【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

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猟師と青年 1

青年、猟師に昔話をする

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今日も1日、よく働いた。
ロウさんが今日は樽に湯を張って、風呂を入れてくれたので、ご相伴にあずかることにする。

「いい湯っすね~。」
「いいでしょ?」

さすがに一緒に入れるサイズじゃないから、1人ずつだ。
ロウさんはさっさと先に入って新しい服に着替えて、横にいる。
見張ってくれてる、らしい。

というのも、ロウさんはおれのほうばっかり見て、話しかけてくるからだ。

「風呂に入ったのは、北にいた頃以来っすよ~」
「砦にお風呂ないの?」
「無いっす、水をかけるか拭くだけっす」

おれの親友でもある北の領主様は、みんなが病気をしないようにって大きな風呂を作って、みんなが安く入れるようにしてたから、おれたちは休みの日になると毎度そこへ行って、体をゴシゴシ洗ってた。
風呂上がりに飲む酒が美味くて、風呂の近くの酒場はいつも賑わってたな。

「風呂が北の辺境の名物って言われてるの、こっち来て知ったんす。あの頃は楽しかったなぁ」
「…今は楽しくないの?」
「髪の色とか目の色のせいで下に扱われることが多くなって、いつも一人だけ別に扱われてるんですもん」
「なにそれ!」
「明るい茶色の髪に青い目じゃないと、基本的には帝国臣民として扱われないんで…
 でも第2皇太子殿下は金色の髪に緑の目ですけどね」

親友で領主のカラス君…本当の名前はクロエって言うらしい…は、金色の髪に緑の目で、おれたちは「帝国人なのに、茶色の髪でも青い目でもないやつがいるんだな」なんて話してた。
そんなだから、カラス君が実は皇太子殿下だったって聞かされても、実感がなくて。

「へえー。第2皇太子を見たことあるんだ?」
「見たどころか、すごく仲良しだったっす」
「そうなの!?」
「東の部隊に入ったときからの付き合いだし…
 偽名も「カラス」って名乗ってたくらい黒が好きだったみたいで、おれらの髪とか目とかのこと何もいわないし」

それに、背中に焼印のあとがある人が、本当に皇太子なわけないって、ずっと思ってたし。
それこそここに来るまで、ずっと。

「それに北のみんなも、カラス君のこと大好きだったっすよ。
 領民のこと一生懸命考えてくれる領主様だったし」

おれがそう言うと、なぜか少しだけロウさんが不機嫌になった。
それから、ちょっと拗ねたように言った。

「ふーん。
 ソラ君も、その第2皇太子のこと、好きだったの?」
「そうですね、仲良かったし、戦場ではいつも隣同士で、背中預けるくらいの仲だったんで…」
「ふーん」
「立場が変わっても、ずっと友達だったし…今も、友達だと思ってるっす」
「友達…?
 それは、友達として、好きってこと?」
「そうですね」

すると、なぜかロウさんは機嫌を直して、

「…そっか!友達か!ならいいんだ!」

と言った。
それから、

「でもさ、皇太子の友達なのに、その…帝国臣民より下…って言うのさ、変…じゃない?」
「うーん、カラス君には皇位継承権が無いとか何とか…なんで、都合のいいときだけ皇太子扱いで、あとは貴族より下に見られてるっていうか…その…」

戦場で、一番上の立場になることは一度もなくて、それどころか指揮官の中でも下のほうで…その、酷いこともたくさんされてたの、知ってるし。

「…納得、いかないですけど。
 おれだけじゃなくて、北の仲間は、みんな、納得してなかったですけど。
 だから、おれたちだけでも、カラス君のこと大事にしようって…決めたんです。
 それに!おれの村の借金も、その他の村の借金も、全部肩代わりして払ってくれて!
 だから、みんなで恩返ししなきゃなって」

そう、辛い目にあってるぶん、楽しいことや嬉しいことをたくさんしてあげようって、そうやっておれたちは一致団結してたんだ。

「カラス君のしたいってことは、何でもしてやろう!って頑張ってたら、いつの間にかみんな食うのに困るようなことが無くなって、色んな店もできて、買い物もできるようになったんです」

カチカチの土を掘って、水路や溜め池を作ったり、井戸を掘ったり。
最初はそういうところから始めて、土に馬とか牛とかの糞を混ぜたり、タイヒ?とかいうのを作ってみたり。
カラス君はおれらの知らないことをたくさん知ってて、それをみんなに教えてくれた。

「カラス君は、物知りで、色んなこと「やりたい」って言って、おれらはカラス君の言うことただ聞いて働いて、そしたら、北の辺境が生まれ変わって、そういう感じだったから、カラス君の言うことに間違いはないって、みんな信じてました。
 戦場でも、それは変わらなくて、大将が何を言おうが、みんなカラス君の言うことだけ聞いてました。
 カラス君は、誰かのことを下に見ることも上に見ることもなくて、みんな、言いたいこと言えたし、よその軍隊みたいに、上長に『はい』だけしか言えないとか、そんなこともなくて、」

ああ、何でおれ、ここに来たんだろう。
あんなやつの言うこと聞かなきゃ良かった。

「…、すごい、たのしくて、」

そんなに昔のことじゃないのに、懐かしすぎて泣けてきた。

「なのに、急に、王命だとかって言って、おれだけ西の砦に異動させられて、」
「…」
「…おれも一人で、さみしいんです」

…ロウさんは、何も言わずに、おれの頭をなでてくれた。だから余計に涙がとまらなくて。

ロウさんはそんなおれを風呂から出して、大きな布で包んで、ぎゅっと抱きしめてくれた。
それから、慰めるみたいに、おでこにキスしてくれて、そうしたら、おれの涙も止まった。

その晩は、ロウさんの腕の中で、寝た。
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