526 / 586
新婚旅行
リリー侯爵家のやぼう
しおりを挟む
神殿での会談と視察を終え、お隣のリリー領へ。
言わずと知れたカート君の実家…
侯爵家の中でも「ぱっとしない」家柄だと言われてきたカート君のお父様たちは、自分の子が「王子の側室」ではなく「正室の補佐」になった事を受け止めきれずちょっぴり錯乱した。
そして、
「うちの子だってこんなに賢くて可愛いのに!何故抱けないと仰るのですか!!」
「魔法だって我が領では余る程、正に王家に相応しい腕前でございます!
ルース様とどこが違うと言うのですか!?」
…なんて王宮の前庭で叫んで、殿下に
「ふむ、年齢・見た目・性格・料理の腕…
違うところしか見当たらんがな」
とバッサリ斬られた。
そして一晩貴族牢で頭を冷やして頂く事態になったりした。
でも「うちの親がすみません…」って言いながらそこら中にお詫びして回るカート君はどこか嬉しそうで…
多分、ご両親が自分のことを本当はしっかり認めてた事が分かったからだと思うけど。
「親バカにも程がありますよね!
ほんと困っちゃいます!えへへ!!」
なんて言ってたしな。
まあ悪い事ばっかでも無かったし、正門から内側の事だったし、結果オーライってことで。
馬車はそろそろリリー侯爵邸に着きそうだ。
俺は殿下に一応の確認をした。
「リリー侯爵って、もう今はカート君のお兄さんなんでしたっけ?」
「ああ、王宮へ直訴しに来る前に家督を譲ったとのことだ」
「めっちゃ決死の覚悟で来たんですね…」
何でそこまでして家柄に拘るんだろう。
死んでも家の格を上げたいなんて…
「ふむ、王の直系に物申すのだから当然といえば当然だが…少し前時代的な感じもするな」
「エルム公やら魔法師団長やらを処刑した後でしたしねえ」
まあ処刑した後だったから貴族牢が空いてたんだけどさ。
「処刑の場にお前が居たのも関係するかもしれんな」
「そりゃ、居ない訳にいかないでしょ?」
気分の良いモンじゃないけど、俺が殺したんだって事をちゃんと受け止めておかないと…
俺が犠牲にならなかったせいで死者が出たって事、ちゃんと心に刻まないと…
ユーフォルビアが再興した後、また同じ様に貴族達を甘やかす人が出ないように。
俺が決意を新たにしたところで、馬車は止まる。
「殿下方、つきましたですよですよ!」
今日もアレクさんの敬語は順調におかしい。
あーいとぅいまてん、っていつの間にか言いそうな口ぶりに、肩の力も抜けて…
「さて、降りるか」
「ええ」
俺は平常心で、リリー侯爵家の歓待を受ける事が出来た。
***
俺と殿下は、カート君のお兄さんとその伴侶さんと一緒に庭でお茶を頂く。
お茶請けに栗の渋皮煮が出てきて、そういえば…と俺が訪ねる。
「栗を名産にとお考えなんでしたよね?」
「ええ、このあたりでは、栗は家内安全・子孫繁栄の象徴なんです。
領民の家にも必ず1本は植えられていますし、うちの庭にも栗林があります」
「ふむ…イガの中に複数個の実が入っているからか?」
「ええ、まるで身を寄せ合うように…そしてその実はトゲで守られていますから」
「そういう下地があってからの栗…なるほど、特産品にするにはうってつけですね」
保存のきく甘露煮や渋皮煮は、昔からこのあたりで食べられていた方法らしい。
あとは干してカチグリにしたり…。
「最近は皮むきの失敗分や形の悪いものも粉に加工して販売していますよ」
「そうなんですか、それはまた便利な…是非購入してみたいですね!
どちらで販売を?」
「今は卸販売のみなんです。
試供品に1kg程用意しておりますので、お持ち下さい」
「本当ですか!有難う御座います」
いえいえ、とカート君のお兄さんは言って、甘露煮と渋皮煮の瓶をコトリと机の上に置き…
急に領主の顔になった。
「…その代わりといっては何ですが、この特産品に付加価値を付けて頂けませんか」
「付加価値…?」
思わず聞き返した殿下に、新・リリー侯はニッコリ顔で言った。
「何せ砂糖は高い。
出来るだけ高く、出来るだけ早く売り切らないと、やっていけません」
「…原価率が高いのが問題という事なら…」
「ええ、それは重々。
ですが原価に合わせた値段設定では高すぎてとても売れない…
付加価値が無ければ」
「つまり王宮御用達とか、王家御用達とか、そういう事ですか?」
「いえ、もっと突き詰めて、王太子両殿下のご重用、の看板を頂きたく」
「…ほう?」
リリー侯の計画はこうだ。
まずは甘露煮や渋皮煮は王家の…それもお菓子作りが専門(!?)の俺と無類のスイーツ好きである殿下が気に入るほどの逸品であることを浸透させて、富裕層向けにこれを販売する。
そして「あのリリー領生まれの瓶詰め栗の味のお菓子」として栗パウダーを使ったお菓子を流行らせる…
「最終的には、この領の栗の価格自体を引き上げる。
そうすれば領民たちの収入が増え、税収が増えれば、小麦を他から購入して備蓄に回す事も出来ます。
その麦の分、まずは試験的にサトウダイコンの作付を増やし…
それが成功すれば、甘露煮も渋皮煮も、この領で採れるものだけで作れる。
そうすればこの商品は、本物の特産品になる…」
リリー侯は熱い口調で計画を語る。
それを黙って聞いていた殿下が口を開く。
「…それがリリー家の経営戦略、か?」
リリー侯の伴侶さんが言う。
「ハイペリカム領で生産しているデニー産小麦も、ルース殿下ご愛用の話が出て数年であそこまで成長しました。
であれば、我が領の栗も成功できる可能性はあるという事です」
そしてリリー侯爵は言う…
「何より、ハイペリカム家に出来てリリー家に出来ないという事は無いでしょう?」
何?なんで急にハイペリカム家の名前…
俺は首を傾げ、殿下は…
「まさか、貴殿の代でまで張り合っているとは」
「ええ、馬鹿げているようにも見えますが、これはこれで張り合いが出るというものですよ。
そのおかげでお互い放蕩貴族にならずに済んでいると思えば、改める必要も無いかと」
えっ、何?
リリー家とハイペリカム家って…
ライバル関係やったん?
言わずと知れたカート君の実家…
侯爵家の中でも「ぱっとしない」家柄だと言われてきたカート君のお父様たちは、自分の子が「王子の側室」ではなく「正室の補佐」になった事を受け止めきれずちょっぴり錯乱した。
そして、
「うちの子だってこんなに賢くて可愛いのに!何故抱けないと仰るのですか!!」
「魔法だって我が領では余る程、正に王家に相応しい腕前でございます!
ルース様とどこが違うと言うのですか!?」
…なんて王宮の前庭で叫んで、殿下に
「ふむ、年齢・見た目・性格・料理の腕…
違うところしか見当たらんがな」
とバッサリ斬られた。
そして一晩貴族牢で頭を冷やして頂く事態になったりした。
でも「うちの親がすみません…」って言いながらそこら中にお詫びして回るカート君はどこか嬉しそうで…
多分、ご両親が自分のことを本当はしっかり認めてた事が分かったからだと思うけど。
「親バカにも程がありますよね!
ほんと困っちゃいます!えへへ!!」
なんて言ってたしな。
まあ悪い事ばっかでも無かったし、正門から内側の事だったし、結果オーライってことで。
馬車はそろそろリリー侯爵邸に着きそうだ。
俺は殿下に一応の確認をした。
「リリー侯爵って、もう今はカート君のお兄さんなんでしたっけ?」
「ああ、王宮へ直訴しに来る前に家督を譲ったとのことだ」
「めっちゃ決死の覚悟で来たんですね…」
何でそこまでして家柄に拘るんだろう。
死んでも家の格を上げたいなんて…
「ふむ、王の直系に物申すのだから当然といえば当然だが…少し前時代的な感じもするな」
「エルム公やら魔法師団長やらを処刑した後でしたしねえ」
まあ処刑した後だったから貴族牢が空いてたんだけどさ。
「処刑の場にお前が居たのも関係するかもしれんな」
「そりゃ、居ない訳にいかないでしょ?」
気分の良いモンじゃないけど、俺が殺したんだって事をちゃんと受け止めておかないと…
俺が犠牲にならなかったせいで死者が出たって事、ちゃんと心に刻まないと…
ユーフォルビアが再興した後、また同じ様に貴族達を甘やかす人が出ないように。
俺が決意を新たにしたところで、馬車は止まる。
「殿下方、つきましたですよですよ!」
今日もアレクさんの敬語は順調におかしい。
あーいとぅいまてん、っていつの間にか言いそうな口ぶりに、肩の力も抜けて…
「さて、降りるか」
「ええ」
俺は平常心で、リリー侯爵家の歓待を受ける事が出来た。
***
俺と殿下は、カート君のお兄さんとその伴侶さんと一緒に庭でお茶を頂く。
お茶請けに栗の渋皮煮が出てきて、そういえば…と俺が訪ねる。
「栗を名産にとお考えなんでしたよね?」
「ええ、このあたりでは、栗は家内安全・子孫繁栄の象徴なんです。
領民の家にも必ず1本は植えられていますし、うちの庭にも栗林があります」
「ふむ…イガの中に複数個の実が入っているからか?」
「ええ、まるで身を寄せ合うように…そしてその実はトゲで守られていますから」
「そういう下地があってからの栗…なるほど、特産品にするにはうってつけですね」
保存のきく甘露煮や渋皮煮は、昔からこのあたりで食べられていた方法らしい。
あとは干してカチグリにしたり…。
「最近は皮むきの失敗分や形の悪いものも粉に加工して販売していますよ」
「そうなんですか、それはまた便利な…是非購入してみたいですね!
どちらで販売を?」
「今は卸販売のみなんです。
試供品に1kg程用意しておりますので、お持ち下さい」
「本当ですか!有難う御座います」
いえいえ、とカート君のお兄さんは言って、甘露煮と渋皮煮の瓶をコトリと机の上に置き…
急に領主の顔になった。
「…その代わりといっては何ですが、この特産品に付加価値を付けて頂けませんか」
「付加価値…?」
思わず聞き返した殿下に、新・リリー侯はニッコリ顔で言った。
「何せ砂糖は高い。
出来るだけ高く、出来るだけ早く売り切らないと、やっていけません」
「…原価率が高いのが問題という事なら…」
「ええ、それは重々。
ですが原価に合わせた値段設定では高すぎてとても売れない…
付加価値が無ければ」
「つまり王宮御用達とか、王家御用達とか、そういう事ですか?」
「いえ、もっと突き詰めて、王太子両殿下のご重用、の看板を頂きたく」
「…ほう?」
リリー侯の計画はこうだ。
まずは甘露煮や渋皮煮は王家の…それもお菓子作りが専門(!?)の俺と無類のスイーツ好きである殿下が気に入るほどの逸品であることを浸透させて、富裕層向けにこれを販売する。
そして「あのリリー領生まれの瓶詰め栗の味のお菓子」として栗パウダーを使ったお菓子を流行らせる…
「最終的には、この領の栗の価格自体を引き上げる。
そうすれば領民たちの収入が増え、税収が増えれば、小麦を他から購入して備蓄に回す事も出来ます。
その麦の分、まずは試験的にサトウダイコンの作付を増やし…
それが成功すれば、甘露煮も渋皮煮も、この領で採れるものだけで作れる。
そうすればこの商品は、本物の特産品になる…」
リリー侯は熱い口調で計画を語る。
それを黙って聞いていた殿下が口を開く。
「…それがリリー家の経営戦略、か?」
リリー侯の伴侶さんが言う。
「ハイペリカム領で生産しているデニー産小麦も、ルース殿下ご愛用の話が出て数年であそこまで成長しました。
であれば、我が領の栗も成功できる可能性はあるという事です」
そしてリリー侯爵は言う…
「何より、ハイペリカム家に出来てリリー家に出来ないという事は無いでしょう?」
何?なんで急にハイペリカム家の名前…
俺は首を傾げ、殿下は…
「まさか、貴殿の代でまで張り合っているとは」
「ええ、馬鹿げているようにも見えますが、これはこれで張り合いが出るというものですよ。
そのおかげでお互い放蕩貴族にならずに済んでいると思えば、改める必要も無いかと」
えっ、何?
リリー家とハイペリカム家って…
ライバル関係やったん?
11
お気に入りに追加
2,467
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる