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王子様と皇太子殿下 5
皇太子、王子と初仕事
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「あ、エース、来たのか。じゃあ俺ら帰るわ」
そう言って、元部下たちは隣の家に行った。
どうやら、彼らはエース殿が王族を辞めたことにもう馴染んでいるようだ。
環境の変化にそこまで対応しているとは…。
自分のことは今も殿下、殿下と呼ぶのに。
彼らにもクロエと呼んでもらうことにしよう…
と思いながら家に入ると、台所からいい香りが漂う。
「昼飯ができたぞ~」
「えっ?」
どうやら、エース…さんは、料理もするらしい。
「そりゃ、戦争のないときは、王都から出て一人暮らししとるんじゃから、このくらいはの」
…王族が料理をするなんて。
いや、正確には王族ではないのか…?
駄目だ、混乱する。
「クロエは、まだこの国のことがよく分からんのじゃろ?昼飯を食べながら説明するとしよう」
そう言って、彼は食卓につき、自分にも席につくよう促した。
----------
お昼を食べながら、エース…さんは、この国について教えてくれた。
「…というわけでな、この国は人が常に足りんのだ。豊かであるためには、全ての国民が能力に見合った仕事をせねばならん。
だから、手や足がなかろうが目や耳が不自由だろうが、何か仕事が出来るだろうと常にみな考えておる。
なかなか苦労はするがの、そうせねばならんほど人がおらんのだ」
「そうなんですね」
「政にしても王はおるし、ちゃんと王子もおるがな、向かぬ者は向いておる者に任せても構わんのじゃ。
今代の王は政治に向いておるが…
1番目の王子は物書きとして活躍しておるし、
2番目は学校の教師をしておる。
3番目は建物が好きでの、設計士じゃ」
「……3番目の王子も他におられるのですね」
「そうじゃ。
しかし、第何王子などとは呼ばぬ。
みな単に名前で呼ばれるのだ。
『第3王子』は、有事のときの儂の呼び名じゃ。
他国だとまあ…元帥、くらいの意味じゃな」
「では、昔マルーンにお越しになられ…来た時に、第3王子と名乗っていたのは?」
「有事になるかもしれん、ということじゃったからの。
あの糞…皇帝は、我が国と戦をするための口実を常に探しておったし…じゃから、そのために話のお分かりになる皇后陛下を味方につけ、いざとなったら必ずお守りすると約束して…じゃが、病で倒れられるとは…約束は守れんままになってしもうた」
悔しいのう、とエース…さんは言った。
***
「さて、午後は何をするのかの?」
「この鉢に、土を入れて種を蒔きます。苗を作ろうと思いまして」
「苗?直接蒔いてはいかんのか?」
「畑に直接蒔くより、苗にするほうが家庭向きかと思いまして。
北でも、野菜などはこうして育てることが多かったのです。
種が多く手に入らないので、蒔いた種を鳥などに食べられないようにと思いまして…。
さほど間引きをしなくてもいいので、少ない種でもやりくりできますし、苗からのほうが丈夫に育ってくれます。
苗を作るのは大変ですが、その大変さを「買う」ことで無しにできれば、もっと手軽に家庭でも植物を育てられるのではないか、と」
「なるほど。
薬師も苗を売る商売ができれば、薬草が簡単に家庭で育つようになっても困らんしの」
「そうですね、それに薬草を採りに行く時間を減らすことができたら、研究に使える時間も増やせます。
そうすれば薬学の発展にも…」
2人で話しながら、どんどん作業を進める。
全ての鉢に土を入れ終わるとすっかり日が暮れていて、今日はここで終わりにしよう、ということになった。
晩飯を食べて今日の日誌を書き終わった頃、エースさんが声をかけてきた。
「そうそう、クロエ。
この近くにな、温泉に入れるところがあるんじゃ」
「温泉ですか?」
「うむ……クロエ、風呂は好きか?」
「いえ、その…1人で入るぶんには」
「風呂はマルーン北部の名物と聞いたが?」
「…その、あまり人に肌を見せたくないもので」
地獄の日々の始まりに押された焼印が、背中に残っているのを見られるのが嫌だから。
…でも、ソラ君はそれを見ていたから、ぼくが第2皇太子だと公にされた後も「カラス君は何か事情があって第2皇太子をやらされている」んだと思っていたんだって。
ということは、これのおかげで嫌われなくて済んだって事で…
悪い事ばかりじゃない、のかな。
「…背中の、焼印の、ことかの?」
「知ってらしたのですか」
「そりゃ、治療のときに見たから…じゃ。
…その、皇城で、偶然…お前が、その、あのとき」
「…、そうでしたか」
エースさんは、すまなさそうにして言う。
「……1人では、風呂に入るのも苦労するじゃろ?
儂と2人では…駄目か?
その、事情を知っている者と一緒に入るのなら、それほど気遣わなくとも良い…じゃろ?」
そうか、もう…色々、知ってるんだよな。
今更、飾ることも…無いか。
さっき、悪い事ばかりじゃないって…思ったし。
……それに、温泉だって、入ってみたい!
ぼくは勇気を出して、言った。
「じゃあ、お願いします」
そう言って、元部下たちは隣の家に行った。
どうやら、彼らはエース殿が王族を辞めたことにもう馴染んでいるようだ。
環境の変化にそこまで対応しているとは…。
自分のことは今も殿下、殿下と呼ぶのに。
彼らにもクロエと呼んでもらうことにしよう…
と思いながら家に入ると、台所からいい香りが漂う。
「昼飯ができたぞ~」
「えっ?」
どうやら、エース…さんは、料理もするらしい。
「そりゃ、戦争のないときは、王都から出て一人暮らししとるんじゃから、このくらいはの」
…王族が料理をするなんて。
いや、正確には王族ではないのか…?
駄目だ、混乱する。
「クロエは、まだこの国のことがよく分からんのじゃろ?昼飯を食べながら説明するとしよう」
そう言って、彼は食卓につき、自分にも席につくよう促した。
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お昼を食べながら、エース…さんは、この国について教えてくれた。
「…というわけでな、この国は人が常に足りんのだ。豊かであるためには、全ての国民が能力に見合った仕事をせねばならん。
だから、手や足がなかろうが目や耳が不自由だろうが、何か仕事が出来るだろうと常にみな考えておる。
なかなか苦労はするがの、そうせねばならんほど人がおらんのだ」
「そうなんですね」
「政にしても王はおるし、ちゃんと王子もおるがな、向かぬ者は向いておる者に任せても構わんのじゃ。
今代の王は政治に向いておるが…
1番目の王子は物書きとして活躍しておるし、
2番目は学校の教師をしておる。
3番目は建物が好きでの、設計士じゃ」
「……3番目の王子も他におられるのですね」
「そうじゃ。
しかし、第何王子などとは呼ばぬ。
みな単に名前で呼ばれるのだ。
『第3王子』は、有事のときの儂の呼び名じゃ。
他国だとまあ…元帥、くらいの意味じゃな」
「では、昔マルーンにお越しになられ…来た時に、第3王子と名乗っていたのは?」
「有事になるかもしれん、ということじゃったからの。
あの糞…皇帝は、我が国と戦をするための口実を常に探しておったし…じゃから、そのために話のお分かりになる皇后陛下を味方につけ、いざとなったら必ずお守りすると約束して…じゃが、病で倒れられるとは…約束は守れんままになってしもうた」
悔しいのう、とエース…さんは言った。
***
「さて、午後は何をするのかの?」
「この鉢に、土を入れて種を蒔きます。苗を作ろうと思いまして」
「苗?直接蒔いてはいかんのか?」
「畑に直接蒔くより、苗にするほうが家庭向きかと思いまして。
北でも、野菜などはこうして育てることが多かったのです。
種が多く手に入らないので、蒔いた種を鳥などに食べられないようにと思いまして…。
さほど間引きをしなくてもいいので、少ない種でもやりくりできますし、苗からのほうが丈夫に育ってくれます。
苗を作るのは大変ですが、その大変さを「買う」ことで無しにできれば、もっと手軽に家庭でも植物を育てられるのではないか、と」
「なるほど。
薬師も苗を売る商売ができれば、薬草が簡単に家庭で育つようになっても困らんしの」
「そうですね、それに薬草を採りに行く時間を減らすことができたら、研究に使える時間も増やせます。
そうすれば薬学の発展にも…」
2人で話しながら、どんどん作業を進める。
全ての鉢に土を入れ終わるとすっかり日が暮れていて、今日はここで終わりにしよう、ということになった。
晩飯を食べて今日の日誌を書き終わった頃、エースさんが声をかけてきた。
「そうそう、クロエ。
この近くにな、温泉に入れるところがあるんじゃ」
「温泉ですか?」
「うむ……クロエ、風呂は好きか?」
「いえ、その…1人で入るぶんには」
「風呂はマルーン北部の名物と聞いたが?」
「…その、あまり人に肌を見せたくないもので」
地獄の日々の始まりに押された焼印が、背中に残っているのを見られるのが嫌だから。
…でも、ソラ君はそれを見ていたから、ぼくが第2皇太子だと公にされた後も「カラス君は何か事情があって第2皇太子をやらされている」んだと思っていたんだって。
ということは、これのおかげで嫌われなくて済んだって事で…
悪い事ばかりじゃない、のかな。
「…背中の、焼印の、ことかの?」
「知ってらしたのですか」
「そりゃ、治療のときに見たから…じゃ。
…その、皇城で、偶然…お前が、その、あのとき」
「…、そうでしたか」
エースさんは、すまなさそうにして言う。
「……1人では、風呂に入るのも苦労するじゃろ?
儂と2人では…駄目か?
その、事情を知っている者と一緒に入るのなら、それほど気遣わなくとも良い…じゃろ?」
そうか、もう…色々、知ってるんだよな。
今更、飾ることも…無いか。
さっき、悪い事ばかりじゃないって…思ったし。
……それに、温泉だって、入ってみたい!
ぼくは勇気を出して、言った。
「じゃあ、お願いします」
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