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王子様と皇太子殿下 3
北の猟犬が「やつら」を殺す理由
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あれは、北の辺境からほど近い小国へ、遠征したときのことだった。
遠征3日目…そろそろ会敵するかも、というその夜に、軍議に呼び出された殿下が、ソラに抱えられながらふらふらした足取りで帰ってきて、倒れた。
酷い有様だ。
嗅ぎなれた、男くさい臭い…
はっきり言えば、精液、の匂いが、した。
「あいつら、何しやがった!」
許さねえ…
許さねえ!
俺はブチ切れそうになりながら、ソラと一緒に殿下を抱え、軍医殿のいる馬車へ殿下を運んだ。
軍医殿は、殿下の尻の具合を確かめ…そこに薬を塗った。殿下の体が、強張る。
「…………っ」
俺は、殿下の体をこれでもか、と拭いた。
きれいになれ、きれいになれと念じた。
ソラは、殿下のそばに座り、動かなかった。
寝息もたてず眠っていた殿下が、急にうなされ始めた。俺は慌てて殿下の手を握った。
ソラが、殿下の頭を撫でた。撫でながら、大丈夫、大丈夫と小さな声で繰り返した。
「ころして…」
殿下が小さな声で、懇願するように言った。
「何を言うんですか…!殺すなんて、そんな」
だが、殿下はまた、
「ころして」
と言った。
そうしたらソラが言った。
「分かった、殺すね」
と。
俺は驚いて、ソラを見た。
ソラはひどく優しい顔をしていた。
ソラの言葉を聞いた殿下は、「ありがと」といって、またスヤスヤと眠り始めた。
殿下が落ち着いたのを見て、俺はソラを馬車から引っ張り出した。
そして言った。
「殺すなんて…何言ってんだ!」
「あんたこそ何を聞いてたんだ」
「はあ!?」
「カラス君はころして、って、言った。
つまりそれは、カラス君をあんな目に合わせたやつらをころしてっていうことだろ」
「……お前」
絶対違う…と思った。
でもソラが纏う怒りに、反論できなかった。
ソラは言った。
「そろそろ会敵だっていうなら、夜襲のひとつもあっていいんじゃないの?
それに、戦になりゃ、どっかから矢が飛んできて偶然ココに刺さることもあるだろうしな」
そういって、ソラはトントン、と指で俺の眉間を叩いた。
「…ソラ、お前、弓使えたっけ」
「当たり前だろ。騎馬民族、舐めんな」
…確かに、弓の訓練を特別やらなくても、こいつは狩りが得意なんだった、と思い立つ。
「おれはあいつらを殺す。
糞みたいな作戦しか立てられない糞が土に還ったとこで何か問題があるか?
カラス君の言うことを聞いてれば誰でも勝てる。
勝てば、皇帝陛下もさぞお喜びになるだろうよ」
「お前、」
「あんたはどうする?」
ソラからの問いに、息を飲む。
俺は…そうだな。
「俺も…、あいつらを殺す」
ソラはニヤリと笑った。
鬼神の笑みだった。
「あいつらを殺す。
あいつらを庇うならそいつも殺す。
…カラス君に、バレないように、な。」
そう言って、ソラは俺を連れて闇に消えた。
そして。
その夜が明ける前、
偶然にも夜襲があり、
偶然にも大将とその取り巻きが死んだ。
偶然にも指揮官は、殿下とあと一人を残して、死んだ。
ソラの言葉は、仲間たちの間ですぐに広まった。
みんなの出した結論も…
「殿下には内緒で、あいつらを殺す」
……だった。
遠征3日目…そろそろ会敵するかも、というその夜に、軍議に呼び出された殿下が、ソラに抱えられながらふらふらした足取りで帰ってきて、倒れた。
酷い有様だ。
嗅ぎなれた、男くさい臭い…
はっきり言えば、精液、の匂いが、した。
「あいつら、何しやがった!」
許さねえ…
許さねえ!
俺はブチ切れそうになりながら、ソラと一緒に殿下を抱え、軍医殿のいる馬車へ殿下を運んだ。
軍医殿は、殿下の尻の具合を確かめ…そこに薬を塗った。殿下の体が、強張る。
「…………っ」
俺は、殿下の体をこれでもか、と拭いた。
きれいになれ、きれいになれと念じた。
ソラは、殿下のそばに座り、動かなかった。
寝息もたてず眠っていた殿下が、急にうなされ始めた。俺は慌てて殿下の手を握った。
ソラが、殿下の頭を撫でた。撫でながら、大丈夫、大丈夫と小さな声で繰り返した。
「ころして…」
殿下が小さな声で、懇願するように言った。
「何を言うんですか…!殺すなんて、そんな」
だが、殿下はまた、
「ころして」
と言った。
そうしたらソラが言った。
「分かった、殺すね」
と。
俺は驚いて、ソラを見た。
ソラはひどく優しい顔をしていた。
ソラの言葉を聞いた殿下は、「ありがと」といって、またスヤスヤと眠り始めた。
殿下が落ち着いたのを見て、俺はソラを馬車から引っ張り出した。
そして言った。
「殺すなんて…何言ってんだ!」
「あんたこそ何を聞いてたんだ」
「はあ!?」
「カラス君はころして、って、言った。
つまりそれは、カラス君をあんな目に合わせたやつらをころしてっていうことだろ」
「……お前」
絶対違う…と思った。
でもソラが纏う怒りに、反論できなかった。
ソラは言った。
「そろそろ会敵だっていうなら、夜襲のひとつもあっていいんじゃないの?
それに、戦になりゃ、どっかから矢が飛んできて偶然ココに刺さることもあるだろうしな」
そういって、ソラはトントン、と指で俺の眉間を叩いた。
「…ソラ、お前、弓使えたっけ」
「当たり前だろ。騎馬民族、舐めんな」
…確かに、弓の訓練を特別やらなくても、こいつは狩りが得意なんだった、と思い立つ。
「おれはあいつらを殺す。
糞みたいな作戦しか立てられない糞が土に還ったとこで何か問題があるか?
カラス君の言うことを聞いてれば誰でも勝てる。
勝てば、皇帝陛下もさぞお喜びになるだろうよ」
「お前、」
「あんたはどうする?」
ソラからの問いに、息を飲む。
俺は…そうだな。
「俺も…、あいつらを殺す」
ソラはニヤリと笑った。
鬼神の笑みだった。
「あいつらを殺す。
あいつらを庇うならそいつも殺す。
…カラス君に、バレないように、な。」
そう言って、ソラは俺を連れて闇に消えた。
そして。
その夜が明ける前、
偶然にも夜襲があり、
偶然にも大将とその取り巻きが死んだ。
偶然にも指揮官は、殿下とあと一人を残して、死んだ。
ソラの言葉は、仲間たちの間ですぐに広まった。
みんなの出した結論も…
「殿下には内緒で、あいつらを殺す」
……だった。
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