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王子様と皇太子殿下 2
王子、国境の砦で、朗報を聞く
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2度目の戦があった次の日。
残務処理に疲れてウトウト舟を漕いでいた儂は、何かが執務室の窓を叩く音で目が覚めた。
「ん…あれは?」
近寄ると一匹のコウモリがそこにいた。
両翼を広げ、右へ左へ体を揺らして入れろと主張している…
「まさか、先生の使いか!?」
儂は急いで窓を開ける。
コウモリはパタパタと飛んで執務室の机に乗る。
先生の…使い魔?じゃったか、昼間にそれをわざわざ使うなど、何か急なことが有ったに違いない。
儂はコウモリに正面から話しかけた。
「先生、どうした」
するとコウモリから先生の声がする。
「エース!大変なことが起きたよ!!」
そう言うと、コウモリは一旦静かになった。
……先生は、良いことの報告やどうでもいい報告の前にこうやって気を持たせる癖がある。
多分悪い事ではなかろうと待っていると、コウモリから「じゃん!」の声の後に待ち侘びた吉報がもたらされた。
「何と!クロエくんが!目を!覚ましたよぉ~!」
「何!?」
「意識もしっかりしてるし、君に話があるって言ってるし、よかったら来れば?」
「わかった!」
こうしてはおれん、戦後の処理なぞ部下に任せて、今すぐあの子の元へ行かねば。
「あとは任せる!」
儂は急いで部屋を出て、階段を駆け下り、傷病兵の転がる広間を大股で歩く。すぐにでも飛んでゆかねば…と思うが、さすがに人目を気にせねばならぬからな。
そう、冷静にならねば…。
あの子に余裕のない大人だと思われとうないからの。
疾る気持ちを抑えながら外へ出ると、包帯でぐるぐる巻きにされた「鬼神」を抱えたロウと出会う。
「ああ、お前が騒いどったのは、それか」
「それ、じゃない!ソラ!」
「ちょっと深くいきすぎたのぉ…儂もまだまだよ」
「エースの馬鹿!」
鬼神の首筋を見ると、まだ噛み跡がない。
「…眷属になれば、傷もすぐに塞がる。術を使う場所なら執務室の左の部屋が空いておるからそこへ行け」
「うん…」
「なぁに、お前さんならきっと…成功する」
「…うん」
儂は、上手く出来なかったが…それは「条件」とやらのせいであるらしいし、ロウは儂よりずっと前から眷属をやっておるのだから、大丈夫じゃろ。
「………………」
いかん、自分で言うておいて落ち込むなぞ、
頼れる大人の姿ではなかろう。
砦を出ようとすると、追いついてきた部下が言う。
「殿下、どちらへ!?」
「長めの糞じゃ!来るなよ!」
急いで茂みの中へ体を隠す。
儂は体を黒い霧に変え、山へ向かう風に乗った。
「良い風じゃ、これならすぐにつく」
あの子が儂に話したい事…
どうせ戦の責任がどうのこうの言うんじゃろう。
「あーあ、戦の事より、儂を惚れさせた責任のほうを取ってくれんかのう…」
それにしても、「解除条件」か。
あの子を儂のものにする…か…難しいのう…。
もう、言ってしまおうか。
「儂のものになれ」と…。
…しかし、これでは「儂の奴隷になれ」と言うとるみたいに聞こえるかもしれんな。
「ああ、何て言えばいいんじゃろ……」
初めての恋でもあるまいに、儂ときたら、気の利いた事も言えぬではないか…。
ならばここはまっすぐ、
「ずっと前から好きだった」、とか
「おまえを愛している」、とか
「儂の伴侶になってくれ」、とか…
何かいい言葉を探さねばと必死で考えているうちに、儂はあの子がいる病室の前についたのだった。
残務処理に疲れてウトウト舟を漕いでいた儂は、何かが執務室の窓を叩く音で目が覚めた。
「ん…あれは?」
近寄ると一匹のコウモリがそこにいた。
両翼を広げ、右へ左へ体を揺らして入れろと主張している…
「まさか、先生の使いか!?」
儂は急いで窓を開ける。
コウモリはパタパタと飛んで執務室の机に乗る。
先生の…使い魔?じゃったか、昼間にそれをわざわざ使うなど、何か急なことが有ったに違いない。
儂はコウモリに正面から話しかけた。
「先生、どうした」
するとコウモリから先生の声がする。
「エース!大変なことが起きたよ!!」
そう言うと、コウモリは一旦静かになった。
……先生は、良いことの報告やどうでもいい報告の前にこうやって気を持たせる癖がある。
多分悪い事ではなかろうと待っていると、コウモリから「じゃん!」の声の後に待ち侘びた吉報がもたらされた。
「何と!クロエくんが!目を!覚ましたよぉ~!」
「何!?」
「意識もしっかりしてるし、君に話があるって言ってるし、よかったら来れば?」
「わかった!」
こうしてはおれん、戦後の処理なぞ部下に任せて、今すぐあの子の元へ行かねば。
「あとは任せる!」
儂は急いで部屋を出て、階段を駆け下り、傷病兵の転がる広間を大股で歩く。すぐにでも飛んでゆかねば…と思うが、さすがに人目を気にせねばならぬからな。
そう、冷静にならねば…。
あの子に余裕のない大人だと思われとうないからの。
疾る気持ちを抑えながら外へ出ると、包帯でぐるぐる巻きにされた「鬼神」を抱えたロウと出会う。
「ああ、お前が騒いどったのは、それか」
「それ、じゃない!ソラ!」
「ちょっと深くいきすぎたのぉ…儂もまだまだよ」
「エースの馬鹿!」
鬼神の首筋を見ると、まだ噛み跡がない。
「…眷属になれば、傷もすぐに塞がる。術を使う場所なら執務室の左の部屋が空いておるからそこへ行け」
「うん…」
「なぁに、お前さんならきっと…成功する」
「…うん」
儂は、上手く出来なかったが…それは「条件」とやらのせいであるらしいし、ロウは儂よりずっと前から眷属をやっておるのだから、大丈夫じゃろ。
「………………」
いかん、自分で言うておいて落ち込むなぞ、
頼れる大人の姿ではなかろう。
砦を出ようとすると、追いついてきた部下が言う。
「殿下、どちらへ!?」
「長めの糞じゃ!来るなよ!」
急いで茂みの中へ体を隠す。
儂は体を黒い霧に変え、山へ向かう風に乗った。
「良い風じゃ、これならすぐにつく」
あの子が儂に話したい事…
どうせ戦の責任がどうのこうの言うんじゃろう。
「あーあ、戦の事より、儂を惚れさせた責任のほうを取ってくれんかのう…」
それにしても、「解除条件」か。
あの子を儂のものにする…か…難しいのう…。
もう、言ってしまおうか。
「儂のものになれ」と…。
…しかし、これでは「儂の奴隷になれ」と言うとるみたいに聞こえるかもしれんな。
「ああ、何て言えばいいんじゃろ……」
初めての恋でもあるまいに、儂ときたら、気の利いた事も言えぬではないか…。
ならばここはまっすぐ、
「ずっと前から好きだった」、とか
「おまえを愛している」、とか
「儂の伴侶になってくれ」、とか…
何かいい言葉を探さねばと必死で考えているうちに、儂はあの子がいる病室の前についたのだった。
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