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執事と執事

相棒は回想する 1 ~トリエステ視点~

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これは、ルースが出産する1週間ほど前の話。

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俺、ことユーフォルビア流性相談クリニック理事トリエステは、優雅にコーヒーカップを傾けるリチャードに言った。

「なぁリチャード、お前ウルフレッド君と結婚しないの?」
「ブフッ、な、なんだよ急に!」

コーヒーを吹き出して慌てている美中年執事リチャードは俺の…親友?

まあ、セフレだったり同僚だったり共犯者だったり、仲を表す表現は色々変わったけど友情だけは変わらない…そういうやつだ。
もう何年になるんだか…。
出会った時はお互い10代前半で、男娼デビューが同じ店で同じ月だったんだ。

リチャードは昔から面倒なやつに惚れられるタイプで、客と揉めて店を転々とすることもあったけど、それでも縁が途切れずに続いて、しまいにゃ一緒にユーフォルビア家へ潜入する事になって今に至る、って感じ。

そんな親友に一途な恋人ができた…と聞いたもんで、ロイ様と陛下に診療状況の報告に来たついでに顔を見にきたって訳。

「って言うか、なんでお前が知ってるんだよ」
「はは、俺にも独自の情報ルートがあるのさ」
「こんな事に独自のルートとやらを使うんじゃねえよ…」

眉間に拳を当ててため息をつく親友。
だけどまんざらでも無さそうだ。
俺はもう一度同じ質問をしてみた。

「で、何で結婚しないの?」
「何でって…守れる気がしねーからだよ」
「守れる守れないって、もうユーフォルビアに手を出す奴なんかいねぇだろ」
「そりゃうちの屋敷にいればの話だろ?
 あいつは王宮勤めなんだよ」

ありもしないスキャンダルをでっちあげて上を追い落としてその後釜に収まる。
坊ちゃまのいる王宮ってのはそういう所だ。
ほんと、大変な場所で頑張っていらっしゃる坊ちゃまには頭が下がる。

「んじゃウルフレッド君が王宮執事を辞めたら?」
「何であいつが執事を辞めるんだよ。
 評価されてるし、給料もいいし、坊ちゃまとの関係も良好だし、辞める理由が無いだろ」
「んー…まあ、客観的に見ればそうかもな」
「何が言いたいんだお前」
「いや?何でもない」

いや、何でも無くはないんだが…
事は3か月前に遡る。

***

ある日、王宮勤めの独身貴族が予約を申し込んで来た。

カウンセラーに俺をどうしても指名したい、という事だったので、予定をやりくりして何とか開けた。

そうしてやって来たのが…

「ウルフレッド・サンセベリアと申します」
「これはどうも、ご丁寧に…」

なんと王宮執事…今は王太子正室付官吏代理のウルフレッド君だった。

彼は俺に手土産を渡すと、立ったまま話を切り出した。

「単刀直入にお聞きします。
 トリエステ殿は、リチャードさんとどういうご関係ですか」
「へっ」
「こちらでの仕事に区切りがついたら、ユーフォルビア家にお戻りになるご予定はありますか」
「えっ」
「リチャードさんとご結婚の予定は…」
「ちょっと待ってください!?」
「待てません!リチャードさんの今の恋人は私です、貴方はもう昔のっ」
「だからちょっと待って」
「待ちません!答えてください、今すぐ!!」
「だから落ち着け!!」

彼は髪の毛を振り乱しながら必死で喋っていた。
俺は彼の言動が予想外すぎて戸惑った。

何?リチャードの恋人?
どういう事??

「ともかく、座ってください。
 今お茶を淹れますから」
「……」

俺はウルフレッド君に椅子を進め、心が落ち着くというハーブティーを…

「…このハーブティー、まさかリチャードさんが」
「いや、アイリス商会から発売されてるやつです」
「…そうでしたか」
「ユーフォルビア家伝統の配合レシピと同じなので、リチャードの茶と同じ香りがするんでしょう。
 味の方は分かりませんけどね」

俺は謙遜でそう言ったつもりだった。
ところが奴は無表情でこう返した。

「そうですね、雑味が多いし香りも足りない」
「茶の入れ方なんか分からないもんでね」
「…この茶で、客をもてなす…」
「文句があるなら帰ってください」

俺がそう言うと、奴は俺を睨みつけながら言った。

「帰りません!あなたと話をつけに来たんです、私は!!」
「だから一体何の話を」
「リチャードにこれ以上付きまとわないでっ!」
「………は?」

待て待て、さっきより意味が分からなくなったぞ。
こいつがリチャードの恋人だってのもまだ理解が追いつかないのに…

「俺が何でリチャードに付きまとうんだよ……
 理由がなさすぎるだろ」
「だって殆ど休まない彼が、あなたに会う為には休みをとるなんて、おかしいじゃないですかっ」
「だから何でそれで付きまとうことになんだよ」
「うっ……や、屋敷の外から監視してるくせに!」
「俺そんな暇じゃねーーーー!!」

どうやらこいつ、俺に喧嘩を売りに来たらしい。
俺は超絶イラついたので、はっきりと言ってやった。

「何勘違いしてるか知らねーが、大体、俺とリチャードは恋人でも何でもねーからな?」
「な、なんでですか!」
「何でも何も、恋人になった事は一度もねえ!
 過去も現在も未来も!!」
「で、でも、身体の関係はあったって、」
「そーいう友人関係もあんの。
 お子様にはわかんねーだろーけどな!」
「おっ…お子様っ…!!」
「大体、リチャードと寝てるくらいで恋人…え?」

やばい、言い過ぎた…と思ったがもう遅い。
ウルフレッド君は目からポロポロと涙をこぼして唇を噛んでいた…。

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