【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

文字の大きさ
上 下
52 / 134
王子様と皇太子殿下 3

北の猟犬が「やつら」を殺す理由

しおりを挟む
あれは、北の辺境からほど近い小国へ、遠征したときのことだった。

遠征3日目…そろそろ会敵するかも、というその夜に、軍議に呼び出された殿下が、ソラに抱えられながらふらふらした足取りで帰ってきて、倒れた。

酷い有様だ。
嗅ぎなれた、男くさい臭い…
はっきり言えば、精液、の匂いが、した。

「あいつら、何しやがった!」

許さねえ…
許さねえ!

俺はブチ切れそうになりながら、ソラと一緒に殿下を抱え、軍医殿のいる馬車へ殿下を運んだ。
軍医殿は、殿下の尻の具合を確かめ…そこに薬を塗った。殿下の体が、強張る。

「…………っ」

俺は、殿下の体をこれでもか、と拭いた。

きれいになれ、きれいになれと念じた。

ソラは、殿下のそばに座り、動かなかった。

寝息もたてず眠っていた殿下が、急にうなされ始めた。俺は慌てて殿下の手を握った。

ソラが、殿下の頭を撫でた。撫でながら、大丈夫、大丈夫と小さな声で繰り返した。

「ころして…」

殿下が小さな声で、懇願するように言った。

「何を言うんですか…!殺すなんて、そんな」

だが、殿下はまた、

「ころして」

と言った。

そうしたらソラが言った。

「分かった、殺すね」

と。

俺は驚いて、ソラを見た。

ソラはひどく優しい顔をしていた。

ソラの言葉を聞いた殿下は、「ありがと」といって、またスヤスヤと眠り始めた。




殿下が落ち着いたのを見て、俺はソラを馬車から引っ張り出した。
そして言った。

「殺すなんて…何言ってんだ!」
「あんたこそ何を聞いてたんだ」
「はあ!?」
「カラス君はころして、って、言った。
 つまりそれは、カラス君をあんな目に合わせたやつらをころしてっていうことだろ」
「……お前」

絶対違う…と思った。
でもソラが纏う怒りに、反論できなかった。

ソラは言った。

「そろそろ会敵だっていうなら、夜襲のひとつもあっていいんじゃないの?
 それに、戦になりゃ、どっかから矢が飛んできて偶然ココに刺さることもあるだろうしな」

そういって、ソラはトントン、と指で俺の眉間を叩いた。

「…ソラ、お前、弓使えたっけ」
「当たり前だろ。騎馬民族、舐めんな」

…確かに、弓の訓練を特別やらなくても、こいつは狩りが得意なんだった、と思い立つ。

「おれはあいつらを殺す。
 糞みたいな作戦しか立てられない糞が土に還ったとこで何か問題があるか?
 カラス君の言うことを聞いてれば誰でも勝てる。
 勝てば、皇帝陛下もさぞお喜びになるだろうよ」

「お前、」
「あんたはどうする?」

ソラからの問いに、息を飲む。
俺は…そうだな。

「俺も…、あいつらを殺す」

ソラはニヤリと笑った。
鬼神の笑みだった。

「あいつらを殺す。
 あいつらを庇うならそいつも殺す。
 …カラス君に、バレないように、な。」

そう言って、ソラは俺を連れて闇に消えた。

そして。

その夜が明ける前、
夜襲があり、
大将とその取り巻きが死んだ。

指揮官は、殿下とあと一人を残して、死んだ。


ソラの言葉は、仲間たちの間ですぐに広まった。
みんなの出した結論も…

「殿下には内緒で、あいつらを殺す」

……だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...