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王子様と皇太子殿下 2
王子、病室で皇太子と会談
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病室の扉を叩くと、透き通るような声で返事がある。
「はい」
扉をそっと開ける。
するとベッドの上で上半身を起こしていたクロエが、こちらを見て頭を下げた。
儂はベッドへと近づき、声を掛けた。
「頭を上げられよ、クロエ殿」
「はい、ありがとうございます」
そう言って顔を上げ、儂を見た。
短く整えられた白金の髪に、新緑の瞳…
右側が無惨に損なわれてはいるが、その愛らしさはあの時と変わりなくそこにあった。
「久しいの…儂のことは覚えておられるか」
「はい、よく覚えております、殿下」
おお、なんと、覚えていてくれたとは!
儂が第3王子としてクロエと会ったのは1度きりじゃというのに…やはり聡い子じゃ。
「儂のことはエース、と呼んでくれ。…その、儂も貴方をクロエ…と呼んで、良いか?」
「はい、エース殿下」
むう、「殿下」はいらんのだが。
しかしここで焦るのも、大人げないかの…
こういうことは時間がかかるもんじゃからの。
「クロエは、儂に話があると聞いたが?」
「はい、この度の戦について、ですが」
責任を取って死ぬなどとは言わせぬ。
儂は考えに考えた台詞を、クロエから「死ぬ」という言葉が出ぬように続ける。
「ああ、どちらも王国が勝たせてもらった。
このトーリ王国は、帝国が今後もいかように戦を仕掛けてきたとて、決して揺らがぬ盤石な国家であると証明できたと思うておる。…クロエは、どうじゃ」
「はい、そのように思います。」
儂は、あの子の左手を取り、強く握った。
思いが伝わるように、祈りながら…
「儂は、お前を、あの腐った国から守ってやれる」
「は…?」
「この国にいる限り、二度とお前を…あのような、あのような目に、合わせないと誓う。
奴らがお前を害そうとするなら全力で叩き潰す」
「……殿下、何のお話を?」
「クロエ、儂の伴侶に、なってくれんか…?」
儂はクロエの左目を見る。
クロエの左目も儂を見る。
長い沈黙があり、あの子から出た言葉は…
「王家の方が子を成せぬものと伴侶になることは、貴国にとっては損失でしょう。」
実によく使われる、お断りの文言で…
儂は焦って、よく考えずに言ってしまった。
「子が成せぬことが良い事もある」
するとあの子は表情一つ変えずに言う。
「ならば愛人か、お望みならば生きた性具としてでもお仕え致しましょう。伴侶には子を成せる方をお選びください」
儂は更に焦る。
「違う、そういうことではない!」
クロエは儂に返して言う。
「違いません、殿下。
それに、先程のお言葉、取り様によりましては殿下がこの国の軍部を私情で動かす可能性を示唆しているようにも聞こえます。
このような誰が聞き耳を立てているか分からないような場所で、今後あのような発言はされませんようご忠告申し上げます。
…そして、このご忠告が気に触るようでしたら、何なりと私に罰をお与え下さい、鞭打ちでも、斬首でも、閨での御奉仕でも、何でも」
何を馬鹿なことを!
儂はそんな人間ではない!
怒りと悲しみで、儂は反論する。
「…っ、そんなことは、せぬ!」
そういうと、あの子は「作りものの」笑顔で、
言った。
「聡明なトーリ王国第3王子殿下であらせられますれば、私のような者の進言も聞いていただけると思っておりました」
あんなに考えた台詞なのに…
こんな風に返されるなど、予想して無かった。
「クロエ、儂は」
「第3王子殿下。
私がお目通りをお願いしたのは、私の部下へのお慈悲を頂きたいと思ったからです。
私を慕ってここまできてしまった彼らを、どうか北の領地へそのまま返してやって頂けませんか。」
……最初から、それだけを言うために?
……そうかもしれん。彼は自身の体を賭けて、儂との交渉に臨み、そして自分の要求を儂に飲ませようとしているのだ。
儂の気持ちを利用して…。
見誤ったな、この子を。
「……彼らが望むなら、そのように計らおう」
「ありがとうございます」
そうして、あの子は続けた。
「代わりにこの身は、殿下に差し上げます。
死ぬより過酷な目に合うとしても受け入れると、助手殿にもお伝えした通りでございます。
何なりとお命じ下さい、ご主人様」
許容と見せかけた強烈な拒絶の言葉。
言葉通りに受け取ってその身を抱けば、二度とクロエを手にすることは叶わぬと……
はっきり分かるほどの拒絶。
もう、何もいうことができなくなった儂は、今は静養し体を労れ、とだけ命じて、部屋を出た。
「はい」
扉をそっと開ける。
するとベッドの上で上半身を起こしていたクロエが、こちらを見て頭を下げた。
儂はベッドへと近づき、声を掛けた。
「頭を上げられよ、クロエ殿」
「はい、ありがとうございます」
そう言って顔を上げ、儂を見た。
短く整えられた白金の髪に、新緑の瞳…
右側が無惨に損なわれてはいるが、その愛らしさはあの時と変わりなくそこにあった。
「久しいの…儂のことは覚えておられるか」
「はい、よく覚えております、殿下」
おお、なんと、覚えていてくれたとは!
儂が第3王子としてクロエと会ったのは1度きりじゃというのに…やはり聡い子じゃ。
「儂のことはエース、と呼んでくれ。…その、儂も貴方をクロエ…と呼んで、良いか?」
「はい、エース殿下」
むう、「殿下」はいらんのだが。
しかしここで焦るのも、大人げないかの…
こういうことは時間がかかるもんじゃからの。
「クロエは、儂に話があると聞いたが?」
「はい、この度の戦について、ですが」
責任を取って死ぬなどとは言わせぬ。
儂は考えに考えた台詞を、クロエから「死ぬ」という言葉が出ぬように続ける。
「ああ、どちらも王国が勝たせてもらった。
このトーリ王国は、帝国が今後もいかように戦を仕掛けてきたとて、決して揺らがぬ盤石な国家であると証明できたと思うておる。…クロエは、どうじゃ」
「はい、そのように思います。」
儂は、あの子の左手を取り、強く握った。
思いが伝わるように、祈りながら…
「儂は、お前を、あの腐った国から守ってやれる」
「は…?」
「この国にいる限り、二度とお前を…あのような、あのような目に、合わせないと誓う。
奴らがお前を害そうとするなら全力で叩き潰す」
「……殿下、何のお話を?」
「クロエ、儂の伴侶に、なってくれんか…?」
儂はクロエの左目を見る。
クロエの左目も儂を見る。
長い沈黙があり、あの子から出た言葉は…
「王家の方が子を成せぬものと伴侶になることは、貴国にとっては損失でしょう。」
実によく使われる、お断りの文言で…
儂は焦って、よく考えずに言ってしまった。
「子が成せぬことが良い事もある」
するとあの子は表情一つ変えずに言う。
「ならば愛人か、お望みならば生きた性具としてでもお仕え致しましょう。伴侶には子を成せる方をお選びください」
儂は更に焦る。
「違う、そういうことではない!」
クロエは儂に返して言う。
「違いません、殿下。
それに、先程のお言葉、取り様によりましては殿下がこの国の軍部を私情で動かす可能性を示唆しているようにも聞こえます。
このような誰が聞き耳を立てているか分からないような場所で、今後あのような発言はされませんようご忠告申し上げます。
…そして、このご忠告が気に触るようでしたら、何なりと私に罰をお与え下さい、鞭打ちでも、斬首でも、閨での御奉仕でも、何でも」
何を馬鹿なことを!
儂はそんな人間ではない!
怒りと悲しみで、儂は反論する。
「…っ、そんなことは、せぬ!」
そういうと、あの子は「作りものの」笑顔で、
言った。
「聡明なトーリ王国第3王子殿下であらせられますれば、私のような者の進言も聞いていただけると思っておりました」
あんなに考えた台詞なのに…
こんな風に返されるなど、予想して無かった。
「クロエ、儂は」
「第3王子殿下。
私がお目通りをお願いしたのは、私の部下へのお慈悲を頂きたいと思ったからです。
私を慕ってここまできてしまった彼らを、どうか北の領地へそのまま返してやって頂けませんか。」
……最初から、それだけを言うために?
……そうかもしれん。彼は自身の体を賭けて、儂との交渉に臨み、そして自分の要求を儂に飲ませようとしているのだ。
儂の気持ちを利用して…。
見誤ったな、この子を。
「……彼らが望むなら、そのように計らおう」
「ありがとうございます」
そうして、あの子は続けた。
「代わりにこの身は、殿下に差し上げます。
死ぬより過酷な目に合うとしても受け入れると、助手殿にもお伝えした通りでございます。
何なりとお命じ下さい、ご主人様」
許容と見せかけた強烈な拒絶の言葉。
言葉通りに受け取ってその身を抱けば、二度とクロエを手にすることは叶わぬと……
はっきり分かるほどの拒絶。
もう、何もいうことができなくなった儂は、今は静養し体を労れ、とだけ命じて、部屋を出た。
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