【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

文字の大きさ
上 下
60 / 134
王子様と皇太子殿下 4

青年、皇太子に大事な話をする

しおりを挟む
ロウさんとエース様に断りを入れて、おれはカラス君と2人になった。
眷属おれたちのこと教えたら、カラス君もなりたくなるかもしれないと思ったから。

「カラス君、あのね。
 この国には、眷属って呼ばれる人たちがいるんだ」
「うん」
「先生と、助手のユーゴさんもそうだし、ロウさんも…エース様も」
「うん」
「でね、眷属っていうのは、不思議な力が使えるんだ。
 変身できたり、空を飛んだり…死ななかったり。
 あ、おれもね、ちょっとだけ変身できるようになったんだ、ロウさんに比べたら全然なんだけどさ。
 でね、カラス君の命もね、先生がその不思議な力で治してくれたんだよ。
 …すごいよね。」
「うん」

おれは説明を続けた。
うまく説明できるかわからないけど、カラス君なら、頭がいいし分かってくれると思って。

「眷属はね、歳もとらないし、死なないの。
 寿命もなくて、ユーゴさんとエース様は300年以上、ロウさんは2000年以上、先生はね…この世界ができた時から、生きてるんだって」
「うん」
「でね、おれ、縁があって…ロウさんと出会って、ロウさんのこと好きになって。
 ロウさんもおれのこと好きになってくれてて。
 …それでね、この前の戦のときね、エース様に右肩からこう、左の腰くらいまで、切られたの」
「うん」
「それで、死にかけたの…だけど、ロウさんが、眷属にしてくれて…助かったの。」
「うん」
「偶然お互い好き同士で、一緒にいたいって思ってたから、良かったけど。
 でも、眷属になる前に、確かめあったわけじゃなくて、眷属になったあとに、分かったんだ。
 おれたち惹かれ合ってたって。
 お互い…恋人になりたいって、思ってたって」
「うん」
「すごく、運がいいよね。
 生き延びられて、そのうえ好きな人と一緒にずっと、いられるんだもん。
 どっちかが死んで、寂しい想いもしなくていいんだもん」
「…うん。」

カラス君は、頷きながら聞いてくれる。
うん、うん、って、子どもみたいに。
年相応…見た目相応っていう感じ。

「でもね、望まないのに眷属になったら、不幸だよねって、先生が言うんだ。
 先生は、ユーゴさんや、エース様を眷属にしたとき、他にも何人か一緒に巻き込んでしまって、眷属になった子どもたちは人間でなくなってしまうし、大変だったんだって。
 みんなに謝って、みんなは笑って許してくれたんだって、だけど、すごく、後悔してて。
 いつかその人たちが、人間に戻りたくなったときには元に戻せるようになろうって、体のこと研究して、色々特訓して…今みたいに人の怪我とか直せるようになったんだって」
「そうなんだ…」

ここから。ここからが大事だから、
言葉を選んで、話す。

「だからね、その。カラス君はさ。
 眷属って、どう思う?
 なりたいなって思う?
 なってもいいなって思う?
 ……それとも、
 なりたくないって思う?」

カラス君は、目を閉じて、考える。
どんなふうに、考えてるのかな。

「…歳を、取らなくなるの?」
「そうだよ」
「今のままの姿で、ずっと生きていくの?」
「変身したりもできるけど…普段は、そうだよ」

カラス君は、真っ赤になって俯く。
ちっちゃな声で、呟く。

「…ぼく、いまは、やだな」
「今は?何で?」
「…だってさ、いまのままじゃ…ちび、だし」
「うん」
「ぼく、ちゃんと、22さいのからだに、なりたい」
「うん」
「さっき、ちょっとせがのびた…って」
「うん」
「ソラくんとおなじ、せの、たかさに、なりたい、ユーゴさん、は、むりでも」
「…そっか」

真っ赤な顔で俯いたまま、カラス君はぎゅっと膝を抱え込んで、小さくなった。

「エース、どのが、ね、はんりょにならないかって、いうんだ、だけど、ね」
「うん」
「ぼくのことすきだから、いうのか、でも、そのすきって、その、ちびで、こどもみたいな、このからだが、すきなのかなって、それで」
「うん」

カラス君は少し、涙声になって、続ける。

「ぼく、はんりょのことくらい、わかるよ。
 おたがいすきで、はんりょになるひとたちもたくさんいるって、しってる、でも、ちがう、おうぞくは、ちがう」
「うん」
「それに、ぼく、ふつうじゃない、わかってる。
 しのようせいって、よばれてるのもしってる」
「うん」
「あんな、いっぱい…っ、……して、へいき、ふつう、じゃ、ない、の、しってるっ…」
「…うん」
「いつまでも、ちびなの、おかしいのも」
「うん」
「ぼく、けんぞく、なるの、このすがたで、しなないからだになるの、やだ。
 だって。
 どんなひどいこと、されても、しなない、なら、もっともっとひどいこと、させられる、から。
 あのね、ぼく、まだ、せいし、でないの。
 でないのは、まんぞく、して、ないからだって、その、たくさんの、ひとに、よってたかって、…された、ことが、あって、それが、それが、」

カラス君は、とうとう、泣いてしまった。
おれはそっと背中をさすった。
カラス君は、しばらく、ぎゅっと目をつぶって、鼻をすすって目を擦って、涙を止めて、言った。

「ほんとは、あのとき、しねば、よかった、うまれて、きたから、いけないの、かあさんも、ぼくが、いなかったら、きっと、いきてられた、のに」

「…カラス君…」

「ね、そらくん。あのとき、ころしてって、
 ……ぼくのこと、ころしてって、いみなの」

「…そう、だったんだ?」

「……しってた、よね」

「…うん…。」

「じゃあ、なんで」

おれは、叫んだ。殺せるわけないだろ、だって。

「おれの!大切な!友だちだから!」

「…そらくん、」

「死なせたくなかった!
 一緒にいれば、また笑える!
 いっぱい、笑えるように、みんなみんな、頑張ったんだ、カラス君のこと、傷つけたり、傷つけようとするやつのほうが、いなくなればいいんだ!

 おれはカラス君に少しでも長く生きて欲しくて。
 できればもっと長く…永遠に、生きて欲しくて。
 一緒に楽しいこと、たくさんしたくて。
 それには、あいつらが邪魔だから、

 だから、

 ……だから、ね。

    ……皆殺しに、した。」


「……ころした…、の?」

「うん、せめて天国へいけるようにね、悪いトコロを切り落としてあげてから、殺したから」
「悪い…ところ?」
「あいつら、サオとタマが全て悪いんですって、言うからさ。だから、悪いとこ取ってあげたら、いいとこだけになって、天国へいけるかなって」
「そっか」

本当は、カラス君が辛かったぶん、あいつらが苦しめばいいと思ったから、だけど。
おれもみんなも、地獄に堕ちろとしか思ってないけど、カラス君は優しいから……さ。
まあ、ケツの穴から頭の天辺まで、ぶっとい木の串をねじ込んでやったから、だいぶんじゃないかと思ってる。

「天国に、いけたんなら、いいね」

トーリがこの戦に決着をつけようとしたら、どっちにしろ彼らは死ぬ運命だったろうから…と、カラス君は言って、それから

「……ありがと」

と言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...