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執事と執事
及第点をあなたに ~リチャード視点~
しおりを挟む会合を終えて屋敷に帰ってみれば、すっかり仕事は終わって後は風呂掃除だけになっていた。
そもそも王宮で雇われるほどの執事なのだからこの程度出来るのは当然だろう。
「やはり優秀なのだな」
俺なんぞ王宮へ務めたら2日で首が飛ぶだろう…
そもそも礼儀作法はユーフォルビア家に潜入する前に付け焼刃で覚えた物だし、掃除と洗濯はした事があっても料理はした事が無かったしな。
腹が減っても食うものがない家だったし、娼館に売られてからも当然料理と縁は無く…
「ま、それを言ったらトリエステは庭木なんかいじった事なかったけどな」
最初はお互い酷いもんだった。
出来る所からコツコツと、何とか無い頭を振り絞ってやってきて、何とか今の居場所を掴んで、それから…
出世させてもらった。
俺も、トリエステも。
「よく首にならなかったよな…」
多少の失敗は笑って許して下さった旦那様方にも感謝しかない。
「さて、今日ぐらいは風呂掃除を免除して差し上げるとするかな」
そう独り言ちながら、今日溜まった課題のメモを手に、俺は自室へと足を運んだ。
***
「お帰りなさいリチャードさん」
「ただいま戻りました、サンセベリア様」
彼を家名で呼ぶことで、もう今日は仕事を終えて良いと言外に伝える。
「あの、風呂掃除は…」
「本日は私が済ませます、お先にどうぞ」
「あの、でも…」
「本日は誠に有難う御座いました」
強引に話を終わらせて自室へこもる。
彼が風呂に入っている間に課題を整理してしまおう。
ルース坊ちゃまのお知恵を借りるのに、問題点を洗い出さないで行くなど出来ない。
「しかし、どこも悩みが贅沢になってきているな」
今までは性技を紹介するだけで足りた事も、新しいサービスや他店との差別化、最近では待機している娼夫も利益を生めるようにならないか等々…
「こうなったら、もっと細かくジャンルを分けるか…
いっそその街に所属する娼夫全員の情報を案内所に登録して、人を紹介できるレベルまで引き上げるか…」
ナンバーワンを抱きたい気持ちも分かるが、オンリーワンの相手を探し出す楽しみを提案できれば…
「…部屋に行く前に、人となりを多少なりとも知る事ができればどうだろうか」
いっそ待合をティールームにして、そこで娼夫に待機してもらって、会話をしてみて相手を決める…
「娼館でも外見と中身とのギャップが問題になる事があるしな」
逆にそのギャップがたまらないという客も…
「うん、提案する価値はあるかもしれない」
…では、これらの案件についてはこの提案を坊ちゃまに話してみるとしよう。
それからこっちは…
「…しかし、目がかすむな」
仕方ない、もう40も半ばのオッサンだしな。
「…先に風呂へ行くか」
アレが帰って来る様子は無いが、それなりに時間は経っているから大丈夫だろう。
「しかし今日は疲れたな…」
さっさと風呂の用を済ませて寝よう…
明日の仕事に差し支えてはならんしな。
そう思ってタオルと替えの下着を持って部屋を出ると、まだお仕着せを着たままのアレがいた。
は?どういう事?
こいつ人の厚意を何だと思ってんの?
「…まだ入っていなかったのですか」
「最後の仕事まで、きちんとしなければと思いましたので…」
まじかよ、空気読めよお前…。
たまには一人で入りたいんだって、こっちも。
「今日はお一人でお疲れになったでしょう?
ご無理なさると明日に差し支えますよ」
「しかしそれは、リチャードさんも同じで」
「私は慣れておりますから良いのです」
「しかし…」
あーもうめんどくせえ。
一緒に入ればいいんでしょ一緒に入れば!!
「仕方ありません、参りましょうか」
「はい!」
ったく、何元気に返事してんだよ。
しょうがねえなあ…
「サンセベリア様も、流儀の全く異なる場所でよく頑張っておられますね」
「…そうでしょうか」
「元々優秀な方なのが分かります。
たった2週間で、良くぞここまで頑張られましたね」
「…そうですか?」
多分今日の評価を待ってるんだろうな、と思ったらその通りだったらしい…
いつも風呂で反省会みたいな事してるから。
ったく、何ちょっと嬉しそうな顔してんだか…
困ったもんだな。
「私が帰って来るまで風呂掃除をせずに待っておられたでしょう?
それはあなたなりに効率を考えた結果であると同時に、私の事を思いやってくれた結果でもあるのでしょう?
ルース坊ちゃまは身分を考慮されないお方。
相手の身分に関わらず誰にも同じように気を回せるのは大事な事です」
「……!」
「さあ、早く最後の仕事を終わらせて休みましょう」
「はいっ!」
いいお返事をして俺の後ろをついてくるアレ。
「ったく…」
何で俺なんかに懐こうとしてんだよ。
お前優秀なんだからさ、もうちょっと懐く相手は選んだ方が良いんじゃねーの?
「やれやれ」
返す返すも困ったもんだ。
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