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王子様と皇太子殿下 3
王子様は皇太子殿下を諦めない
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儂はクロエが目覚めてから2度目の見舞いに訪れた。
1回目は惨敗じゃったが、今回は勝算がある。
必ずクロエの心を融かして見せる……
いや、融かさねばならぬ。
儂は緊張しながら病室の扉を開け、声をかける。
「クロエ、調子はどうかの?」
「は、お陰様で、とても良くして頂いております」
固い表情で、それでも堂々と返答するクロエ。
きっと頭の中では色々と考えとるのじゃろうが…
「そろそろ、義足でも誂えるかのぅ?」
「……いえ、対価をお支払いできませんし、そこまでして頂かなくても結構でございます」
よく見ると目が少し腫れて赤くなっておる。
怖い夢でも見たんかの……
前の会話の内容を思い出したのかもしれんな。
しかし、今日はそんな事はもう言わぬ。
「そのくらい、後払いでかまわん」
「それは……どういうことでしょうか」
儂は、ここでこの前と全く違う内容の話をする。
「義足があれば、ここで働くことも出来よう?」
「……はっ…、あ?」
昨日、鬼神のやつと一緒に考えた作戦。
それは、クロエに学園で仕事をさせること、だ。
いきなり「儂の側に仕えろ」というと勘違いをして更に心を閉ざすだろうということだが……
儂はクロエの中でどういう人間なんじゃろうか?
そんな非道い事をする人間だと思わせるようなことは1つもしとらんと思うのに……。
しかし、作戦はどうやら功を奏したらしい。
作られた表情が、少し自然なものへ変わった。
「どういう、ことでしょうか」
「クロエは賢い、たくさんの知識も経験もある。
特に領主としての様々な経験は得難いものじゃ。
だからここでトーリの為に働いてもらう。
今までの知識と経験を活かしてな。
この学園の長は、お前が大事に読んでおった農作物の育成についての本を書いた者なんじゃが……」
「そうなのですか!?」
「うむ、後で面接するよう申し付けてある」
「お会いできるのですか!?」
ここは先生の名前を借りてでも距離を縮める。
格好良くはないかもしれんが良いのだ。
クロエは驚きで顔を取り繕えなくなったらしい。
見た目相応に、頬を少し染めて興奮したように言う。
「一度お会いして、お話をしたいと、ずっと…」
「いや、もう会っておるぞ?
お前の怪我を診ておるあの先生じゃからの」
「えっ!」
ふふ、ついに素が出たの。
びっくりして見た目相応の顔になったわい。
「先生と一度話して貰わねば、どの仕事に付くかは分からぬが、優秀なものなら必ず仕事がある場所じゃ。
人を教えるでも、研究するでも、な」
「はい…お心遣い、ありがとうございます」
「じゃから、はよう元気にならねばの!
……ところでクロエ、甘いものは好きか?」
「はい」
「それは良かった」
儂は袋から、花束を模した、色とりどりの可愛い棒つき飴の束を出して、クロエに渡す。
「これをこうやって瓶に挿しておいて、食べたい時に食べられる…いいじゃろ?」
「……はい、とても……」
…クロエの目が飴に釘付けになる。
北の猟犬どもの情報通りじゃ。
クロエは甘い物と可愛いものが好き……
はあ……
愛い……。
はっ、いかん、ぼうっとしておっては。
「では、義足の件は技師に伝えておくからの」
「あの!」
去り際の儂に、クロエが呼びかける。
儂を引き留めようとしてくれるとは……!
じゃが、ここは嬉しさを押し込めて平静に…。
「何じゃ?」
「私には、右手も、右目も、右耳もありません。義足があればお役に立てる、とは思えません…」
クロエの言葉に、儂は気を引き締める。
今のはクロエの本心。
返し方を間違えば、また心を閉ざしてしまう。
儂は数多考えてきた言葉から選び、言う。
「…左手も、左目も、左耳もあるじゃろ?
お前ほどの者をその程度のことで腐らせておくほど、この国は人材に溢れておらん」
「え…?」
愛だとか恋だとかの感情ではなく、理屈。
感情を切り捨てて考える事ばかりしてきたクロエを納得させるには、理屈がいるのだと…
鬼神の受け売りじゃがの。
「学問に、国境はない。
先生の本が、帝国の北の辺境で役立ったように」
「はい…」
「ここの学園では、生まれも何も関係ない。
知る者が知らぬ者に教え、誰も知らぬことは研究し、知ろうとするものが共に競い合う。
見方によっては厳しいが、自由とも言えるな」
「…良い場所が、あるのですね、ここには」
「……じゃろ?」
作ったのは儂じゃぞーと、言いたいが、我慢。
自分を売り込むのは禁止…
これも鬼神からの受け売り。
そして、ここからが大一番……!
「今から学園の畑でも、見学がてら見に行くか?」
「はい、是非!
あっ……自分の動ける範囲で、構いませんので」
「うむ、下に車のついた椅子があるからの、それに乗ってみると良い。
気に入ればこの部屋でも使えるように計らうから、遠慮なく言うてくれ」
「はい…ありがとうございます」
おお、久しぶりに笑うた顔を見た!
後は、車のついた椅子を儂に押させてくれるか…
勝負じゃ……!
1回目は惨敗じゃったが、今回は勝算がある。
必ずクロエの心を融かして見せる……
いや、融かさねばならぬ。
儂は緊張しながら病室の扉を開け、声をかける。
「クロエ、調子はどうかの?」
「は、お陰様で、とても良くして頂いております」
固い表情で、それでも堂々と返答するクロエ。
きっと頭の中では色々と考えとるのじゃろうが…
「そろそろ、義足でも誂えるかのぅ?」
「……いえ、対価をお支払いできませんし、そこまでして頂かなくても結構でございます」
よく見ると目が少し腫れて赤くなっておる。
怖い夢でも見たんかの……
前の会話の内容を思い出したのかもしれんな。
しかし、今日はそんな事はもう言わぬ。
「そのくらい、後払いでかまわん」
「それは……どういうことでしょうか」
儂は、ここでこの前と全く違う内容の話をする。
「義足があれば、ここで働くことも出来よう?」
「……はっ…、あ?」
昨日、鬼神のやつと一緒に考えた作戦。
それは、クロエに学園で仕事をさせること、だ。
いきなり「儂の側に仕えろ」というと勘違いをして更に心を閉ざすだろうということだが……
儂はクロエの中でどういう人間なんじゃろうか?
そんな非道い事をする人間だと思わせるようなことは1つもしとらんと思うのに……。
しかし、作戦はどうやら功を奏したらしい。
作られた表情が、少し自然なものへ変わった。
「どういう、ことでしょうか」
「クロエは賢い、たくさんの知識も経験もある。
特に領主としての様々な経験は得難いものじゃ。
だからここでトーリの為に働いてもらう。
今までの知識と経験を活かしてな。
この学園の長は、お前が大事に読んでおった農作物の育成についての本を書いた者なんじゃが……」
「そうなのですか!?」
「うむ、後で面接するよう申し付けてある」
「お会いできるのですか!?」
ここは先生の名前を借りてでも距離を縮める。
格好良くはないかもしれんが良いのだ。
クロエは驚きで顔を取り繕えなくなったらしい。
見た目相応に、頬を少し染めて興奮したように言う。
「一度お会いして、お話をしたいと、ずっと…」
「いや、もう会っておるぞ?
お前の怪我を診ておるあの先生じゃからの」
「えっ!」
ふふ、ついに素が出たの。
びっくりして見た目相応の顔になったわい。
「先生と一度話して貰わねば、どの仕事に付くかは分からぬが、優秀なものなら必ず仕事がある場所じゃ。
人を教えるでも、研究するでも、な」
「はい…お心遣い、ありがとうございます」
「じゃから、はよう元気にならねばの!
……ところでクロエ、甘いものは好きか?」
「はい」
「それは良かった」
儂は袋から、花束を模した、色とりどりの可愛い棒つき飴の束を出して、クロエに渡す。
「これをこうやって瓶に挿しておいて、食べたい時に食べられる…いいじゃろ?」
「……はい、とても……」
…クロエの目が飴に釘付けになる。
北の猟犬どもの情報通りじゃ。
クロエは甘い物と可愛いものが好き……
はあ……
愛い……。
はっ、いかん、ぼうっとしておっては。
「では、義足の件は技師に伝えておくからの」
「あの!」
去り際の儂に、クロエが呼びかける。
儂を引き留めようとしてくれるとは……!
じゃが、ここは嬉しさを押し込めて平静に…。
「何じゃ?」
「私には、右手も、右目も、右耳もありません。義足があればお役に立てる、とは思えません…」
クロエの言葉に、儂は気を引き締める。
今のはクロエの本心。
返し方を間違えば、また心を閉ざしてしまう。
儂は数多考えてきた言葉から選び、言う。
「…左手も、左目も、左耳もあるじゃろ?
お前ほどの者をその程度のことで腐らせておくほど、この国は人材に溢れておらん」
「え…?」
愛だとか恋だとかの感情ではなく、理屈。
感情を切り捨てて考える事ばかりしてきたクロエを納得させるには、理屈がいるのだと…
鬼神の受け売りじゃがの。
「学問に、国境はない。
先生の本が、帝国の北の辺境で役立ったように」
「はい…」
「ここの学園では、生まれも何も関係ない。
知る者が知らぬ者に教え、誰も知らぬことは研究し、知ろうとするものが共に競い合う。
見方によっては厳しいが、自由とも言えるな」
「…良い場所が、あるのですね、ここには」
「……じゃろ?」
作ったのは儂じゃぞーと、言いたいが、我慢。
自分を売り込むのは禁止…
これも鬼神からの受け売り。
そして、ここからが大一番……!
「今から学園の畑でも、見学がてら見に行くか?」
「はい、是非!
あっ……自分の動ける範囲で、構いませんので」
「うむ、下に車のついた椅子があるからの、それに乗ってみると良い。
気に入ればこの部屋でも使えるように計らうから、遠慮なく言うてくれ」
「はい…ありがとうございます」
おお、久しぶりに笑うた顔を見た!
後は、車のついた椅子を儂に押させてくれるか…
勝負じゃ……!
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