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幕間 6
辺境の大いなる悩み(東の場合)
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「北の辺境は、カラス連合共和国になるそうだ」
「各部族の合議制でやっていくと聞いたが…なかなか早いこと決めたな」
「あそこは元々部族単位で生活していたから、部族ごとに小さな国を作っていては大変なことだろうと思ったが…なるほどなぁ」
「まあ…あそこは、それでいいわよね…」
ここは元・マルーン帝国、東の辺境領。
中央はトーリ王国に敗北し、結果先代・先々代皇帝の治世下で併合した地域や国に含め、東・南・北の辺境も切り離されることとなった。
そして、東の辺境伯家と側近たちは悩んでいた。
「んで、うちはどうするかね」
「どうするかねって、言われましても…」
「今までとそう変わりません。むしろ中央に払う税金が無い分、領民に還元できますわ」
「しかし、国になるのですぞ、法律やら憲法やら作らねばなりませんし、どうします?」
「領地経営と軍の運営はまだしも、立法やら外交なんぞしたこともないからなぁ…」
「こんな時、妹様が生きておられれば……っ」
「お前んとこの息子はどうだ?」
「多少弁は立つかもしれんが、それだけだぞ」
「弁が立つのが役に立つもんじゃないのか?」
「うーん、確かに…言ってみたら交渉事などそれがなければ始まらんがなぁ…」
「……いい加減にしなさい!!」
バン、と机を叩いて美しき乙女が言う。
「そんなことはいいんです、お父様!」
「はっすんません」
「国の名前をどうするか、早く決めないと!」
「はっ、お嬢様、分かって御座います」
そうなのだ、早いこと独立宣言をしないと、トーリが切った期限が迫ってきているのだ。
独立宣言をするには、何はなくとも、そう、
「国名」が必要なのだ…。
「国家の政治体制のほうが国の名前より大事」なのはとても「正しい」ことなのかもしれないが、期限に間に合わせるためにはそうも言っていられない。
だと言うのに、そうは言っても…と男たちは、
「国の名前…、もう、お館様のご家名で宜しいのではないですか?ソーヴェン公国…で」
などと、何も考えずに言う。
髭面の男が1つ頷き、
「そ「駄目です。」だな」
即、乙女にバッサリ否定される。
「な…何故!?何故だ娘よ!」
「中央から貰った家名は捨てるべきだからです!
トーリがやった中央の粛清をご存知でしょう?
その中央から貰った名を使って国を作ったら…」
「はっ!そうか!」
「不興を買うってことですね」
乙女は1人の髭面を、びしっ、と指差して言う。
「お父様はそういう感覚が無さ過ぎます。」
「これ、オレーリア、人を指差してはいかん」
「喧しいですわ!」
いつもの父娘喧嘩が始まり、髭面をお館様と呼んでいた面々がやれやれ、という顔をする。
やんややんやとやり合っているうち、乙女が髭面に向かってまた指を差す。
「大体、ソーヴェン家は「正しさ」に拘りすぎ。
正しさって基準が使えなくなったらどうやって物事を決めるつもりなの!?」
「それは…しかし、正しさというものは常に…」
「……常に、何?そうやって正しさに拘った結果…
今、窮地に立たされてるんじゃない!」
「はっ!閃きましたよ、お嬢!」
「えっ、どんなの?」
「ツネニタダシイコトダイジ公国、でどうです?」
「クソ長い上にクソダサいから却下」
「うおーーーん」
「娘よ、クソは駄目だぞ、クソは」
「黙れクソ親父」
「あっはい」
東の辺境伯の長女は、乙女は乙女でも戦乙女。
東の辺境軍で殿を務めるほどの実力者…
父親もかたなしである。
「そ、そういえば南は?南の辺境はもうどんな名前にするか決まったのか?」
「それを知ってどうするんですか」
「早馬をやって帰ってくる頃に、期限が過ぎちまいますよ…」
またも男たちが黙り込む中、腕組みをして考えていた戦乙女は立ち上がり、言った。
「こうなったら叔母様のお名前を戴くのは?
…セブーリア公国、あら、いいじゃない」
「えっ、しかし、セブーリアは皇后だったのだぞ、それこそまずいのではないか?」
その言葉に不敵に笑って返す戦乙女。
「まずくなどありません!
叔母様とトーリの「第3王子」は、良好な関係だったと聞いております。地位を活用しクロエ様に便宜を図ったこともあるそうですし、少なくとも「第3王子」の不興を買うことはないでしょう」
「「第3王子」の不興を買うか買わないかで国の名前を決めるのは正しいことなのか…?」
「そうですぞ、それに、妹様がクロエ殿に便宜を図ったこととトーリの「第3王子」の間に何の関係があるのです」
そうだ、そうだと騒ぐ回りを一喝し、乙女は続ける。
「大ありです!
知らないのですか?トーリの「第3王子」は、クロエ様を大変可愛がっておられた、と…。
中央の王も、クロエ様を守ろうとなされた方が任命されたと聞きました。
ならばクロエ様を守ろうと彼を東の辺境へ送った叔母様にも相応の想いがあるはずよ。
それに…「クロエ様は死んだ」などと囁かれているけど、クロエ…いえ、カラス君は生きているわ」
一同がしん、とする。
「…戦の最中に「鬼神」を見かけたって聞いたの、皇城に潜り込ませといた影からね。
「鬼神」が生きているのに、その隣にいつもいる「死の妖精」が生きてないわけないでしょ!?」
「…お嬢様…!」
「二人は生きてる。
生きてトーリにいるのよ!」
その言葉に、一同は押し黙った。
ああ、お嬢様はまだ希望を捨てきれないんだ…
一同は、お嬢様とクロエとソラが、3人で仲良く剣術ごっこをして遊んでいたことを思い出した。
そして涙した。
そうか、戦乙女などと呼ばれているが、
彼女もまた、ただの乙女だったのだ、と。
2人が死んだ事をまだ受け入れられないのだ、と。
だがさらに、乙女は続けた。
「そう、そして2人は第3王子様に愛されながら、あの国で仲良く幸せに暮らしてるのよ…
ウフフフフフフ」
急にウットリする戦乙女。
それを見る男たちの顔は、少々引き攣っていた。
「オレーリア、お前というやつは…」
「……お嬢様の妄想か…」
「……しかもかなり爛れてるやつ」
「……結構これが馬鹿にできんから、困る…」
「そこ、何です!?」
「はっ、スイマセン」
乙女は、腕を組み不敵に笑う。
「だから、叔母様関連なら大丈夫、断言するわ」
髭面が心配そうに聞く。
「……しかし、お前の言う事が間違っていたらどうするのだ?
もし、不興を買って…、いや、不興を買わないようにするのが正しいこと、だとしてだな」
乙女は咳払いを1つ。
「では我が国の憲法に一条、付け加えましょう。
【国の名は国際的に問題があれば変更可能】と。
私は「セブーリア公国」、素敵だと思うわ!」
キラキラと華やかに微笑む乙女に、
逆らえる者はなかった…。
「各部族の合議制でやっていくと聞いたが…なかなか早いこと決めたな」
「あそこは元々部族単位で生活していたから、部族ごとに小さな国を作っていては大変なことだろうと思ったが…なるほどなぁ」
「まあ…あそこは、それでいいわよね…」
ここは元・マルーン帝国、東の辺境領。
中央はトーリ王国に敗北し、結果先代・先々代皇帝の治世下で併合した地域や国に含め、東・南・北の辺境も切り離されることとなった。
そして、東の辺境伯家と側近たちは悩んでいた。
「んで、うちはどうするかね」
「どうするかねって、言われましても…」
「今までとそう変わりません。むしろ中央に払う税金が無い分、領民に還元できますわ」
「しかし、国になるのですぞ、法律やら憲法やら作らねばなりませんし、どうします?」
「領地経営と軍の運営はまだしも、立法やら外交なんぞしたこともないからなぁ…」
「こんな時、妹様が生きておられれば……っ」
「お前んとこの息子はどうだ?」
「多少弁は立つかもしれんが、それだけだぞ」
「弁が立つのが役に立つもんじゃないのか?」
「うーん、確かに…言ってみたら交渉事などそれがなければ始まらんがなぁ…」
「……いい加減にしなさい!!」
バン、と机を叩いて美しき乙女が言う。
「そんなことはいいんです、お父様!」
「はっすんません」
「国の名前をどうするか、早く決めないと!」
「はっ、お嬢様、分かって御座います」
そうなのだ、早いこと独立宣言をしないと、トーリが切った期限が迫ってきているのだ。
独立宣言をするには、何はなくとも、そう、
「国名」が必要なのだ…。
「国家の政治体制のほうが国の名前より大事」なのはとても「正しい」ことなのかもしれないが、期限に間に合わせるためにはそうも言っていられない。
だと言うのに、そうは言っても…と男たちは、
「国の名前…、もう、お館様のご家名で宜しいのではないですか?ソーヴェン公国…で」
などと、何も考えずに言う。
髭面の男が1つ頷き、
「そ「駄目です。」だな」
即、乙女にバッサリ否定される。
「な…何故!?何故だ娘よ!」
「中央から貰った家名は捨てるべきだからです!
トーリがやった中央の粛清をご存知でしょう?
その中央から貰った名を使って国を作ったら…」
「はっ!そうか!」
「不興を買うってことですね」
乙女は1人の髭面を、びしっ、と指差して言う。
「お父様はそういう感覚が無さ過ぎます。」
「これ、オレーリア、人を指差してはいかん」
「喧しいですわ!」
いつもの父娘喧嘩が始まり、髭面をお館様と呼んでいた面々がやれやれ、という顔をする。
やんややんやとやり合っているうち、乙女が髭面に向かってまた指を差す。
「大体、ソーヴェン家は「正しさ」に拘りすぎ。
正しさって基準が使えなくなったらどうやって物事を決めるつもりなの!?」
「それは…しかし、正しさというものは常に…」
「……常に、何?そうやって正しさに拘った結果…
今、窮地に立たされてるんじゃない!」
「はっ!閃きましたよ、お嬢!」
「えっ、どんなの?」
「ツネニタダシイコトダイジ公国、でどうです?」
「クソ長い上にクソダサいから却下」
「うおーーーん」
「娘よ、クソは駄目だぞ、クソは」
「黙れクソ親父」
「あっはい」
東の辺境伯の長女は、乙女は乙女でも戦乙女。
東の辺境軍で殿を務めるほどの実力者…
父親もかたなしである。
「そ、そういえば南は?南の辺境はもうどんな名前にするか決まったのか?」
「それを知ってどうするんですか」
「早馬をやって帰ってくる頃に、期限が過ぎちまいますよ…」
またも男たちが黙り込む中、腕組みをして考えていた戦乙女は立ち上がり、言った。
「こうなったら叔母様のお名前を戴くのは?
…セブーリア公国、あら、いいじゃない」
「えっ、しかし、セブーリアは皇后だったのだぞ、それこそまずいのではないか?」
その言葉に不敵に笑って返す戦乙女。
「まずくなどありません!
叔母様とトーリの「第3王子」は、良好な関係だったと聞いております。地位を活用しクロエ様に便宜を図ったこともあるそうですし、少なくとも「第3王子」の不興を買うことはないでしょう」
「「第3王子」の不興を買うか買わないかで国の名前を決めるのは正しいことなのか…?」
「そうですぞ、それに、妹様がクロエ殿に便宜を図ったこととトーリの「第3王子」の間に何の関係があるのです」
そうだ、そうだと騒ぐ回りを一喝し、乙女は続ける。
「大ありです!
知らないのですか?トーリの「第3王子」は、クロエ様を大変可愛がっておられた、と…。
中央の王も、クロエ様を守ろうとなされた方が任命されたと聞きました。
ならばクロエ様を守ろうと彼を東の辺境へ送った叔母様にも相応の想いがあるはずよ。
それに…「クロエ様は死んだ」などと囁かれているけど、クロエ…いえ、カラス君は生きているわ」
一同がしん、とする。
「…戦の最中に「鬼神」を見かけたって聞いたの、皇城に潜り込ませといた影からね。
「鬼神」が生きているのに、その隣にいつもいる「死の妖精」が生きてないわけないでしょ!?」
「…お嬢様…!」
「二人は生きてる。
生きてトーリにいるのよ!」
その言葉に、一同は押し黙った。
ああ、お嬢様はまだ希望を捨てきれないんだ…
一同は、お嬢様とクロエとソラが、3人で仲良く剣術ごっこをして遊んでいたことを思い出した。
そして涙した。
そうか、戦乙女などと呼ばれているが、
彼女もまた、ただの乙女だったのだ、と。
2人が死んだ事をまだ受け入れられないのだ、と。
だがさらに、乙女は続けた。
「そう、そして2人は第3王子様に愛されながら、あの国で仲良く幸せに暮らしてるのよ…
ウフフフフフフ」
急にウットリする戦乙女。
それを見る男たちの顔は、少々引き攣っていた。
「オレーリア、お前というやつは…」
「……お嬢様の妄想か…」
「……しかもかなり爛れてるやつ」
「……結構これが馬鹿にできんから、困る…」
「そこ、何です!?」
「はっ、スイマセン」
乙女は、腕を組み不敵に笑う。
「だから、叔母様関連なら大丈夫、断言するわ」
髭面が心配そうに聞く。
「……しかし、お前の言う事が間違っていたらどうするのだ?
もし、不興を買って…、いや、不興を買わないようにするのが正しいこと、だとしてだな」
乙女は咳払いを1つ。
「では我が国の憲法に一条、付け加えましょう。
【国の名は国際的に問題があれば変更可能】と。
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