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あの人は今

元主治医とカール伯父さん 4

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朝も早々、陛下に呼ばれて執務室へ行った俺は、とあるお誘いを受けた。

「ルース君、カール殿と元主治医の彼を会わせようと思うんだけど、君、立ち会うかい」
「ええ、是非。いつの予定でございましょう」
「うん、今日の昼にね、お茶会形式で」
「今日っ!?」

最近分かってきた。
王家の人は俺に予定を直前に言う。
殿下しかり、おじいちゃん先生しかり…。

俺の予定は1年前から決まっているというのに!
…とは言っても、学術交流会と魔法学会と全国領主会議…最近出来た、年に1回王宮へ各地の領主が集まって話し合う会議…くらいだけど。

今日の予定ってどんなだっけ…と俺が考え込んでいると、次期国王正室付官吏から王太子正室側近になったアレクさんが代わりに答える。

「今日は夕方に試食会があるくらいでござる」
「じゃあ参加できそうだね、よろしく」
「かしこまったでござる!」

陛下の前で「…っす」はまずかろう、と言われた結果、語尾が「ござる」になったアレクさん。

順調に面白くなってきたな…大丈夫か?

そんなアレクさんに陛下は白い封筒を渡す。

「それじゃ、これ招待状。よろしくね」
「はいでござる」

招待状を書いたんならもうちょっと先に言ってくれても良かったのでは…。
今更言っても仕方ないけど。

「それでは、また午後に会おう」
「はい、失礼致します」


俺は急いで離れに戻り、早速招待状を開けた。
そこには場所と日時、参加者名が書かれており…

「……ルージュ様……?」

なぜに。

***

有難い事に場所は王宮カフェだ。

「本日はお招き頂き、有難うございます」
「お父上方におかれましては、ご機嫌麗しゅう」

俺と殿下は揃って両陛下にご挨拶申し上げる。

「どれでも好きなものを頼んで良いよ!
 私はココアにしようかな…カレルは?」
「私はいつものカフェオレ。カール殿は?」
「はい、私もカフェオレをお願い致します」
「ではココア2つとカフェオレ2つとオレンジジュース1つ、後はサンドウィッチ盛り合わせを7人前と…」

国王陛下自らご注文をして下さる。
伯父さんが俺に確認する。

「ルースはコーヒーを控えてるんだっけ」
「うん、だから育児がひと段落したら絶対飲もうって決めてる」
「本当?嬉しいな」

新しくメニューに増えたカフェオレは、この前のお試しデートでコーヒーにハマった伯父さんが、砂糖とミルクの黄金比を試し続けてついに辿り着いたレシピだ。

「ここでの評判も上々だし、王都にコーヒーショップを展開できるかも…」
「そんな大げさな…」
「いや、王宮の味と銘打てば、集客は見込める」
「そしてゆくゆくは世界展開…コーヒーの本場・シャラパールに乗り込む!」
「夢が拡がるねえ」

なんて、そんな話をしていたら、向こうから本日の主役が付き添いを伴って現れる。

「すみません、お待たせ致しました!
 あっ、僕はシュガーバタートースト、バターましましで!
 こちらにはカフェオレお願いします」
「あ、あの、私は水で…」

伯父さんの元主治医、シュタインさんとルージュ様だ。

「あ、先生、久しぶり…」
「カールさん…お久しぶりです」

ルージュ様は、裁判が長引いた結果世間からすっかり忘れ去られたのを良い事に、将来の「闇魔法心療師」として国王陛下にスカウトされ、今は貴族牢で娼夫という身分で生活している。

なぜ娼夫なのかというと、活動拠点が色街周辺になる予定だからだ。
トリエステのクリニックと提携する話がすでに進んでいる…と執事リチャードから聞いた。

そんなルージュ様の隣に座ったシュタインさんは、伯父さんとぎこちない会話を続けている。

「元気、そうですね」
「うん…大分良くなったから。
 でも半分は先生のおかげ…ありがとう」
「そんな、私は減薬とリハビリだけで…心と身体を充分休めるように計らったのは前の先生ですし」
「うん、最初の先生好きだったよ、優しかった」
「そう…ですか」

おじさんの中では、シュタインさんはもう過去の事としてカタがついているのだろうか。
それとも、軽い当てつけだろうか。

「『最初の先生「も」か…』」
「カール殿もなかなか言うようになったな」
「確かに」

海沿いの療養所にいた頃からは想像できない回復ぶりだ。

この姿を見て、元主治医は何を思うのだろうか。
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