええねん」

おお、さすが辺境伯!
軍のことも解決できるし、東との関係が万全になればこれほど心強いことは無いですな!
そうやろそうやろ、と頷く老獪に、1人が意見した。

「せやけど、中央はどないしますの」

ご老人はふふん、と笑って言う。

「中央の復興なんぞ、何年かかるやらわからんのやで?何せ、あそこはわしらからので食うてたようなもんや。あそこの国民を食わしていけるだけの畑なんかないし、家畜も飼うてへん。
 ほなそこからやりまっせ、となってやで?
 農地を小馬鹿にしとるやつらが心入れ替えて真面目に畑を耕せると思うか?おまけにそもそも農地がないんやで?作るしかないやろ?そこからやで?
 しかも賠償金も払わなあかんしやな、無理や。
 何ならそのうち向こうから頭下げにくるやろ」

「ほんでも、借金まみれの北の辺境は10年ほどであそこまで行ったんでしょ?」

「あれはなぁ、凄いことや、早すぎるくらい早いわ。
 クロエ殿下やからできたことやろと思うで?
 殿下の愛称である「カラス」を国の名前に即決させるくらいクロエ殿下は慕われとったし、殿下の号令のもと、まさしく「一丸となって」取り組んだ結果や。
 殿下のなりふり構わんとこも凄いわ…領地の借金、元本から返したいいうだけのことに…ほんま肥溜めみたいな中央の城ん中で、あんなんよう耐えたと思うで」

「…あれ、ですか?噂だけはかねがね」

「宴の席で、酒が入った貴族どもがよう自慢しよったからな…聞いとるだけで吐きそうやったわ」

「そうやったんですか…」

「そやそや、その貴族どもがイチモツ落とされて串刺しになっとったって聞いてピンときてんけど、多分トーリの「第3王子」はクロエ殿下に惚れとったな。
 クロエ殿下はそりゃー可愛らしいわ賢いわ優しいわ度胸あるわ強いわで、そら男でもコロッといくで。
 あれはクロエ殿下がやられた事への復讐みたいなもんやったんちゃうか?と思うたら順当かもしらん…と考えるとやな、トーリはそこまで怖い国ではないんちゃうかという希望もあるわけや…だから、こっちに攻めてくるとかあったらやな、交渉に賭けるのも手やわ。
 あーほんま、もうちょい皇后様が生きとってくれたら…北とも、というかクロエ殿下とも繋がりができて、わしらもうちょい有利やったんになぁ…」

「はあ、なるほど。ほんで、「公国」か「王国」か…どないしますの」

「それな、もう「ミドリー」でええやん。別にどんな政治体制の国ですよとか言わんでもええ。その方が都合のええこともあるやろ?…時間稼ぎとかな」

「…そんなもんですか?」

「馬鹿正直にやっとれるか、そんなん。ここは「ミドリー」、緑豊かなミドリー国や、それでええ」

「はあ」


かくして、南の辺境領は「ミドリー国」という名前で独立し、すぐに東と有利な条件で同盟を結ぶと、半年後には北までその同盟の輪を広げ…さらに中央から同盟と援助を「お願い」される立場となったのであった。
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