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執事と執事
相棒は回想する 2 ~トリエステ視点~
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俺は必死にウルフレッド君を宥めた。
「申し訳ありません、言い過ぎました…」
喧嘩売りに来たって言っても、表向きは相談者だ。
ちゃんとカウンセリングしなきゃいかん。
俺は気を取り直して、彼に問いかけた。
「私の言葉で、一番辛かったのは何ですか?」
「お、お、おこ…うっ」
「お子様って言葉が、辛かったんですね」
って事は、リチャードにお子様扱いされて辛い…ってことか?
恋人だって思ってるのはこいつだけとか?
でも、リチャードは一回寝ただけで恋人面するような奴を誘ったりしないはずだし、寝てもいないのに勝手に恋人面してる奴にはキツイお仕置きを食らわすタイプだし…
っていうか、リチャードが恋人を作る事自体が信じられん。
どういう事だろうか、と俺が今までのカウンセリング経験から何とかひねり出そうとしていると、ウルフレッド君が小さな声で呟いた。
「お子…お子様、ほしい…けっこんしたい」
「はっ?」
「りちゃーどさんと結婚したい。
りちゃーどさんの子どもが欲しい。
でもだめって…不幸になるって」
「ああー…そりゃまあ、駄目でしょうなぁ」
「なんで…」
「正直言って、ユーフォルビア家と関係が強くなればなるほど危険は増しますからね」
「きけん…?」
「さっき仰いましたよね?屋敷の外から監視されてる…って」
「そ、それは…」
どうやら、ユーフォルビアに近づく危険性については理解してなかったらしいウルフレッド君。
このままだと人さらいに会いそうだからついでに忠告しておく。
「監視されてるのは気のせいでは無いと思いますよ?
ユーフォルビアを守る為に色んな組織が手を回して下さってますから、その方かもしれませんが」
結婚するまでは子どもを産む道具として、今では金を生む道具として狙われ続ける坊ちゃま。
坊ちゃまを直接狙っても駄目なら、俺やリチャードを人質にすれば…って考える連中は多い。
なんせ坊ちゃまが俺たちを「さん」付けで呼ぶから、大事な人間なんだろうと考えるのは自然だ。
「とは言っても、昔よりずっと安全にはなりましたよ。
坊ちゃまは誰に対しても知恵を惜しまない方ですし、それなら危険な橋を渡らずとも…って事なんでしょう。
それでも、知恵を独り占めしたい奴はいますし、気を付けるに越したことはありません」
そんで、色んなところが色々と牽制し合って、今は均衡が保たれてる感じ?
坊ちゃまのすごい所は、思い付きだけじゃなくてそのバランス感覚だ。
そのおかげで、俺もリチャードも普通に生きていられる。
改めて考えると、とんでもないお方だ…
とまあ、それは今置いといて。
「それに、ウルフレッドさんは王宮勤務でしょ?
ただでさえ根も葉もない噂で他人を追い落とそうってのはどこにでもいますし、そもそもリチャードは元男娼でしょ?それで有る事ない事言われてあなたが傷つくのが嫌なんじゃないですかね」
「……わたしのことを、しんぱいして?」
「まあ、多分…。
なんせリチャードが恋人を作った事なんて、俺が知る限り一度も無いもんで…
データが無いって言うか」
「えっ、そうなんですかっ!?」
ウルフレッド君は一瞬嬉しそうな顔をして、それから悲しそうな顔になって、言った。
「じゃあ、どうしたら…」
「っていうか、どうしてもあいつと結婚しないと駄目なんですか?」
「だって、一生一緒にいたいんです」
「じゃあ一生一緒にいられれば、結婚しなくても良い?」
「その…それは、どういう…」
そう、なりふり構わず、リチャードと共に居たいと彼が願うなら…。
俺は口調を変えて彼に問いかけた。
「ウルフレッド君。
俺はリチャードの恋人になった事は無いが、30数年来の親友ではある。
だからこそアドバイス出来る事はあるが…どうする」
「ど、どうする、って…」
俺はウルフレッド君の目を見て、言った。
「今の地位を捨てて、新しい道に踏み出す勇気はあるか?」
俺はウルフレッド君に覚悟を求めた。
リチャードと生半可な気持ちで付き合って欲しくないという想いも込めて。
彼はじっと俺の目を見返して、ゆっくり頷いた。
「…本気だな?」
「はい」
「じゃあ、明日から料理を習うんだ」
「…はい?」
「ウルフレッド君、リチャードが一生ユーフォルビア家に仕えると決めているのは知っているな?」
「はい、それは…その姿勢こそが、私が彼を好きになったきっかけで…」
ウルフレッド君は可愛らしく頬を染めた。
だが今はそういう時では無い。
俺は自分の話を続けた。
「そのユーフォルビア家には料理人がいないな?」
「はい、いません…って、まさか…!?」
「そう、そのまさかだ」
庭師じゃ俺の代わりにしかならないが、料理人なら誰の代わりでもない。
つまり、誰とも比べられる不安が無い。
それに庭師はもう、ブレティラ殿とそのご伴侶がいるし…ハーブ畑専門だそうだけど。
「通常業務をこなしつつ学ぶんだ。
体力的に厳しいかもしれないが…」
「…やります、やってみせます!」
そうして、ウルフレッド君と俺は握手をして別れた。
「申し訳ありません、言い過ぎました…」
喧嘩売りに来たって言っても、表向きは相談者だ。
ちゃんとカウンセリングしなきゃいかん。
俺は気を取り直して、彼に問いかけた。
「私の言葉で、一番辛かったのは何ですか?」
「お、お、おこ…うっ」
「お子様って言葉が、辛かったんですね」
って事は、リチャードにお子様扱いされて辛い…ってことか?
恋人だって思ってるのはこいつだけとか?
でも、リチャードは一回寝ただけで恋人面するような奴を誘ったりしないはずだし、寝てもいないのに勝手に恋人面してる奴にはキツイお仕置きを食らわすタイプだし…
っていうか、リチャードが恋人を作る事自体が信じられん。
どういう事だろうか、と俺が今までのカウンセリング経験から何とかひねり出そうとしていると、ウルフレッド君が小さな声で呟いた。
「お子…お子様、ほしい…けっこんしたい」
「はっ?」
「りちゃーどさんと結婚したい。
りちゃーどさんの子どもが欲しい。
でもだめって…不幸になるって」
「ああー…そりゃまあ、駄目でしょうなぁ」
「なんで…」
「正直言って、ユーフォルビア家と関係が強くなればなるほど危険は増しますからね」
「きけん…?」
「さっき仰いましたよね?屋敷の外から監視されてる…って」
「そ、それは…」
どうやら、ユーフォルビアに近づく危険性については理解してなかったらしいウルフレッド君。
このままだと人さらいに会いそうだからついでに忠告しておく。
「監視されてるのは気のせいでは無いと思いますよ?
ユーフォルビアを守る為に色んな組織が手を回して下さってますから、その方かもしれませんが」
結婚するまでは子どもを産む道具として、今では金を生む道具として狙われ続ける坊ちゃま。
坊ちゃまを直接狙っても駄目なら、俺やリチャードを人質にすれば…って考える連中は多い。
なんせ坊ちゃまが俺たちを「さん」付けで呼ぶから、大事な人間なんだろうと考えるのは自然だ。
「とは言っても、昔よりずっと安全にはなりましたよ。
坊ちゃまは誰に対しても知恵を惜しまない方ですし、それなら危険な橋を渡らずとも…って事なんでしょう。
それでも、知恵を独り占めしたい奴はいますし、気を付けるに越したことはありません」
そんで、色んなところが色々と牽制し合って、今は均衡が保たれてる感じ?
坊ちゃまのすごい所は、思い付きだけじゃなくてそのバランス感覚だ。
そのおかげで、俺もリチャードも普通に生きていられる。
改めて考えると、とんでもないお方だ…
とまあ、それは今置いといて。
「それに、ウルフレッドさんは王宮勤務でしょ?
ただでさえ根も葉もない噂で他人を追い落とそうってのはどこにでもいますし、そもそもリチャードは元男娼でしょ?それで有る事ない事言われてあなたが傷つくのが嫌なんじゃないですかね」
「……わたしのことを、しんぱいして?」
「まあ、多分…。
なんせリチャードが恋人を作った事なんて、俺が知る限り一度も無いもんで…
データが無いって言うか」
「えっ、そうなんですかっ!?」
ウルフレッド君は一瞬嬉しそうな顔をして、それから悲しそうな顔になって、言った。
「じゃあ、どうしたら…」
「っていうか、どうしてもあいつと結婚しないと駄目なんですか?」
「だって、一生一緒にいたいんです」
「じゃあ一生一緒にいられれば、結婚しなくても良い?」
「その…それは、どういう…」
そう、なりふり構わず、リチャードと共に居たいと彼が願うなら…。
俺は口調を変えて彼に問いかけた。
「ウルフレッド君。
俺はリチャードの恋人になった事は無いが、30数年来の親友ではある。
だからこそアドバイス出来る事はあるが…どうする」
「ど、どうする、って…」
俺はウルフレッド君の目を見て、言った。
「今の地位を捨てて、新しい道に踏み出す勇気はあるか?」
俺はウルフレッド君に覚悟を求めた。
リチャードと生半可な気持ちで付き合って欲しくないという想いも込めて。
彼はじっと俺の目を見返して、ゆっくり頷いた。
「…本気だな?」
「はい」
「じゃあ、明日から料理を習うんだ」
「…はい?」
「ウルフレッド君、リチャードが一生ユーフォルビア家に仕えると決めているのは知っているな?」
「はい、それは…その姿勢こそが、私が彼を好きになったきっかけで…」
ウルフレッド君は可愛らしく頬を染めた。
だが今はそういう時では無い。
俺は自分の話を続けた。
「そのユーフォルビア家には料理人がいないな?」
「はい、いません…って、まさか…!?」
「そう、そのまさかだ」
庭師じゃ俺の代わりにしかならないが、料理人なら誰の代わりでもない。
つまり、誰とも比べられる不安が無い。
それに庭師はもう、ブレティラ殿とそのご伴侶がいるし…ハーブ畑専門だそうだけど。
「通常業務をこなしつつ学ぶんだ。
体力的に厳しいかもしれないが…」
「…やります、やってみせます!」
そうして、ウルフレッド君と俺は握手をして別れた。
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