【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

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プロローグ

【1回目の戦】1

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帝国軍に同行する第2皇太子は、気づいた。

最初の砦の攻略、あまりにも簡単ではないか?

国境警備隊に宣戦布告の書状を渡しただけで、蜘蛛の子を散らすように敵が逃げてしまい、あっさりと無傷でこの国へ入った。

あまりに違和感がある。

「これは、罠だ。国境手前へ引き返し、別の作戦を考えたほうが良い」

この戦で全軍の指揮を任されている大将に、そう進言してみると、

「これはこれは殿下。
 もしかして臆病風に吹かれておいでですかな?
 それはいけない。
 私がその臆病を鎮めて差し上げましょう」

などと言って、天幕の中でそのまま犯され、

「トーリ王国は、全てにおいて劣っている。
 赤子の手をひねるが如し。
 すぐに手に入れてご覧に入れましょう」

などというあまりにひどい報告書を突っぱねたら、生意気な殿下にはお仕置きが必要だとかいってまた陵辱される。

2つ目の砦もあっさりと陥落し、
逃げる兵を追った先で3つ目の砦も落ち、
さらに逃げる兵を追いかけ…

の繰り返しで、いつの間にか隊列は長く細くなった。

彼は、何か進言する度に、大将やその取り巻きに嬲られ、その度に精神が削れていく。
「陵辱の傷は、一晩寝れば治る」彼も、心まではそうもいかない。
勝手についてきた部下が「今回はあいつらを殺すタイミングがない」などと物騒なことを言っており、そのことが唯一、自分の心根を支えていた。



だが彼は、ついに心の支えだった部下に命令した。

「最初の砦の様子を見てきてもらいたい」

彼らを敵の王城から、遠ざける為だ。

<どう考えても、十中八九、罠>

<我軍が意気揚々と乗り込んだと見るや、隠れていた兵たちで王城を取り囲み、逆にこちらが兵糧攻めに遭う……ということも充分考えられる話だ>

と、よく回る頭で考える。


しかし、それを進言することはもう無かった。

あんな戦を知らない者たちなど、剣を交えればすぐに倒せるに違いないはずなのに、気づけば逆らえなくなっていた。

「彼らをこんな情けない自分に付き合わせて、命を落とさせるなんて、出来ない」

……彼らの助けに報いるために、彼は自ら孤立した。

<ここで死ぬ>

そんなことは充分に分かっていて、だからこそ…
慕ってくれた者たちの安全を、優先した。



  =============


マルーン帝国軍が軍旗をかかげ、トーリ王国の王城へと入城する。

トーリ王国は「なすすべなく」帝国に城を明け渡し、全ての兵が城から逃げ出していた。

大将以下、下士官数名、騎士、およそ200。

6頭立ての堅牢な馬車の後に続き、兜を脱いだ騎士たちも、誇らしげに茶色の髪をなびかせ軍馬に跨がり城へ悠然と入っていく。

勝利を収めた興奮が覚めやらない中、慌てた様子で帝国国旗を持った兵士が走っていく。

全員が城門をくぐり、
先程の戦闘でめちゃくちゃにあれた城の庭を通り、
馬車は城の入口の前に止まった。

馬車から指揮官の声が聞こえる。

「城の中の敵兵は、全て排除できたか?」

一人の兵士が答える。

「もちろんでございます」

その言葉を聞いて、馬車の中から人が次々に降りる。
茶色の髪に混じって、深くフードを被らされた少年が曳き立てられるようにして降ろされる。

馬車の人物を先頭に、何人かが城の中へ入る。
騎士たちは馬を降り、庭へ規律良く並ぶ。

城のバルコニーから、この戦を「勝利に導いた」男が現れ、声高らかに演説する。

「マルーン帝国臣民諸君!
 君たちの素晴らしい働きにより、我々はこの戦を、
 早期に制し、かつ大勝利を収めた。
 我らがマルーン帝国に栄光あれ!
 この城は今より我軍の砦となり、トーリは西の辺境と呼ばれる帝国の領土となるだろう!」

「国旗を掲げよ!」


城の国旗が、王国から帝国のものに入れ替わる。
するすると一番高い場所へ帝国旗が掲げられると、
場の興奮が最高潮に達する。

騎士たちは勝鬨の声を上げ、国旗に向かって剣を掲げげ、大きな声で帝国を称える歌を歌う。

「我々の勝利だ!」
「帝国軍は世界最強なり!!」
「帝国に栄光あれ!」

その大きな声にかき消されて、そっと外側から城門が閉められた音に、気づくものは居なかった。
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